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小さく頷くと、寺島たちと話を終えた悠太が肩を叩いた。
「とりあえず、服屋に行くとするっすか」
「はい」
「こんなもんっすかね」
辺りを見渡しながら軽い口調で言う悠太に、大量の紙袋を抱えながら、司は眉を下げた。
「悠太くん、さすがにこれは買いすぎでは……」
「まさか! これでも大分セーブしたんっすよ?!」
司の主張に眉を上げ、悠太は腰に手を当てる。
「っていうか、司っちが主張しなさすぎなんっす。何で白と黒ばっか選ぶんっすか」
思わぬ叱られ方をして、司は紙袋に顔をうずめながら上目遣いで悠太を見る。
「……えっと、失敗しない無難な色かと……」
か細い主張に、悠太が眦を決する。
「せっかくの美形が台無しじゃないっすか!」
「ごめんなさいごめんなさいっ」
逃げるように荷物の中へ顔をうずめる司から、いくつか紙袋を取り悠太は呆れたように笑う。
「俺、一つだけ分かったっすよ。
司っちは、記憶を失う前から洋服のセンスが無かった」
言われ、ぐぬぬと上目遣いで不服を主張する。口でも何か反論したかったが、残念ながら悠太の主張はおそらく合っている。ブティックに行き、まず愕然としたのが服の量だった。おしゃれに飾られた洋服たちを前に、司は絶句した。こんな量の服は知識に無い。すなわち、来たことが無い。すなわち、どうしたらいいのか分からない。
愕然とする司を置き去りに、悠太はどんどん店内を進んでいく。慌てて追いかければ、彼の腕には既に何点か洋服がかかっていた。あまりの早さに目を瞬かせる。
「司っちはどの服が好きっすか?」
そう言って差し出されたのは、白と紺のTシャツを重ねたシャツ……だろうか。もう片方にはカーキの薄手のスプリングコートを持っている。どの服が好きかと聞かれても困る。どれもこれもいい気もするし、どれでも同じような気もする。だが、白と黒は無難な色だと知識は知っている。ならば、と、Tシャツを指さした。軽く頷き、悠太はそれを司に手渡す。クエスチョンマークを浮かべる司の身体をクルリと回転させ、奥の試着室を指さす。
「サイズとか見なきゃなんで、来てみるっす」
言われるまま試着室に入って服を着てみる。おかしい所は無いように思う。やはり白は無難な色なんだなとひとつ頷くと、カーテンの向こうから悠太が声をかけてきた。
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