やどかり
深山泰弘
第1話
「ボス、すっごく小さくなっちゃたけど、大丈夫なのか?」
「はい。この状態でもお話できるみたいです」
「そっかー。でも、足がなくちゃあ色々不便だろ?」
「よくわかんないけど、つかってない?身体が他のボスみたいにあるから、それにとっかえれば元通りみたいだよ!」
「へー!すごーい!」
「不思議だねー!」
「ヤドカリの殻、みたいなものなのかな?」
「新作のヒントになりますか!?先生!」
「ヤドカリ?」
「温かいちほーの海に住んでいる生き物で、空っぽになった貝殻を住処にしているらしいよ」
「へー」
「小さいフレンズさんなんですね」
「なんでも、自分に合った貝殻を見つけるとそれを常に持ち運んで、敵に襲われたらすぐ隠れられるようにしているらしい」
「なかなかかしこいでありますな!」
「いつでも逃げ込める家があるのは安心っすよね」
「そして成長するにつれて段々大きな貝殻を探して住処を移していく。だからヤドカリ、という話だ」
「なるほど。ボスはヤドカリのフレンズ、の仲間かもしれないということか」
「違うと思うけどな~」
「ラッキービーストはヒトが作ったパークガイドロボなのです」
「何度言えばわかるのです」
「似たようなものだろう」
「駄目なのです」
「ヘラジカの耳にせつめい、なのです」
「でもよかったねー。ボス、またもとの姿に戻れるんだ」
「アライさんも、それを聞いて安心したのだ!とっても心配したのだ!」
「はい!よかったです!」
「でもさ、せっかくヤドカリ?みたいに交換できるなら、今度は手があるのを探した方が便利じゃないか?」
「え!?ボスって手があるのもいるの!?」
「え、いや、わからん。が、もしあるならって」
「ふーむ……言われてみれば、パークの保全作業の為に手のようなものを備えた個体がいてもおかしくは……」
「だったら!アライさんみたいに器用な手がいいのだ!」
「じゃあじゃあ!足も、わたしみたいにたかーくジャンプできる足の方がいいよ!」
「ちょっと、サーバルちゃん」
「ジャンプ力などなくても、空を飛べば一発なのです」
「山でも谷でもひとっ飛びなのです」
「博士達まで……」
『空は~飛べ~なく~ても~♪』
「ふるる!対抗して歌わなくていいから!」
「だって悔しくな~い~?」
「……ふるる、案外負けず嫌いなんだな」
「私達はその代わり歌って踊って泳げるでしょ」
「歌? 歌なら私にまかせて。いっぱい練習したから」
「歌はみなさんには敵いませんが、声真似なら負けませんよ」
「なんか、話が段々変な方向に進んでない……?」
「みんな負けず嫌いだよね~」
「皆、それぞれ違いはあれど、自慢の一芸を持っているということだな。かく言う私も、突進力ならばカバにもライオンにも負けぬ自信がある」
「あら、随分自身がお有りのようですわね」
「ふふふ、勝負してみるか?」
「攻めるのも大事ですが、守るのも同じくらい大事、ですわよね、かばんさん」
「え、あ、はい。そうですね」
「では、次の殻はわたくしみたいな重厚なものがよろしいと思いますわ」
「いやいや、私みたいに攻防一体のトゲトゲこそオススメですー!」
「せ、拙者の隠密能力はどうでござるか……?」
「いいや、やっぱり敵を一撃で粉砕できる腕力だ!」
「磁場、感じられるよ」
「またこの子はわけのわからない事を……」
「ありゃー。かばんさーん、収拾がつかなくなってきたよー」
「ボス、大人気だね。みんなボスのことが気になるんだよ」
「あ……そっか」
「ラッキーさん、ラッキーさんはもし別な殻に移れるなら、どんな殻がいいですか?」
「……」
「ボクハ、前ト同ジボディガイイナ。ミライガ作ッテクレタモノダカラ」
「ラッキーさん……」
「うん、ぼくも、また生まれるなら、ぼくに生まれたい。最初はすごく駄目な動物だと思っていたけれど、みんながぼくにもできる事を教えてくれたから」
「だから、ぼくはまたぼくに生まれたい」
「わたしも!またサーバルキャットに生まれて、かばんちゃんといろんなところを冒険したい!」
「アライさんもなのだ!かばんさんについていくのだ! フェネックも、いっしょなのだ!」
「あいよー」
「やれやれ、ボスには敵わないな」
「誰しもが長所短所を持っていて、そこに優劣など存在しないということを、ボスが一番分かっていたということか」
「そーかもねー」
「ふふ、いいネタいただきました」
「いっぱい喋ったら喉乾いたでしょ? さ、お茶をどぉぞ」
おしまい
やどかり 深山泰弘 @omochidenight
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