第42話

【俺の妹になってください】


四十二話


〜 あらすじ 〜


柏木と付き合うという選択をし、その翌朝、早速姉に文字通り嗅ぎつかれた。姉はかなり取り乱し、遥か彼方へと走り去っていってしまった。そして、それから学校に行くと三ヶ森さんが横を泣きながら通り過ぎていった。追いかけたあと話を聞いてみると山口に振られたという。


*****


学校で文化祭の練習し、忘れようとした。


だが、やっぱり頭から離れない。あの三ヶ森さんのしょんぼりとした顔。


それと、姉さん。………なんで帰って来ないのかな?って、理由なんてひとつしかないか……


考えれば考えるだけ憂鬱になる。


全部、俺のせいだ……


ピンポーン。


そんな時、家のチャイムが鳴った。


姉さんかな?


なんて思いながらも家から出ると、ちっこい童女がいた。


「春樹。来ちゃった!」


「なんだ舞か」


「えー!!!彼女が来たというのにその反応!?」


「ごめん。まだ付き合ったばかりなのにな……」


倦怠期という訳では無いのだが、今は一人にしていてほしい。時間がどうにかしてくれるはず。そのはずなんだ……


「………はぁ。悩んでいたって仕方ないでしょ?」


「まあ、それもそうだけど………」


「風見!!歯を食いしばれっ!!しっかりしろっ!!ここでうじうじしてても何も変わらねえだろっ!!」


そう言いながら腹にパンチを入れられる。


「いってぇ!!!」


「目、覚めた?」


「あ、あぁ………歯を食いしばった意味がまるで無いけど、そうだよな。何もせずに後悔しても気持ち悪いもんな。ありがとう舞。ちょっと今から出てくるわ」


「しっかり埋め合わせしなさいよねっ!!」


「おう!!」


家から飛び出ていき、あてもなく走り始めた。


どうしたものか。


アテのある場所なんて俺にはいつものファミレスくらいしかなかった。


居てくれよ……頼む。


そんな願いで俺はファミレスへと足を向けた。


だが、やはり三ヶ森さんも姉さんも居なかった。


「お客様?どうされました?」


「あ、い、いえ……ごめんなさい」


店を後にし、次どこに行くかを考えながらそれなりの交通量のある交差点の信号待ちをしている時、正面に見覚えのある少女が居た。


「三ヶ森さん?」


車の音やいろいろでかきけされてしまうような独り言が漏れる。


三ヶ森さんはあからさまに落ち込んでいた。


早くなにか言ってあげたい。言葉なんて決まってないけど、なにかを早く………


早く青になれ……早くっ!!


なぜこんなにも信号長いんだよっ!早くしてくれ……


向かい側の信号が赤になったのを見計らって、飛び出し、三ヶ森さんの方へと駆けた。


「み、三ヶ森さんっ!!」


「……え?風見くん?」


「あ、うん………なんというか、その…大丈夫?」


「ま、まあ……それなりに?」


「そうか……」


頭が真っ白でなんて言えばいいのか全然わからない。でも、なにかなんか言わないと……でも、謝るのはだめだ。三ヶ森さんが山口に振られたことなんて思い出したらまずい。だから……


「えーっと………辛かったらいつでも相談乗るから………だから、頼ってね」


「う、うん……ありがと……」


俺には多分、これ以上のことは出来ない。あとは三ヶ森さんがどうにか立ち直ってくれるのを待つしかないのか………


でも、おかげでスッキリした。心のモヤみたいなものが少し晴れたような気がした。


「じゃ、また学校でっ!」


「うん。またね」


あとは姉さんだが、どうしたものか。


あれ、本当にめんどくさいからな………


というか、ナタ持って走って出ていったんだし、警察か?


いや、流石にそれはないとは思うけど、本当にめんどくさいからやめて欲しいな……


そんな時、電話がなった。


知らない番号だ………


まさかな?


「もしもし?」


「こちら警察のものですが、風見さんの携帯でよろしいでしょうか?」


「は、はい……」


「至急警察署までいらしてください……お願いしましたからね!」


俺の予想はまんまと的中してしまった。


当たらなくていいようなことはよく当たるんだよな………


でも、なんであんなに焦ってたんだろ?


まあ、いいか。俺は渋々警察署へと足を向けた。


警察署に入ると皆が皆そわそわしていた。


とりあえずどこに行けばいいかもわからないので受付のような場所の人に話しかけて聞いてみる。


「あの、すいません。風見春樹と申します」


「あぁ!風見さんですねっ!早くこちらへっ!」


そして、俺はその警察官らしき人物に地下に連れていかれた。中は薄暗く、小さな牢屋のような物が並んでいた。


「春樹ぃ………春樹………」


よく見えないが奥の方からそんな声が聞こえてくる。


並の人間ならば怖いっ!逃げろっ!ってなるほどのホラー演出であるが、あの声は姉さんだ……


はぁ………


全く姉さんは………俺が通報してもしなくても結局姉さんは捕まるのか………


だったらせめて「いつかやると思ってました」と、一言言わせて欲しかったな………


そんなことを考えながらも声のする方へと、その警察官の後ろをついていくと、一つの牢屋の前で止まった。中では姉さんが死んだ魚の目をしながらくるくると同じルートを回りながら俺の名前をくり返し呼んでいた。


「ね、姉さん……?」


「は、春樹!?」


一言声をかけるとまるでネコ科の動物を驚ろかせたかように飛び上がった。


「なっ!ななななんで!?なんで春樹がここに!?」


「そりゃー警察にお世話になってるんだし親はアテにならないんだから俺に連絡がきてもおかしくはないだろう?」


「そ、それもそうねっ!」


「いや、それ元気に言うことではないからね?普通に犯罪犯してるんだから反省しなさい」


「は、はい……」


姉さんはしゅんとその牢屋の中で大人しくなった。


「あ、警察の方。すいませんけど、この馬鹿な姉を今から説教するので席を外していただけませんか?」


「は、はい………」


警察の人は意外とあっさりと席を外してくれた。


そして、その人が見えなくなってから俺はまた説教を始める。


「姉さん?なぜこんなに大事にしたの?」


「え、えっと………無我夢中で………春樹があの女と一緒にどこかへ行ってしまうって考えたらなんか、ここに居ました」


そんなことだけで警察のお世話になるとはさすがですね。


「俺はどこにも行かないぞ?確かに付き合うことにはなったけど、まだ先のことなんてわからないじゃん?」


「………だから怖い……そう。だから怖いんだっ!」


怒りとともに姉さんはガッシャーンっ!!と、牢屋の鉄部分を殴りつけた。


「…………昔はお姉ちゃんのお嫁さんになるって言ってたくらいなのに………」


「そ、それはっ!本当に小さい頃の事でしょ!?」


「今はどう?そう思ってくれる?」


そんなわけないじゃんっ!なんて返せるようなそんな優しい雰囲気ではなかった。姉さんはふざけたことを言っている訳では無いのだ。あの目は本気だ。


「いや、そうは思わない」


真面目にそう答えた。


「はぁ………だよね………知ってた。だから嫌なの!!」


「い、嫌って………仕方ないだろ?俺だって成長するんだから」


「時間が春樹を変える……それは仕方ないこと……そんなの分かってるけど………でも、春樹が私の前から居なくなるってこともあるじゃないっ!!」


全く、泣くなよな………女の涙ってのはチートなんだよ。使われたら結構来るものがあるんだよ……


「俺は姉さんの弟だ。時間もなにも関係ないだろっ!!」


「………そうだよね。春樹は私の弟……はぁ………」


「よし、なら、そろそろ家に帰ろうか」


「う、うん………」


姉は涙を拭い、いつもの憎めない笑顔でそう答えた。


それから釈放までになんか色々あり、家に帰るともう十時を回っていた。


「ふぅ……疲れた」


「それはこっちのセリフだってのに」


ソファーに腰をかけながらため息混じりにそういうのでとりあえず悪態をついておく。


「それもそっか!ごめんねっ!」


「本当に反省してるんかねこいつは……」


「あっ!そうだ春樹。文化祭、そのさ?あの子と回るの?」


多分、あの子っていうのは柏木のことだろう。


「あ、あぁ。うん」


「なら、頑張ってね……」


こんなに頑張って欲しくなさそうな声援は初めてだった。


「お、おう……今日は疲れたから先に寝るわ」


でも、よかった。あの百獣の王のような姉さんと三ヶ森さんにできるだけのことは出来た。………舞に感謝しないとな。


そう一言残して俺は自分の部屋までふらふらしながらも歩いていくと、そのままベットへ倒れ込み夢の中へ。

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