第43話

【俺の妹になってください】


四十三話


〜 あらすじ 〜


全てを自分のせいにし完全に自暴自棄なっていた所を柏木に殴られ、正気に戻った。そして三ヶ森と姉さんにできるだけのことは出来た。


*****


「………起きてっ!」


そんな一言で俺は目を覚ました。


「………え?」


見知った天井に、見知った顔……だけど、なんか違うな……姉さんってこんなに幼かったっけ?


「え?じゃないっ!!早く学校行くわよっ!」


「待て、なぜ俺の家にお前がいるんだ?」


そこには何食わぬ顔というか、いて当然かのように柏木が俺の部屋に居た。


「彼女だし?」


「いやいや、理由になってないから」


「もうっ!なんでもいいでしょ!?早く行くわよっ!」


逆ギレしそう。というか、もうしてるじゃねえかっ!全く、女という生物は怖いものだ。


「わかった。わかったからとりあえず出ていってくれ。着替えるから」


「なに?恥ずかしいの?」


「見たいのか?なら脱ぐぞー」


「じ、冗談よっ!!馬鹿ばかバカぁぁ!!」


そう言うとあいつは扉を勢いよく開けて出ていった。


朝からあんなに騒々しいと嫌でも目が覚めるな……


****


そして、学校。


姉さんもうるさく口を出してきたりしなくなったので姉から逃げるとかそういう面倒はなくなった。


これだけでもかなり俺の学園青春生活は楽になった。


だが、文化祭の主役ということには代わりなく………


今日も居残りであの橘の鬼畜指導を受けている。


「違うっ!!何度言えばわかるの!?ここは白雪姫を抱き抱えるのよっ!」


「何度もなにも、そんなの台本に………」


「つべこべ言わないっ!」


「は、はい………」


もう、敵いませんよ。女の人には。


それから、まあ、色々させられたが、とりあえず今日の特訓は乗り切った。


そして、彼女と一緒に家に帰ろうと駐輪場まで来たところで、後ろから声がかかった。


「風見くんっ!」


「なんか、久しぶりだね。三ヶ森さん」


「え?そうかな?」


「まあ、いいや。どうしたの?」


「相談があるんだけど………いいですか?」


妹と彼女。どっちが大事かなんて悩むものでもなかった。


「ごめん。舞。いいかな?」


「うん。わかった」


舞は快く承諾してくれた。


彼氏としてはなんか虚しい気もするが、信用されてると思えばいいか。


そして、柏木を見送った後に話を始めた。


「で?簡単に話せるような話かな?場所移す?」


横に首を振りそして、おもむろに口を開いた、


「今日はお礼したくて………」


「ん?何のこと?」


「あの日、助けてくれたよね?あれが無かったら私まだ学校来れてなかったかもしれない………」


なんて、返せばいいかわからなくて、スズムシの音だけが悲しげに響く。


「山口とは……話せた?」


「一応、普通に話せたよっ!」


「そう。なら、よかった」


「でね、あと一つ……」


顔を赤らめて俯く。


「どうしたの?熱でもある?」


「いや、なんでもないっ!またねっ!」


「お、おう………」


まあ、相談あればあっちから言って来るまで待つのが兄貴だよな。


そして、三ヶ森さんと別れて帰るために自転車に乗りこんだところに声が聞こえてきた。


「橘っ!」


「なによ?気安く話しかけないでくれるかしら」


山口が橘を追うようにしてこちらへ来た。


正門前だぞ?ほとんどのやつがここを使うんだぞ?でも、放課後で時間も結構経っているし、そんなに人影がないからってそんな話をしちゃっていいのかね?


「あの日のことなんてどうでもいい。俺はお前が…………」


「うるさいっ!!私はもうあんたの事はどうも思ってないから………」


「そ、そうだよな………あんなことして今更だよな……」


「あっ………」


「ごめん。帰るわ。引き止めて悪かったよ………」


なんだよ。これ。俺に見せつけてるのか!?


というか、なんでいつもいつも帰れねえんだよ。


そんなことを考えながらも自転車に跨って今か今かと帰るのを待っていると、山口は俯いたまましょんぼりと帰っていった。


そして、残った橘はため息をひとつ漏らしてからまた歩みを進めようとしたところでガッシャーン!!と、俺の自転車が倒れてしまい音を立てる。


「あ………」


そして、目と目が合う。


すげえ気まずいんだけど………


俯きながらもゆっくりと橘はこちらへ近づいてきて、顔をあげると橘の顔は真っ赤っかになっていた。


「もしかして、聞いてた?」


「あ、あぁ。ごめん」


「………言い訳はしないのね」


「聞いたことは確かだからな」


「そう………今日のことは忘れて?じゃないと特訓の強化するからね!!」


なんだか、見ているこっちが辛いほどに自分の気持ちに素直にならないで強がって平気なフリをする………


「………それは嫌だけど、お前はそれでいいのか?」


「………い、いいのよっ!」


「なら、特訓の強化でもなんでもしてくれ」


「そうよ。特訓の強化……って、え!?な、なんで!?忘れなさいよっ!」


「ということで、俺は忘れないし、なんと言っても口が軽いからなぁ。水素並みの軽さだからいつ言っちゃうかわからないなぁ」


馬鹿は意外と理系が得意だったりする。でも!難しい計算式あるやつはわからないよっ!


「し、信じらんないッ!!」


そう言ってキレながらも帰っていった。


理由なんて簡単だ。妹のため。決してあの二人のためではない。


とは、言ったものの……


特訓が増えるのは辛いな………


*****


そして、また新たな日を迎えた。


「はい。文化祭まで残り一週間となりました。」


放課後になった途端、橘が教卓の前に立ち仕切り始める。


「みんなは頑張ってるけど………そこのバカ!帰ろうとしないっ!」


「は、はい………」


また今日も特訓かと思うと帰りたいというか、帰ろうとしていた。


「というか、あんたが足を引っ張ってるのよ!?」


「ご、ごめんなさい………でも、言うだろ?褒めたら伸びるってなっ!」


「「「はあ…………」」」


「な、何故みんなしてため息をつく」


「あのね?少しでも出来たら褒めるわよ?でも、全然出来ないじゃないっ!」


「それもそうでした……」


もう練習が始まってから一ヶ月近くがたっているのに、俺の俳優としてのセンスが全く発揮されない。おかしいなぁ。才能ないのかな?


「こんなんで喧嘩ばかりしてるから伸びないのよ。口を動かす前に特訓とやらをしなさいっ!」


クラスの裏ボス的存在の柏木先輩が鶴の一声並みの一言を放つと、皆が皆自分の持ち場に着き、俺らはやはり練習………


俺もなんか作るヤツの方が良かったなぁ。不器用だけど……


「はいそこ、出番じゃないからってボケッとしないっ!」


「ご、ごめんなさい………」


橘といい柏木といい女という生き物はやっぱり怖い………


だから極力逆らわないように、敵に回さないように立ち回るのが利口だろう。


まあ、思いっきり敵視されてるけどな……


なんて思っている時、山口が視界に入った。


奴は木になりきっているようだが、視線は明らかに橘を追っていた。


それを気にしないようにして立ち振る舞う橘。


「橘。ちょっとだけ話いいか?」


「な、なに?」


「悪い。ちょいとこの場面での質問だ」


そう言って、俺らは上手いこと教室を後にする。


話もみんなに間違っても聞かれちゃならないような話だし、今は文化祭一週間前。みんな忙しそうにせっせと働いている。だから、場所を屋上へと移してから話を切り出した。


「なぁ。お前。人を教えられる立場か?」


「……え?なんのこと?」


「お前も演技下手くそじゃねえかよ。って話だ」


「私が?演技なんてしてないけど?」


あくまでシラを切り通すつもりなんだな?ならばこちらにも考えがある。


「山口、気にしてるだろ?」


「は、はぁ!?そそそそ、そんなわけないしー」


「……本当に演技ヘタだな」


「仕方ないじゃない………でも、今更……戻れないじゃない……中学の頃の告白する前の私には……だから、もういいの。終わりなの」


「……はぁ。終わりって腹を括った顔には見えないけどな」


橘はひとみをうるうるとさせて、必死に涙が出てしまうのを上向きになりながらも堪えていた。


「うるさいっ!もういいのよっ!!」


「さいですか」


ぷんぷん怒り、泣いて…と、超忙しい橘さんは風で乱れた髪を直しながら扉に手をかけ、ガシャンと勢いよく扉を開くとそこには、彼女の想い人がいた。


最低最悪のタイミングだな…


「あ、や、やぁ……」


「な、なんで?山口がここに………?」


「え、えっと………ごめん。盗み聞くつもりはなかったんだ」


二人は完全に青春という青春をしている。


なんだこのクソリア充。ぶっ壊してやろうかな?なんて、昔ならば思ったのだろうがこの状況を望んだのは俺だ。ならば、もう俺はここにいるべきではない。


「じゃ、教室戻るわー。じゃあなー」


そう一言残して俺は残暑残る屋上から立ち去った。


どうなるかはあいつら次第だろう。


そして、教室へと戻る途中に可愛げな少女がえっさほいさ。と、大きめのダンボールを三個ほどを山積みして運んでいた。


「三ヶ森さん。」


「あ、ああ。風見くん………」


「それ、持つよ」


と、三ヶ森さんから荷物を全部取ると、やっと三ヶ森さんの顔が見えた。


「ありがとー」


「いや、いいさ。というか女子にこんなの持たせるとか酷ぇな……結構重いし」


前も見えないぞあれじゃ。あぶねえじゃねえかよ。


「だ、大丈夫?一つくらい持つよ!」


「いや、いいさ。問題は無い」


「ううん。私もひとつ持つよっ!なにもしないのは悪いし……」


「そ、そうか?なら、いいんだけど………」


と、荷物を差し出すと、三ヶ森さんは一番上のダンボール箱を取った。


「優しいよね、風見くんって」


と、無垢な笑顔を向けてくる。眩しい。というかかわいいじゃねえかよっ!うっかり「全部お兄ちゃんに任せなさいっ!」とか、口走りかけたじゃないか。


「そ、そうか?じゃなくて、この荷物はどこまで運ぶんだ?」


「あ、えっと、体育館の放送するところらへんに持ってってって言われたよっ!」


「そっか。」


その指示を出したやつをぶん殴ってやりたいところだが、三ヶ森さんの可愛さに免じて許してやろう。こんな天使のような子も喧嘩なんて望まないだろうしな。


「………あの、風見くんは三ヶ森ちゃんと付き合ってるの?」


「………まあ、ね?」


隠しているわけでもなく、言い回ったわけでもないのだが、そう素直に聞かれるとムズ痒いというか、恥ずかしさで死にそうだ。


「そっかー。なんというか、その……頑張ってねっ!」


少しだけ、少しだけだが、三ヶ森さんの顔が曇ったように見えた。


でも、笑って応援されちゃったしな………多分、俺の見間違いかなにかだろう。


そんな会話を交わしていると目的の場所まで着いてしまった。


「よし、とりあえずこれでいいかな?」


「うんっ!ありがとー!」


「じゃ、教室戻ろうか」


「うんっ!」


俺の歩調に一生懸命に合わせようとして小走りを繰り返しては歩いてをしている三ヶ森さんはかわいい。が、流石に速度落とすか………


歩調を遅めるとなんだか嬉しそうに俺の横をてくてく着いてくる。


かわいいなぁ。本当に妹のようだ。


なんてみとれていると、目、合っちゃったよ………妹に嫌われたら俺死ぬ。どうする?なんてパニックになっていると、三ヶ森さんはニコッと笑って返してきた。


反則だろそれ………


「どうしたの?顔、真っ赤だよ?」


「え?あ、いや……」


「熱でもあるの?」


彼女がいるとはいえほかの女の人に照れてしまうのは仕方ないよね!でも、それがわからないのは天然だからか。よかった。間違って柏木の耳に入ったら死ぬ。


「いや、夕陽のせいだ」


なんて、適当に誤魔化しながらも教室へと戻った。


戻ると、柏木がスタスタと寄ってきた。


「あ、おかえり。橘さんは?」


「トイレじゃないか?多分な」


「………橘さんと一緒に出て行って、戻ってくる時には三ヶ森さん?………もしかしてだけど、浮気ってやつ?」


「もしかして、嫉妬?」


「ち、違うし馬鹿!」


挑発するようにそう言うと、顔を真っ赤にしながら手をぶんぶん振って顔を覆う柏木。


その仕草に俺の男心は揺らされた。


「………断じて違うし、俺がモテないのはお前がよくわかってるんじゃないか?」


やべえ。普通にかわいくてやべえ………


「……人気かどうかじゃないってのに……」


「ん?なに?」


「もうっ!なんでもないっ!」


「そ、そうか………」


怖い………睨みだけで多分あいつ何人、いや何十人か殺ってるな。


「三ヶ森さん?大丈夫?怖いねー柏木は」


俺の後ろからひょこっと顔を出して柏木の様子を伺っている。


「怖くはないですよっ!」


「そうかい」


まあ、なんでもいいけど俺の後ろに隠れられると、本当にお兄ちゃんという気分になってしまうじゃないか。


「そ、そろそろ先生か誰かに報告してきたら?」


「あ、はいっ!」


そして、スタスタと教室へと入っていった。


よし、じゃ、俺も戻るかと、教室に足を踏み入れようとした時、腕をグッと引っ張られた。


「な、なんだよ?」


やるなら袖をクイッと引っ張る袖クイというやつがよかったんだけど、まあ、まだ残暑残るこの季節、俺も暑いからワイシャツ折ってるから仕方ないんだけど……


「三ヶ森さんとは何してたの?」


「荷物運んでたからそれを手伝っただけだぞ?というか、学校なんだし普通にこういうことはあるんじゃないか?」


「………バカ」


そう一言残して、柏木は廊下の喧騒へと走り去っていってしまった。

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