第46話

【俺の妹になってください】


四十六話


~ あらすじ ~


初めてのデートを終え、いよいよ文化祭を明日に控えた今日。事件が起きた。


******


どうしよう?と、皆が皆顔を見合わせていた。


もう、本番は明日だというのに柏木の衣装が無残にビリビリになってしまっていた。


本当にどうしよう?


「誰か治せない?」


リーダーが皆に問いかける。


「一応僕、裁縫できるけど、ここまで酷いと治せないかも………」


と、この服を作った名も知らぬ大人しそうな眼鏡女子がみなの間を潜りながら現れた。


ボクっ娘か。なかなか珍しいな……


でも、まあ、裁縫できない俺から見ても修復不可能ってくらいに破壊されてるしな……


というか、なんでこんなにビリビリになったんだ?訳が分からん。ちょっと引っ掛けて破けただけだったはずなのに、あとからボロボロと………


裁縫ってよくわからないなぁ。


「そうよね……」


「話は聞かせてもらったわっ!裁縫のできる人は私の家に来なさい。みんなで直せば早く終わるでしょうっ!」


そう言って勢いよく教室のドアを開いて正義のヒーローかのように参上したのは俺の残念な姉であった。


もう、頭が痛いです。帰ってもよろしいでしょうか?


「………あの、どちらさまですか?」


当たり前といえば当たり前だが、俺の姉さんに接点があるのはあの合宿のようなものの時に同じ班だった柏木、三ヶ森、山口だけなのだ。そりゃー知らねえわなぁ。


ものすごく、ここはあの人知らないで押し切りたいところではあるが、明日の文化祭何だかんだでみんなやる気になってたんだし、成功させたいからな……


なら、ここは泥を被ってでも出るべきだよな……


「ごめん。それ、俺の姉さんなんだ………」


「「「えー!!!似ても似つかねえっ!!」」」


と、皆が皆同じ声を上げた。


お前ら波長合いすぎだろ。こっちが「えー!?」だわ。


*****


そして、なんでか俺の家のリビングにて柏木の衣装ににたかる人達がいた。


理由は言うまでもないだろう。


柏木や橘、その他諸々のクラスメートたちには申し訳ないが俺は冷蔵庫からジュースを取り出し、二階の自分の部屋に直行した。


そして、最近発売されたゲームにのめり込んでいった。


俺は飯も食わずにそのジュース一本だけで自分の部屋に篭もり、気がつけばもう深夜二時。ゲームって怖いね。


そろそろ寝ないと明日起きれないから寝るか………


だが………


深夜テンションでゲーム内のフレンド達がボイスチャットで「逃げるのか?それは怠惰だ」などの挑発してきた。


というか、あんたら明日休みだからって遊びすぎでしょ!!だが、そんな挑発をされて引き下がる俺ではないわっ!!


****


そして、チュンチュンと雀が鳴き始めた。


朝のお知らせでございます。生憎、曇っていて薄らとしか明るくなかったのだが、朝は朝だ。


結局、俺は徹夜してしまった。深夜テンションって怖いなぁ。というか、大丈夫?俺一応大役持っちゃってるんだけど……


超眠いし……


そう思いつつも目を覚ますために顔を洗ってついでに歯磨きなんかも済ましてリビングに入ると、みんなぐっすりと眠っていた。


そういえば柏木の衣装はどうなったんだ?


と、辺りを見回すとカーテンを掛けるところにハンガーにかけられた衣装が引っ掛かっていた。


前はシンプルな感じのドレスっぽい衣装であまりぱっとしないイメージがあったが、華やかにアップグレードしていた。


すごいな………俺がゲームをしている間にこんなことになってるなんてっ!!


というか、そろそろ起こさないと遅刻だよな。


とりあえず、姉さんを起こす。


俺よりいつも早起きな姉さんの寝顔はなかなか目新しいものがあった。


普通に寝てればだが、彼氏のひとりやふたり作れると思うんだけどな………


「………ん、んぁ?」


頬を指先でぷにぷにしていると、子供らしい声を上げた。


そして、とろんとした目でこちらを三秒ほど見たところで「おはよう。」と、一言声をかけると、姉さんは顔をぼっと真っ赤にしてそっぽを向いた。


なんだこれ……?可愛すぎだろ。流石に俺も寝てないから眠いけど、なんか、今ので目が覚めたわ……


「お、おはよ。春樹……」


それから、しばらく経ってから挨拶が帰ってきた。


「お、おう……」


なんだか変な感じだ。姉さんにドキッとする時が来るなんてな………


「あ、大変っ!!遅刻しちゃうっ!みんな起きてー!!」


そんな姉さんの声でみんなも起き始める。


「おはよう。春樹」


「おう。お前の衣装いい感じに治ってるな。」


「みんな頑張ってくれたしね。今日は頑張らないとっ!」


「気合入ってるな………ふぁーあ。」


欠伸が出てしまった。


「もしかして、寝不足ですか?」


「あ、おはよ三ヶ森さん。まあ、そんなところだな」


「おはよーごさいますっ!」


妹の少し間の抜けた寝ぼけボイスが聞けたので、今日は頑張るしかないみたいだな。


******


なんだかんだバタバタしながらも、みんなで学校へと向かう。いつもは自転車で通っているが、昨日自転車学校において帰ってしまったので、仕方なく集団登校の中に混ざる。


「あれ?柏木はどこだ?」


「あんたの横よっ!!殺すわよっ!?」


「痛い痛いっ!!」


思いっきり腕を抓られた。


「じ、冗談だって…」


「次やったら殺るからね?」


「………は、はい…」


うーん。でも、本当に俺を殺せるのだろうか?こうなったら試しにどこまでやったら殺られるかが気になってくるよな。


*****


まあ、その検証はまた今度にするとして、あれから三十分。ようやく学校についた。


自転車だとそんなに気にならないが、やっぱりちょっと遠いよな。


「よーし、やるわよー!!」


そんな橘の鶴の一声で学校について早々文化祭の準備が始まった。


大体の準備は昨日のうちにしているので、あっという間に準備が終わり、劇の時間まで待機となった。


なら、少しくらい寝てもいいかな?


流石にちょっとやばいや……


ステージ脇は薄暗く、寝るにはもってこいだ。


俺はそっちに移動し目を閉じるとすぐさま夢の中へと落ちていった。


*****


バチンっ!と、何かが破けた音がした。


そっと目を開けると見知らぬ天井と、歯医者なんかに行った時に見るような眩しい白色の強めの電球が光っていた。


そして、その後にすぐナレーションが入った。


「山奥に、それはもう美しい王子が眠っていました。」


誰が美しいんじゃお前の目は節穴か。確かに寝てたし、今も二度寝でもしてやろうかと思ってるけど………というか、俺って王子役だったよな?


ということは、今俺は舞台の上で寝てるってことか?


おいおい……寝起きドッキリで舞台の上に上げてみたらどんな反応をする?みたいなテレビでやりそうなことを学生にするなよ……割とマジで洒落にならないぞ。


そんな時、柏木がいたずら前なんかによくやるゲスい笑顔を思い出した。


全部あいつの仕業か?


なら、負けられねえ。ここであいつの期待通りに動くのはだめだ。それは負けを意味する。


勝つにはどうすればいい?


そんなの決まっている。このまま流れに任せて終わるまで起きない。または、こちらが仕掛け人と言わんばかりの絶好なタイミングで起きる。これしかない。


とりあえず、寝た振りをしてここはうまいこと乗り切ろう。


そして、なぜか俺の位置だけは暗転してもまったくもって動かずに、物語だけが進んでいった。


そして、後半になり未だ俺は眠っているという演技をしている。


舞台、俺のすぐ横では柏木が俺のやるはずだった役回りをやっていた。


おかしい。俺の練習って一体なんだったんだろうか?


そう思うほどに柏木の演技は完璧だった。流石俺の彼女である。


そして、ラストシーン。


目覚めのキス的な部分に入ってきた。


薄らと目を開いてみると、柏木の顔が目と鼻の先にあった。


それは徐々に近づいてきて、なにか柔らかなものが唇に触れた。


…………え?


な、ななななんなんだ!?


本当にキスだと?なんで童話そのままにリアルなキスで目覚めないといけないんだよ………


起きねえ。俺はこんなことじゃ起きない起きないんだからねっ!!


そう自分に言い聞かせ、目を強く瞑った。


あぁ………だめだ。こんなキス起きざるおえないじゃねえかよ……


俺が目を開けると、柏木はやっと俺の上からどいた。


「私の勝ちね。王子様っ!」


そう無邪気に笑う柏木にやはり俺は敗北した。


******


台本通りではなかったが、第一公演目は大成功に終わり、役者である俺らは先に解放された。


「なんか、人多かったね…でも、とりあえず無事に終わったねー」


「そうだな……」


「春樹のあの顔、面白かったなぁ」


無邪気に笑いやがって………そんな顔されたら許しちゃうっ!……って、俺許すのかよっ!


「畜生。まんまとしてやられたな………」


「へへーんっ!無防備に寝てるんだもんっ!そりゃー使わざるおえないでしょー!!演技なんかよりリアリティを重視したらあーなるでしょ?」


観客の中から「あれ、マジでやってね?」とか、聞こえてきたがお前はそれでいいのか?文化祭だぞ?そこまでリアルにやる必要ないだろ。芸人じゃあるまいし………頭いい人ってどっかアホだよね。


「まあ、寝た俺も悪いしいいさ。というか、お腹減ってないか?」


「んー。まあ、ちょっと」


「んじゃ、文化祭回りますかー」


「「「おー!!!」」」


なぜか俺のそんな声に返事をしたのは柏木だけではなかった。


山口、橘、そして、俺の妹である三ヶ森さんだ。


「なぜお前らが?山口と三ヶ森さんはわかるが、橘はなぜ?次の準備とかは?」


「そんなにやることなんてないのよ。ほら、さっさと行きましょー!」


流れに抗うことが出来なかった。柏木も不機嫌には見えないし多分大丈夫だろう。


予定を狂わせまくられているが、予定通りに文化祭を回ることになった。

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