妖怪 足舐め

あひみての

妖怪足舐め。

取材


「あははは。それにしても、なんでこんな事に?いや、失礼。笑い事ではないのですが、いや、失礼」


今井さんとおっしゃる週刊誌の記者が、先ほどから笑いを堪えられずに、この言葉を連発していらっしゃる。


私は愛想笑いをしながら、この話を内心飽き飽きしながらしていますのに…。確かに、我ながら人生最大の珍事件に巻き込まれたと言う自覚はございます。自分でも呆れ果てております。はい。


行きつけのBARの常連である弁護士の先生に頼まれ、この今井さんという記者の取材を受ける事を承諾いたしました。


「 見た目は怪しいけど、ちゃんとした人だから大丈夫だよ。無理だと思ったら断って良いから」


と仰っていたいた先生の言葉に反しまて、至って普通の愛想の良い中年のおじさんだった事に安堵いたしましたものの、赤の他人に根掘り葉堀り聞かれるのはあまり気分の良いものではございません。


ほんの10分ほど前、この記者の今井さんと駅で落ち合い、側にある喫茶店に入って話をする事になったのでございますが、喫茶店の中にはマスターとお客様が3人。1人はカウンターに座りマスターと話し込んでおります。残りの2人は私たちが座っている席から一つテーブルを空け、お互いに携帯を触っていらっしゃいます。その様な閑散とした店に薄くジャズが流れておりました。極めて静かな空間で、この記者ときたら、やたらと大きな声で話すものですから、居た堪れないのでございます。話している内容が店内の全員に漏れ聞こえているに違いありません。

私ならば、この話に興味津々、お耳がダンボになるに決まっております!


「お待たせいたしました。ホットコーヒーとカフェラテでございます」


そう言って、カップを差し出すマスターも必死に無表情を作っているように見えたのでございました。


今井さんという記者はノートを広げ、到底他人には読めないような雑な字で、メモを取りながら、


「どうぞ、飲んで下さいね」


と言いつつ、飲む間を与えないほど質問してまいります。店内には、彼の声がやたらと響き、この店を選んだ事を心底後悔している私は一刻も早く家に帰りたいと、そればかり考えておりました。

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