かばんちゃん風邪を引く

けものフレンズ大好き

かばんちゃん風邪を引く

 黒セルリアンを倒してから数日後――。

 今日もかばんちゃんはサーバルちゃんと一緒にパーク内を旅しています。

「今日はどこに行こっかー?」

「そうだね、えっと――」

 不意にかばんちゃんの視界が揺らぎます。


「あれ? あれ?」

「どうしたのかばんちゃん!?」

「なんでもないよ。ちょっと――」

 そう言ったときには既に身体は傾いていました。

 そしてそのまま地面に倒れてしまいます。

「かばんちゃん!?」

「カバン!? カバン!?」

「だ、だいじょうぶ、だよ、2人とも」

 そう言った声はとても弱々しく、サーバルちゃんの心配は募るばかりです。

「そ、そうだ、博士呼んで……、ううん! としょかんに直接連れて行く!

 幸いにも2人がいたのはしんりんちほーで、としょかんはそこまで遠くはありませんでした。


「うみゃみゃみゃみゃー!」


 かばんちゃんを文字通り小脇に抱えて走り出す、サーバルちゃん。

 サーバルちゃんらしいぶっきらぼうな走りに、かばんちゃんは余計体調が悪くなる気がしましたが、黙っていました。


「博士ー!」

「なんです騒々しい」

「われわれは静かな空間を好むのです」

「かばんちゃんが! かばんちゃんが!」

 サーバルちゃんは2人が座っていた机の上に、かばんちゃんを載せます。

「かばんがどうしたというのです?」

「た、たいへんなの! いきなり倒れちゃったの!」

「私が見た限りでは、お前の方が色々大変なのです。しかし、ふむ……」

 博士はかばんちゃんの様子を見ます。

「顔が赤く、額が熱く、そして……」

 博士はかばんちゃんの口を強引に開けさせます。

「喉もちょっと赤いですね。これはおそらくあれですね助手」

「あれですね博士」

「なに!?」


『風邪です』


「……かぜ?」

 サーバルちゃんは首をかしげます。

 健康優良児のサーバルちゃんは、今まで一度も風邪を引いたことはありません。

 そもそもフレンズ自体あまり風邪は引きません。

「ヒトはたまにこうして風邪を引いて弱ってしまうのです」

「おそらくフレンズ化が解けて、風邪を引きやすい身体に戻ったのでしょう」

「ど、どうすればいいの!?」

「ヒトは風邪を薬で治すらしいですが、ここにはそんな物はありません」

「しばらくの間安静にしているのが一番いいでしょうね」

「かばんちゃん……」

 それからかばんちゃんをとしょかんの人間用の宿泊施設に連れて行き、寝かせることにしました。

 かばんちゃんはベッドの入ると、そのまますぐ寝てしまいましたが、大分辛そうです。

「かばんちゃん! しっかり!」

「周りであまり騒ぐと良くないのです」

「お前ただでさえうるさいのですから」

「うみゃー……」


 それからサーバルちゃんはかばんちゃんに会わないようにしましたが、かばんちゃんの体調あまり良くなりません。


「ねえ博士! かばんちゃんはどうなの!?」

 そして今日も博士に様子を聞きます。

「大分こじらせているようですね」

「あまり物も食べられないのです」

「そんなぁ……そうだ! 確かみずべちほーのジャパリまんがとっても美味しかったら、それならかばんちゃんも食べてくれるよ!」

 サーバルちゃんは今までの鬱憤を晴らすかのように駆け出します。

 

 しかし……。


「うみゃー……」

 PPPぺぱぷのらいぶがあった頃と違い、閑散としている今は、ジャパリまんを持っているラッキービーストもそれほどいません。

 いてもあの時食べたジャパリまんは持っていませんでした。

「あれ、サーバルじゃない、どうしたの?」

「あ、マーゲイ! 実は……」

 サーバルちゃんはたまたま会ったマーゲイちゃんに、事情を説明します。

「そんなことが……。確かそのジャパリまんだったら、向こうのボスが持ってたような」

「ありがとマーゲイ!」

「かばんさんに私からもよろしく言っておいてねー!」


 マーゲイちゃんの言っていたところに行くと、はたしてあのジャパリまんを持ったラッキービーストが。

 ただちょうど、お腹を空かせたコウテイちゃんが残り一つを手にしようとしていたところでした。

「まったー!」

「え?」

 文字通りサーバルちゃんが横からジャパリまんをかっさらいます。

「ごめんねコウテイ! 後でお返しするから!」

「・・・・・・・」

 突然のことに気絶してしまったコウテイちゃんの耳に、残念ながらサーバルちゃんの言葉は届きませんでした……。


「うみゃーなんでー!?」

 行くときはあれほど晴れていたというのに、帰り道は大雨です。

 サーバルちゃんはジャパリまんが少しでも濡れないように、毛皮ふくの中にしまって走りましたが――。


「うみゃっ!?」


 泥水に足を取られて何回も転んでしまいました。

 それでもサーバルちゃんは前に進み、としょかんに駆け込みます。

「博士! かばんちゃんは?」

「サーバルちゃん」

 まだ少し体調は悪そうですが、かばんちゃんはもうベッドから出て起きていました。

「かばんちゃん大丈夫!?」

「うん。逆にさーばるちゃんがいなかったから心配してたよ。それよりそんな泥だらけになってどうしたの?」

「あ、そうだ、かばんちゃんこれ!」

 サーバルちゃんはしまっていたジャパリまんを取り出します。

 しかし、何回も転んで泥水につかってしまったジャパリまんは、とても食べられたものではありませんでした。

「せっかくかばんちゃんのために持ってきたのに……私、私……」

 サーバルちゃんは悔しさと情けなさで、今にも泣きそうな顔をしてしまいます。

 するとかばんちゃんは、迷わず汚れたジャパリまんにかぶりつきました。

「かばんちゃん!?」

「……けほっ。やっぱりちょっと無理があったね。でもぼくはサーバルちゃんがわざわざがんばって持ってきてくれたことだけで、本当に嬉しいんだ。絶対に無駄なんかじゃないよ。だから安心して」

「かばんちゃーん!!!」

 結局サーバルちゃんは泣いてしまいました。

 かばんちゃんはそんなサーバルちゃんを、優しく抱きしめました。


 そして――。


「かばんさんが病気と聞いたのだ! アライさんがしっかり洗ったジャパリまんを持ってきたのだ!」

「アライさーん、そんなものはアライさん以外食べないってー」

「のだ!?」


 泣いた後は2人でひとしきり笑うのでした。


                                  おしまい

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かばんちゃん風邪を引く けものフレンズ大好き @zvonimir1968

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