第38話
【俺の妹になってください】
三十八話
〜 あらすじ 〜
夏休みが終わり憂鬱な学校が始まった。そして、放課後、山口と橘さんの喧嘩を見てしまう。きっとなにかあるのだろう。そして、そんな修羅場を見てから家に帰ると、こっちも修羅場!?
******
家に帰ってくると姉が玄関前で待っていた。姉は表情には出さないがキレていた。多分、俺が家に帰ってくるのが遅かったからだ。いや、ほぼ百パーセントそうだろう。
「女か?」
「…………はぁ。なわけないだろ?高校生なんだし少し遅くなってもおかしくないだろうし、それに、俺はモテねぇから問題ない」
「私が好きなのにそんな訳ないでしょ?」
「どこまで自己中なんだ!?」
姉はやはりイカレテル。
「とにかく、遅いのは心配なのよ。だから早く帰ってきてね?それが女の子だったりしたら………」
と、言ってどこから出したかわからない林檎を握り潰した。
「は、はい………」
怒りがおかしい方向に暴走してる。本当にやっちまうかもしれねえ………そうなったら大変だけどまあ、俺はモテねえし別に困らねえな。
「わかればいいのよ?さあ、夕飯にしましょっ!」
「あ、あぁ………」
そうしていつも通り姉と食卓を囲む。
今日は豚のしょうが焼きに、チョレギサラダ、卵スープ、白米というなかなか素晴らしい献立だった。
どれ食べてもうめえし、姉さん、いいお嫁さんになるだろうな。でも、俺は要らねえから誰でもいいから貰ってくれ。なんなら今すぐでもいいからっ!!
そんなことを思いながらチョレギサラダを頬張っていると、「どうするの?」と、訊いてきた。
「………突然だな。なんの話?」
「え?文化祭の話」
「あー。そう。文化祭?」
「今日色々と決めなかった?」
「覚えてない」
「そんなところも可愛いんだからっ!!」
「うるせえっ!!」
飯中だというのに突然、飛びかかってきた姉の肩をぶん殴ってやると「もっと!」と、縋ってきた。
「そうか。なら、ここかっ!」
「は、はいっ!!最高ですぅ!!」
それから俺は奴に殴る蹴るなどの暴行を加えて、話のことなんて忘れていた。
そして、翌日。
「おっはよー。風見ー」
なんて挨拶をしながら背中をドンと叩いてきたのは柏木だった。
「あ、あー。おはよう」
昨日はかなりスッキリ寝れたのでこんな事では怒る気にはならなかった。
今は寛大な心を持っている気がする。
「あ、そう言えば風見。文化祭の話なんだけど………」
「人の背中をドンドンやりながらなんじゃ?」
「だからっ!その………白雪姫を文化祭でやるじゃない?で、その………王子があなたで私が白雪姫だから………」
「…………は?なんで、そんなことに、なってる?」
背中を叩かれながらも訊く。
「え?だって……あんたが寝てたから勝手に決まっちゃったんじゃない。」
「なんで俺なんだ?というか、そろそろやめろっ!!」
背中をバンバンする手を振り払う。
「知らない。みんなめんどくさかったんじゃない?」
「マジか………」
「じゃなくてっ!練習よ。練習っ!!」
そう言って俺の希望も取らずに台本を無造作に俺に投げてから、セリフやらを覚えるためか一人黙読し始めた。こういうところ結構あいつ真面目だよな。
「王子役、絶対山口でよかっただろ………」
柏木に投げられた可哀想な台本を適当にめくりながらそんなことをポツリと言うと
「いえ、僕は木役を生まれてこの方ずっとやってるのでそれ以外の役は出来ません。というか、やりたくないです」
と、山口がいつも通りの爽やかな笑顔でそう言った。
「言ってることは意味わかんねえけど、爽やかな木だなっ!」
「わたしは魔女役です!」
馬鹿にしたように苦笑していると、三ヶ森さんの甘美な声が響いてきた。
「そうなの!?それは楽しみだな。まあ、小人はちっちゃいのが………」
と、言いかけたところで、ゴッ!!!という、鈍い音がした。
「それ?誰のこと?」
白雪姫役の方が思いっきり壁をぶん殴っていた。
「さ、さぁ…………」
「まあ、いいわ。さっきのは聞かなかったことにしてあげるから…………練習ね?」
「は、はい………」
やらなきゃ殺られる。練習を。
あれだったらいっそ魔女、いや、なんか適当に追加して武闘家で良かったと思うけどな………
******
とりあえず台本を見ながらだが、一本通しやってみようということになった。
「鏡よ鏡よ鏡さん。世界で一番美しいのはだぁれ?」
悪役なんて似合わなそうな妹だが、普通に演技がうまい。
「知らん帰れ」
舐めた鏡だ。
「え?そんな馬鹿な………じゃ、誰だと思うの?!!」
「あんたはないかな?」
「ええ!!!」
そういう驚きの反応を見せるのは魔女役の三ヶ森さんではなく俺だった。
「あ、ごめん。続けて」
というか、こんな話だったっけか?忘れちまったけど……
毒りんごと小人と王子のキスがあれば白雪姫か。
…………って、キス?
「な、なぁ。柏木。これ、ラストキスあるじゃん?やるの?」
「な、何を言ってるの!?」
出番待ちをしている柏木に後ろから小声でそう問いかけると、柏木は顔をボッと赤くして、立ち上がると吠えた。
「柏木。今練習中だろ?少し静かにしなさい」
「あ、あんたがキスとか言うからでしょ!?」
「わかったわかった。俺が悪かったから静かにな?」
「う、うん………」
こんだけ焦る柏木を見るのは初めてかもしれない。
カットやらここはこうやる。みたいな指示を総監督である橘さんに指導されながらやっと、ラストシーン。
七人のモブ………じゃなくて、小人が死んだように横になっている柏木の周りを囲んでいた。
その光景は幻想的で、触れたら消えてしまいそうなそんなおとぎ話みたいな雰囲気であった。
今からここに入っていくのか………
雰囲気ぶち壊しそうで怖いけど行くしかないか……
と、腹を決めようとしている時に、小人たちが癖のある演技を始めた。
一人はりんごを丸かじりしているような演技をし、また一人は発情したように振る舞い……
と、七人が七人とも少し変な反応を見せていた。
そして、俺の設定だが………悪を砕き弱きを助ける。みたいな超主人公補正のかかりそうなそんな設定だった。
「ほら、王子様」
と、監督である橘に急かされて俺はとりあえず前に立った。
「おー。美しい。なんと美しいのだ」
「………でも、死んじゃってるよ。はぁ。疲れた」
「な、なんと!こんなに美しい姫が………どうにかして助けれないのか………」
「キスしてみれば?おとぎ話みたいになっ!」
「ケっ!やめとけよ。あんたは何も出来やしないさ」
「お腹減ったー」
などなどと小人がそう言う。
そうして、台本を見ながら「キスをすればいいのだな?」
と、言ってくれと書いてあったのでそのまま読み、キスをするふりをした。
だが、彼女は起き上がらない。
「言っただろ?意味無いって…ケケっ!」
そんな声やらがガヤガヤとする。
そんな中、ナレーションの人の声が入ってきた。
「王子よ。その小人達はあなたが忘れてしまった心。大罪。彼らは貴方の一部。白雪姫を守ったのも彼らであり、貴方でもある。皆の気持ちを汲み取ってからもう一度やってみるのだ。」
なんだこの声は………こんな話だったっけか?
まあ、多分そんなに内容は深いもんじゃないし、いいか。
それから、小人(モブ)に一人ずつに話を聞いてから不思議な光に包まれるという謎設定の元、取り込む。
そんな設定なのでしょうがない。
そして、小人全員と話し合ったあとにキスをもう一度やると目覚め、王子である俺も人間味が出て、魔女兼王妃は披露宴で真っ赤に焼けた鉄の靴を履かされて死ぬまで踊り続けたという。
そんな感じの話だ。
怖いなぁ。普通の怖くない白雪姫やればいいのに。
「それなりによかったけど……だめねっ!」
どこがいい話だったかはさておき、そんなことを総監督である橘が立ち上がって吠えた。
「何がダメなんだ?初めてやるにしては良かったんじゃないか?」
「ダメよ。迫力がなさすぎるわッ!!まず、王子の演技を直さないと………」
「俺かよっ!!」
そして、ゆっくりと総監督がこちらに近づいて来て、俺に飛びかかってきたので反射的に避けた。
「なんで避けるのよ!!」
「え?だって、怖いからな……」
「みんなっ!!王子の猛特訓するから捕まえてっ!!大丈夫悪いようにはしないから」
「そのいやらしい手つき、台詞からして危ないじゃねえかっ!!」
皆集がバケモンみたいな目つきをしながらこちらへ近づいてくる。いつからゾンビ映画になったんだ!?
そんな絶叫教室から逃げだし、うまいこと巻きながら男子トイレへと走った。
「ここまで来れば………大丈夫だよな。」
「………やっぱりここに逃げたのね」
空いている個室からどっかで聞いたような声が聞こえてきた。
「まさかな。ここ男子トイレだし………」
「いるわよ?」
その個室を覗き込むと、橘が仁王立ちしていた。
「………なぜ?」
「そんなことよりっ!………昨日。見てたよね?」
「…………は?」
「別に怒らないわよ?前にも少し話したしね」
「なんだ……」
「昨日はごめん。みっともないところを見せちゃったね」
安堵の声を上げる俺に、俯きながら謝った。
「別にいいよ。なんかあったんだろ?昔」
「まあ、ね………」
「なら、仕方ない。その気持ちはわかるから」
俺も柏木と喧嘩した時に後悔して、また同じ過ちを繰り返しかけたからな………
「そう………」
「お前も山口のことが好き………だったのか?」
「え、ええ………好きだったわ。私とあいつは幼馴染でね。小さい頃よく遊んでたの。でも、小学校高学年くらいになってからは喋りもしなくなったの。変よね。色んな事話したくてたまらないのに。それで変なプライド持って一年経っちゃって、あっという間に中学校になって、今度こそは。って気合入れて話すことは出来るようになったんだけど、山口って普通にその……イケメンだし勉強出来るし運動神経だっていいから、女子に人気があってね……恋バナ聞けば山口君が好き。手伝ってっ!ってよく言われたわ。そんなで結局、告白したのは中学の最後の最後………」
「………お前も大変だったんだな」
「まあ、ね」
「それで?どうなったの?」
こんなに長い話を聞かされてオチまで行かないのは癪に障るので聞いておいた。
「………好きならヤらせろ。ですって……」
「…………」
もう、言葉が出てこなかった。
嘘だろ?
「私、怖くなっちゃって………」
「………悪い。変なこと聞いたな……」
山口がそういうことするってのはちょっと考えられないが、泣きそうな女の子に勝るものはない。
「いや、いいのよ。だから、前ファミレスで止めたの。三ヶ森さんかわいいし、応援してあげたいけれど、山口なら話は別だわっ!」
「そうか………」
なら、止めた方がいいのかな………
だけど、三ヶ森さんは本気だ。どうすればいいんだろ?
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