第17話 光太郎との別れと彼の正体
未来人の光太郎と過去にやって来た僕(桜井 隆之介)は,親友の坂本 宏樹が屋上から飛び降りようとしているところを何とか説得し,止めることができた。無事に宏樹を救うことができたため,光太郎は未来へ帰ろうとしていたが,僕には光太郎の正体についてある考えがあったのだ。
「光太郎,お前実は,未来の僕の子供なんじゃないか?」
僕が心を決めて,今まで言えなかったことを彼に言ったのだが,言われた当人はまだニヤニヤしたまま僕に聞いてきた。
「何でそう思ったの?」
そう思った理由はいくつかあったのだが,僕は一つずつ彼に説明することにした。
「さっき光太郎は僕のことをいろいろ褒めてくれただろ。未来のために高校生の意識を変えたとか。でも,本当に僕はそんな立派な人間じゃないんだ。宏樹や舞のためにできることはしようと思うけれど基本的に自分のためにしか動かない人間で,苦手な後輩にも怖がって避けるようなどうしようもなく情けない奴なんだよ。でも光太郎の言うとおり,今日の僕はなぜか違った。未来の高校生のための計画を立てたり,苦手な高杉にもなぜか立ち向かえた。それで何でそんなことができたのか考えたんだ。考えた結果,全部光太郎が関わってたことに気付いた。」
光太郎はさっきとは違い,今は真剣な顔で僕の話を聞いていた。
「うん。それで?」
彼に聞かれた僕は続けた。
「それでまた考えた。じゃあ何で光太郎のためなら今までできなかったことができたんだろうって。今までも多分未来のためにできることはきっとあったのに,それをしてこなかった僕がなんで光太郎のためならできたんだろうって。自分でも良く分からない感情がそうさせたんだと思ったんだ。それは僕がこの時代で大事に思っている親友の宏樹に対する思いや,好きな人の舞に対する思いとも,両親に対する思いとも違う。未来人の光太郎に対する今まで感じたことのない独特の感情,もしかしてこれは自分の子供に対する感情なんじゃないかって思ったんだ。」
「ふーん。」
僕の考えを聞きながら,彼は真面目な顔で相槌を打っていた。
「もちろん確実な証拠なんてない,ほとんど勘だ。光太郎が僕に接する姿勢からそう判断したのかもしれないし,舞に良く似てて優しい光太郎が自分の子どもだったらいいのにという考えからの願望かもしれない。だから今まで言わなかったんだけど,今言わないという機会がないから,言ってみたんだ。どうせ次に会うのは二十五年後だろ?それで,答えは?」
僕は期待しないで彼に答えを促した。彼が少し前に,自分の親に自分が子供だと教える事はタイムトラベルのルールで禁止になることもあると言っていたからだ。もし違っていたら,違うという事は僕に言えるはず。だから彼が答えなければ,光太郎は僕の未来の子供ということなのだ。そんな考えから彼が答えないことを期待して,彼の言葉を待っていた僕に彼は少し笑って答えた。
「いや,それは言えないよ。」
僕はその言葉を聞いて嬉しくなり,彼に言った。
「だと思ったよ。タイムトラベルのルールだもんな。ということは光太郎は僕の未来の子供ってことでいいんだよな?」
と聞いたが,彼の答えは僕の期待していたものとは少し意味が違っていた。
「そうじゃない。もちろん,未来についてあまり語るのは良くないという意味もあるけど,俺が光太郎の子供かどうか教えないのはそれが理由じゃないよ。さっきも言ったでしょ,未来のことなんて分からない方がきっと人生楽しめるんだよ。だから言わない。」
笑顔でそう言った彼の言葉を聞いて納得した僕は,これ以上は聞いても無駄だなと思い,彼の素性を聞くのを諦めた。
「そうだな。どんな形で光太郎と再会できるのか,楽しみに待ってるよ。」
「うん,待っててよ。それじゃあ,もう大丈夫?俺もう未来に帰るよ?」
その時の僕の本音としては,未来人の彼に対して聞きたいことは山ほどあったし,彼が将来の子供なら言いたいこともたくさんあった。しかし,未来のことについてははっきり答えてくれないし,自分の子供なのか定かではない彼への最後の言葉は次のような激励の言葉しか思いつかなかった。
「じゃあ,本当に最後に一つだけ。宏樹にも同じようなことを言ったけど,光太郎も何か悩みがあってこの時代の僕たちに相談しに来たのなら,自分のやりたいようにやるといいよ。きっと未来で光太郎の成長を見守ってる僕はそう思うだろうし,同い年の友達としての僕もそう思ってる。自分の人生だから,周りを気にしすぎてたらもったいないよ,好きなように生きな。未来でも頑張れよ。」
それを真剣に聞いていた光太郎は,僕が言い終わった後,腕時計型のタイムマシンを少し操作して言った。
「うん,ありがとう。隆之介もこの時代で頑張って。じゃあね。」
彼がそう言ってタイムマシンのボタンを押した数秒後,屋上から彼の姿は消えた。
無事に宏樹を助けられ,光太郎も未来に帰すことができたことからの安堵の気持ちと,光太郎がいなくなったことからの寂しい気持ちを抱えながら,僕は屋上のドアから校舎に入り,舞が待つ教室へと向かった。
つづく
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