墓標


 本棚は見上げる程の高さを持ち

 その高みから僕を見下ろす


 チカチカと点滅する弱々しい蛍光灯は

 手をかざしたところで血の色を教えてはくれない


 目眩がする

 彼らが持つ濃密な物語に中てられて


 吐き気がする

 彼らと違って僕はあまりに希薄に過ぎた


 どれだけ軽薄な人生を過ごして来たのだろう

 どれだけ詰まらない人生を迎えて行くのだろう


 物語たちは麻薬のように一時は僕の人生を彩って

 現実に返った僕をピエロのように嘲笑う


 あまりの苦しさに膝を折れば

 一層厳しく彼らは僕を見下すのだ


 そうして僕は


 逃げるように

 彼らの一冊を手にとって

 溺れるように

 頁を繰る手を突き動かすのだ


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る