行列の出来るヒグマカレー
しろごはん
ヒグマカレーただいま営業中!
「オーダー!甘口2丁辛口1丁、つごう甘口4丁っす!」
「あ、リカオンさん3番テーブルにお冷の追加お願いします!」
「よし、キンシコウそれ提供したら休憩入ろうか!」
黒セルリアンを倒した後、博士達に『りょうりにん』と
やらにされてしまったヒグマ。しかし、それももう遠い昔のようだ…。
色々あったが今はとても充実した日々を過ごしている。
「ふぅ、疲れたっす~ちょっときゅーけー。」
「お水冷たくて美味しいです♪」
「キンシコウとリカオンの接客もすっかり板についてきたな。
どうだ、そろそろ厨房に入ってみるか?」
「え?でも私達火が…。」
「悪い悪い、冗談だ。調理は全て私に任せてくれ。」
今までも3人で協力してフレンズの為に出来る事をやってきた。
そしてこれからの私達に出来る事は…
「明日はもっとお客様の笑顔が見たいです!」
「明日はもっとお客さんの笑顔が見たいっす!」
「二人ともすっかり立派になったな、もう精神面では私が教える事は何もない。」
「あの…ひとつ聞いてもいいっすか?」
リカオンが少し怪訝な顔で尋ねる。
「うむ、何でも答えてやるぞ」
「私達のお仕事って一体何でしたっけ…?」
「セルリアンハンターだ!」(即答)
「ですよね~」
翌日
「リカオンさん、これぐらいでいいですか?」
「もう少し?後10cmくらい近づくの?…あんっ!もうダメっ限界ですぅ!」
(あ、何か今のちょっとえっちかも…)
「あ!リカオンさん!しっぽ!しっぽから煙出てますよ!」
「うわぁ!」
三日目
「リカオンさん凄いです!ちゃんとふーふー出来てます!」
「うん、弱火ならだいぶ近づけるようになったんだけどまだまだっす。」
「私も頑張らないと、フレンズさんの為に…あちっ!」
「キンシコウさん!大丈夫っすか?」
「ん、大丈夫です。私達が頑張って少しでもヒグマさんの負担を減らせるなら…」
五日目
「えと、ヒグマさんによると『ナスは水分が多いから要注意』だそうっす。」
「えーっと油の温度は…まだちょっと低いかな。」
「リ、リカオンさん今、指…油に指入れてませんでした?」
「え、そうっすか?全然気づかなかったっす。」
「無意識だったんですか?凄いです!」
これは私も負けてられません!えいっ!」
「やん!痛たた…包丁で指を切ってしまいました。」
「キンシコウさん、血が!」
「ん、大丈夫です。これぐらい吸っておけばいずれ止まりますから。」
そう言うとキンシコウは少し苦しそうに片目をつぶり、人差し指を咥えて
チューチューと吸い始めた。
「わ、これもなんかえっちかも…(ドキドキ)」
「!!」
「リカオンさん!油!火が!火が!」
気付けば油の入った鍋から今にも天井まで届きそうな勢いで火が吹き出していた。
「うわぁ!早く水!お水!」
「あ、水はダメです!こういう時はえと、ええっと…」
バサバサーッ!
「大丈夫かっ!お前たち!」
「ヒグマさん!!」
ヒグマは濡れタオルを素早く鍋にかぶせ火からおろした。
「バカヤロー!火を扱う時はあれ程目を離すなと言っただろう!」
「ごめんなさい、うわぁぁん!」
「キンシコウも大丈夫か?」
「あ、はい、それよりリカオンさんが…」
「うぅ…ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい…。」
「すまん、怒鳴ってしまって。だがこれだけは覚えておいてくれ
火は便利なものだ、りょうりも出来るし夜は明かりの代わりにもなる。
だが使い方を間違えれば大変危険なものだ。」
「キンシコウ、ちょっと手を見せてみろ。」
「え?きゃっ!」
そう言ってヒグマはキンシコウの右腕をひょいと持ち上げた。
「水ぶくれの跡だらけじゃないか。接客だけでどうやったらこんなになるんだ?」
「あ、えっと…」
「リカオン、ちょっとこっち来い。」
ヒグマはリカオンを優しく抱きしめた。
「実はお前たちが火を克服しようとここで色々やっていたのは知っていた。」
「うぅ…え?」
「無理しなくてもいいんだぞ、フレンズによって得意な事は違うんだ
お前達は今のままでも十分頑張ってくれてるよ。」
「でも、私もヒグマさんの為に少しでも役に立ちたくて…
すっごく暑い時も汗だくになってりょうりしてるヒグマさんを見てたら…。」
「バカ、そんな事で気を遣うな。私は好きでやってるからいいんだよ。」
「でも、うぅ…。」
「それに私の役に立つ…は違うな。今まで私達は何の為に戦ってきた?」
ヒグマはキンシコウの目を見ながらゆっくりと尋ねた。
「フレンズのみなさんが安心してジャパリパークで暮らせるように
セルリアンを退治する事です。それがセルリアンハンターである私達の使命です!」
「そうだ。」
「これからも一緒に頑張ろうな!」
ヒグマは二人の肩を抱き寄せた。
「はい!」
「オーダー!了解っす!」
…
………。
ヒグマ達がゆうえんちで店を出してからあっという間に1ヵ月が過ぎ、
各地から集まってきたフレンズも少しずつそれぞれのちほーへ戻っていった。
そしてかばん達が旅立って数日後、博士達がヒグマの元に訪ねてきた。
「ヒグマ達の作るカレーは思ったより評判がよいのです。」
「それぞれのちほーでも食べたいと各地のフレンズから要望が来てるのです。」
ヒグマは思案した、他のちほーのフレンズにもりょうりを食べてもらいたい。
しかし、ここを離れる訳にはいかない…明日も明後日も予約が入っているのだ。
「そうだ、あの二人なら!」
早速ヒグマは二人を呼び寄せた。
「屋号はそれぞれキンちゃんカレー、リカちゃんカレーでいいな?」
「えっと、ヒグマさん?話が全然見えないんですが…。」
「のれん分けというやつだ、お前たちにはこれから別のちほーでりょうりを
作ってもらいたい、そしてたくさんのフレンズにりょうりを届けてくれ。」
「マジっすか、自分達にはオーダーきついっすよ…。」
「キンシコウはロッジの食堂、リカオンは図書館で頑張ってくれ
それぞれアリツカさんと博士達にも手伝ってもらえるそうだ。いけるな?」
「えっと…まぁそれはいいとして店名は2号店と3号店でいいっす。」
「なんだ、気に入らんのか?」
「いえ、私達はまだ独立して店を出せる程ヒグマさんの味に近づけてないので…。」
「そうかそうか、謙虚なやつだなぁ。」
ヒグマは満面の笑みを浮かべながら二人の肩を叩いた。
(よかったっす…)
(危なかったです…)
そして、いよいよ旅立ちの日…
「リカオン、くれぐれも火の扱いには気を付けるんだぞ。」
「はい、もうあんなのはこりごりっす…。」
「キンシコウ、あんまりお客さんに色目使ったらダメだぞ。」
「そ、そんな事しませんよ!てか、今までもした事ありませんよ!」
「他のちほーのフレンズにもしっかり『りょうり』の美味しさを伝えてきます!」
「美味しい『りょうり』でフレンズの皆さんを笑顔にしたいっす!」
リカオンとキンシコウは目に涙を浮かべながらそう言った。
「何泣いてんだよ二人とも…今生の別れでもあるまいし。
そうそう、たまにこっそり味をチェックしに行くから覚悟しとけよ!」
どこまでも澄んだ空に三人の明るい笑い声が響いた。
「ヒグマさん、最後にひとつ聞いていいっすか?」
「なんだ?」
「私達のお仕事って一体なんでしょうか?」
「セルリアンハンターだ!」(即答)
「ですよね!」
行列の出来るヒグマカレー しろごはん @siro55
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