第21話
【俺の妹になってください】
二十一話
〜 あらすじ 〜
GWは三ヶ森さんとお話をしたら終わり、また学校が始まっていた。
*****
俺、風見春樹は物凄く憂鬱だった。
「ねえ、話聞いてる?」
「あ、はい。だから殴らないで!」
俺はこの山のように積まれたプリントの処理を手伝ってもらうために、俺の家に柏木を招待していた。で、寝落ちすること三回、俺の頭には大きなたんこぶが六つあった。
「そう?シャキッとするわよ?」
「いや、あなたの腕力でやられるとクラっとするんだが………」
「ん?なに?」
「ごめんなさいなにも言ってないです」
「そう」
数学のプリントは内容的には中学とあまり変わらないが、中学ですら捨てていたその教科。わかるわけがねえ。
「ただいまー。って、はるきぃ!!」
ズタズタと足音が俺らのいるリビングの方へ駆けてくる。
はぁ。めんどくさい。
ガチャ!!
「女を連れ込んでいちゃいちゃとは許せんぞ!!」
扉を勢いよく開いて、獣のような鋭い目つきでこちらにガンを飛ばしてきたのは言わずと知れた姉だった。
「お姉さん。お邪魔してます」
俺は動転しまくっていたというのに、柏木は至って冷静だった。最強たるものの余裕だろうか。
「ああ。柏木ちゃん。ちょっといい?」
「はい」
あの喰らいついたら離さない白虎のような禍々しいオーラは姉から、柏木は龍のような堂々たるオーラを纏った二人は、廊下の方へ出て行った。
いつからこれはとらドラになったんだろうか。あんなラブコメ訊いてねえぞ?
なら、百合か。あー。頭はかなり残念ではあるが顔だけ見れば普通に可愛い二人の百合………それはそれでありだな。
そんなことを考えていたら、二人は戻ってきた。姉さんは鼻の下を伸ばして笑っているのだが、柏木は表情一つ変えていないというところを見るとどうやら、軍配は柏木に上がったらしい。
「ごめんなさい。待たせたわね」
元いた俺の横に腰掛けながら、柏木はそう言う。
「………え?あ、あぁ。いいよ別に」
「じゃ、二人ともゆっくりね?舞ちゃん?ご飯食べてく?」
先程からなにかを見ては鼻の下を伸ばし、デレデレしている姉が、エプロンを取り付けながらこちらに身を乗り出して訊いてきた。
柏木に目で問われたので、頷いてやる。
「えー。あ、はい。じゃ、いただきます」
「わかったわー」
鼻歌交じりにそういうと姉は、キッチンに向かった。
「………なにしたんだ?」
姉には聞こえないよう充分配慮してそう訊いてみる。
「ん?なにが?」
「姉さんにだよ」
「なにもしてないわよ?口より手を動かしたら?」
「は、はい………」
〈それ以上喋れば命はない〉と、奴の顔に書いてあった。俺にこれ以上の詮索は許されないってか………
虎と龍の喧嘩に、軟弱な人間なんかが介入したら殺される。いや、それ以上のなにかかもしれない……
でも、明らかに変だ。さっきまで柏木に殺意に似た何かを持っていた姉が、あんなに簡単に食い下がるだろうか。
謎だ。
そんな謎を解明しようとしていたら、山積みの問題が終わった。
こちらの方が謎かもしれない。
*******
そして、夕飯。
今日も両親は遅くになるらしく、三人で食卓を囲っていた。
いつもなら姉が騒がしい夕飯。だが、なんでかシーンとしている。
「…………ね、ねぇ。柏木」
「……なに?」
姉になにをしたか問おうと思っていたのだが、目が怖すぎてちょっとそんな質問は出来そうになかった。
「………え、えっと……す、好きな人いるの?」
「えっ?な、なんで?」
そりゃー驚くよな!話題ずらそうとして、なんかよくわかんねえこと口走ったぁぁ!!
もう、穴があるなら埋まらせてくれ。そして、俺を白骨化させてくれ……
「な、なんとなく?」
「そうねー。特にいないわ」
「そうなのか……あはは………」
なぜかその言葉を聞いてホッとした。なんでだろ?
「はぁ…………ふぅ…………」
そんなことがあってかはわからないが、姉さんがあからさまに話を聞いて欲しそうにため息をついたり、チラチラ見てきたりしていた。
「はぁ…………姉さんはいないの?」
一応聞いてあげる。優しいな俺。
「え?わ、私?」
おいおい…血の繋がった姉弟でなにを恥じらう必要があるんだよ。全裸だって見られても別に大丈夫だろうが………
「ま、まあ、お姉ちゃんだし?教えてあげなくもないけどぉ……少し恥ずかしいっていうかー」
「どこのギャルだ。帰れ」
「はい。私は春樹が好きだよっ!!」
「………はいはい。どうも」
サクッと返事はしておいた。はぁ。こんな姉より妹が欲しいなぁ。
そんなことを考えてしまったからか、風見春樹はなんで柏木が好きな人がいなくてホットしたのか。そんな謎ですら忘れてしまっていた。
*******
いつものように学校にいって授業も終わりという日々の繰り返しを繰り返していると、炎天下の暑い日の放課後、俺は三ヶ森さんから呼び出しをくらって、またまたあのファミレスにいた。
俺はあの一件以来、俺は三ヶ森からの相談を受けるようになっていた。
「今日は山口君と少しだけだったけど、話せたんだ」
「へぇ。よかったね」
エアコンガンガンのファミレスで冷たいコーラをぐびぐび飲んで、喉の奥で炭酸がしゅわぁと弾ける。最高だな。
もう、七月の中旬。高校入って初めての夏休みが近づいてきていた。
「で?そろそろ告白とかは考えてるのか?」
いつもと同じような内容の話ばかりする三ヶ森。さすがに俺も進展がなさすぎて楽しくないのでちょっと話を変えてみる。
「そ、それは………」
目を逸らしてもじもじする三ヶ森さんを見て察するに、明らかに考えてなかったって感じだった。
「………まあ、急ぐこともないかも知れないけど、あいつ人気あるからなぁ」
「………そうですよね」
三ヶ森さんは、ため息まじりに肩を落とす。
往々と繰り返されるこの相談。どうにかしよう。そうしよう。
「…………三ヶ森さんは山口のことどう思ってるの?」
「好きです!!」
ストレートすぎるその言葉に、俺はにやけざるおえなかった。
「あぁ。わかった。じゃ、八月一日。なにがあるかわかる?」
「…………花火大会?」
「そうです。………もう、わかったかな?」
俺の笑顔で気づいてしまったのか、少し考えるような仕草を見せた後に、ぽっと顔を朱に染めた。
これだから妹をいじるのはやめられねえんだよなぁ。
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