第33話

【俺の妹になってください】


三十三話


~ あらすじ ~


約束の日にプールに行ったのはいいが、柏木が来ずにもう入場時間になってしまった。


****


俺はひたすら永遠と遠泳していた。部活を始めたのかもしれない。そんな錯覚に陥るほどに泳いでいた。何が楽しくて泳がなければならないんだよ。何が悲しくて泳いでんだ?訳が分からない。


なんでこんなことになってしまったんだろう?


確か柏木にあのトークアプリで連絡をしたあと、プール施設に入ってからしたことといえば、女子を観察することだった。


「あの人見てみろよっ!すげえぞ!!」


バインバインとでかいものを揺らす人もいれば。


「あれはすごいな。でも、隣は残念だ……」


「まあ、そういう傾向の人はいるわけだし、いいじゃないか」


揺れもしないぺったんなまな板もいる。そんな理不尽な世界。それがプールだ。


「お待たせしました!」


そんな声が後ろから聞こえた。


振り返るとそこには白いビキニに白のフリルという、凶悪コンボを兼ね揃えた天使がいた。


「あ、三ヶ森さん。かわいい水着だね」


すらっとそんなことを言えるイケメンは死ねばいい。俺なんて動揺しちゃってどうしようもなかったのによ。


「えへへ。ありがとう!」


まあ、先手を取られた以上、俺が何かを言う必要は無い。


「じゃ、どうするか」


「僕はなんでもいいですよ。」


「私も………」


今日来なければよかった。俺が来なければ二人きりのデートになったってのに……


「じゃ、流されるプールにでも行きますかねー」


適当に俺はここで流されて一人になろう。三ヶ森さんと山口の応援をするにはそれしかない。


「いいですよ。じゃ、行きましょうか」


そう言って俺のあとを着いてくる。


二人はなんだか同情してるというか、可哀想な人を見るような目を俺に向けていた。


別に柏木なんていなくてもいいし。


「じゃ、二人共あっちまで競泳しようか。負けた人はなんか、罰ゲームしてもらうってことしにて!!」


流れるプールってのは輪になっていてグルグルそこを回るように流れがついている。


「いいですよー!」


「なら、少し本気で行かせてもらいます。」


二人はうまいこと釣れた。


「じゃ、よーい、ドンッ!!」


二人は勢いよくその流れに同化するように泳ぎ始めた。


俺はそんなふたりを見送って、とりあえずそのプールから上がった。


これで二人きりだよなあっちは。


プールでの目的を達成した。


これで二人はめでたく二人きりだ。あとは妹が頑張るだけ。よし、帰ろう。


そう思って出入口まで来ると、そこには学校指定の水着。いわゆるスク水を着てかなり浮いてる小学生くらいの子供がいた。でも、どこかでみたような………俺に子供くらいに見える知り合いなんて一人しか居ない。


俺はそいつに駆け寄り確認する。


こいつは………柏木だ。


なんて話しかけようか?


物凄い周りはうるさいのに、この場だけ時が止まってるかのような妙な静けさがあった。


「よ、よう………」


手を挙げて外国人並みのテンションで行こうとした結果、手を一旦はあげたものの柏木の顔みて怖くなってその他をどうしていいかわからなくなるという失態を犯した。


「…………久しぶりね」


その声は冷たかった。夏の暑さも吹き飛ぶほどに冷たかった。そんな柏木に俺はどうすればいいだろうか?顔も合わせれねえ。どうしたものか。そんな時、イケメンの今日の発言を思い出した。


「水着、似合ってるな………」


「え?えぇ?……あ、そ、そう………」


褒められるなんて思ってもなかったのか、柏木らしくない可愛らしい反応を見せた。


………でも、こんなんじゃダメだ。


「へっ!まあ?ぺったんなことには変わりねぇけどな」


嘲笑うように柏木に挑発をかける。


「………悪かったわね」


………は?鉄槌一つこないだと?


「お、おい。どこ行くんだよ」


「美柑ちゃんと山口君は?」


「あー。多分流れるプールで泳いでると思う」


「じゃ、そっち行きましょうか」


「わかった」


そういう柏木にはいつもの迫力がなく、なんだか柏木っぽさがなかった。


無言で柏木の後ろをついていく。


………気まずくなんてない。いつもこんなもんだ。帰り道だってそんなに話したりしないし………そう自分に言い聞かせる。


ボケーッとしながら歩いていると俺の前を歩いてるやつが止まり、振り返った。そして、じーっとこっちを見てきた。


「な、なんだよ?」


「なんでもないわ」


そして、また踵を返して流れるプールへの道を歩む。


おれはまたまたぼーっとしながらその後ろをついていく。


そして、流れるプールに着くとなんでか人だかりが出来ていた。


「なんだ?」


その人混みをかき分けてどんどんと柏木は進んでいく。……流石ですね。俺はここで休んでいようかな?なんて思ったが、プールに入らないと暑い……室内だから日光は避けられるが、それでも日本の夏は暑い。


仕方ねえ。俺も行けばいいんだろ?


そうして、柏木を追うようにして進んでいくと、流れるプールに人が集まる訳がわかった。


山口と三ヶ森さんが流れるプールで、流れてる人間をかき分けながら泳いでいた。


その回避能力も凄いものだが、二人共異常なまでに速い。河童みたいな妖怪なのだろうか?とりあえず、あの二人の泳ぎはバケモノ地味ている。


俺が参加していたら、圧倒的な差をつけられて最下位だっただろう。


というか、何周するんだよ。もう五週はしてるぞ?


まあ、指定なんてしてないからな。ここは勝手に終わってくれるのを待つしかないか。


そんなことを思っていると、横で、すぅー。と、柏木が深く息を吸いこみ、「二人共!やめー!!」と、大声で叫んだ。


そして、先程まで二人にあった視線が全てこっちに向いた。


普通にこんなに目で見られると怖いものだが、柏木には恐怖という概念はないのか、その声で止まった二人の方へ泳いでいった。


俺はあんな恥知らずなやつ知らない。ひとまず人が解散するまでは撤退だ。


「風見?そこでなにしてるの?早くこっちに来なさい?」


…………いや、俺は風見じゃない。まだ行ける。俺の名前を知ってるのなんてあそこの三人以外は多分いないし、このまま戻っていけばバレない。


「だから、明るい迷彩柄みたいな海パン履いた子供っぽいお前だ」


「子供っぽいのはどっちだっ!!あ………」


突っ込んだ後に少しの静寂が訪れ、俺を観衆の目が痛めつける。


もう、言い逃れも逃れも出来ない。


俺は痛いほどの目線に当てられながらも、プールから上がった三人の方へ行った。


「あ、春樹くん。ギブアップしてたの?」


観衆の目を集めてたことなんてちっとも知らなそうな三ヶ森さんが、キラキラした笑顔でそう訊いてきた。


「まあ、そんなところだ」


「じゃ、罰ゲーム春樹くんですねっ!」


ニコニコしながらそんなことをいう妹は、怖いけどかわいい。


「へー………え?」


この妹今なんと言いましたかね?


「なにさせます?」


妹が二人に何かを相談し始めた。


「待て待て待て………罰ゲーム?そんなの聞いてないぞ?」


「そりゃー聞いてるわけないじゃないですか。春樹くんがそう言ったんですもん」


そうだっただろうか?確か、二人を釣ろうとして…………


「………あ。言いましたね。でもっ!冗だ………」


そう言いかけたところを山口に手を肩に乗せられ、目を反射的に合わせると首を横に振った。


「風見。過去は変えれないよ?」


イケメンがイケメンっぽく、主人公のようにかっこよくトドメを指してきた。酷い!イケメンなら助けろよっ!!


柏木は俺を見て、挑発するように、嘲るようにそう笑った。


…………で、今に至るというわけだ。


あまりにひどい仕打ちだ。俺が何をしたというんだ………


「風見。そろそろ終わっていいわよ?」


なんだ?天使でもいるのか?


そう思って泳ぎやめて目を声のした方向を見ると、そこには柏木が立っていた。


「悪魔の罠か。いや、あの胸は悪魔のいたずらか………」


「誰が悪魔だって!?」


すげえ。この距離でも聞こえるのかよ。地獄耳過ぎるだろ……


プールから上がったら俺は殺されるかもしれないが、このままここにいるだけでも溺死するかもしれねえ。


完全に板挟み状態になったが、ここにいても死ぬ。なら、上がるしかない。


おそるおそると柏木のいる方へ行く。


はしごを使って上がろうとすると、柏木が手を差し伸べてきた。


「…………え?」


「なによ?」


「あの、こんなこと訊くのおかしいかもしれないが、その、突き落としたりしない?」


「…………」


柏木は何も言わずに微笑んだ。


怖いです怖いです怖いです怖いですっ!勝手に奥歯ガタガタ言ってますからァ!!


そんな時に、手を掴まれてプールから引き上げられた。


「……………え?」


「私だって鬼じゃないのよ?」


「悪魔?」


「次言ったら殺すから。」


目がマジだった。


これ以上ふざけるのは避けた方がいいだろう。


なんでだよ。サービス回なら俺にいい思いさせても誰も文句言わないよ?なのに、全然サービスしてくれない。ぽろりの一つや二つや三つあってもいいじゃねえかよ………

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