第20話

【俺の妹になってください】


二十話


〜 あらすじ 〜


その日はGW二日目。暑くてどこも行きたく無かったはずなのだが、三ヶ森さんから電話がかかってきた。そして、集合場所に指定されたファミレスの中でとある相談をされ、話を聞いていると……


****


「だから、それの人は山口遥なの!?」


その金髪縦カールの大人っぽい色気のあるその少女は、三ヶ森さんに対して周囲の目も気にせずに怒鳴り散らかす。


「ま、まあ。落ち着いて?」


三ヶ森さんは目の色からして怖がっていた。俺は慌てて仲裁に入り、ギロッとこちらを睨みつけてきたが、俺はまだ口をつけてなかった水を差し出して、座るよう促してみると案外簡単に収まった。


「なんか頼む?」


イケメンがやっていたイケメン行動をやってみたくなって、キメ顔でそのお姉さんのような少女にメニューを渡す。


「いや、いらない。というか、それ山口の真似?」


水を一気に飲み干して、そう言う。


「え?」


「キモいからやめなさい」


言われる筋合いはないが、今ので山口の真似なんて気付かれるか?こいつ、やばいやつかもしれない。いわゆるストーカーってやつ?


でも、この人どっかで見たな。


有名人?って訳でもないよな。変装なしでここらへんをフラフラしてたら『握手してください』『いっしょに写真撮ってください』なんてなりかねないのに、この人は変装なんかはしてなかった。というか、お洒落をしていた。


お洒落にはあまり興味がないが、とにかく、その人はお洒落だった。まあ、俺も妹も負けてねえけどな。


その妹はというとアワアワとしていた。


かわいいなぁ。じゃなかった。話を進めてやらないと………


「で、君は誰?」


「えっ!?本気で言ってる?」


すごい驚かれた。全く訳がわからない。初対面じゃないか。


「えーっと、橘さん………ですよね………同じクラスの………」


「あ、覚えててくれたのね。ありがとう」


その橘とやらは微笑んだ。


「あれ?まだわからない?」


「い、いや。わかるわかる」


やっべー。わかんねえ。普通の女子ってなんか顔が同じに見えるというかそんな感じなんだよなぁ。というか、金髪なんてそんなにいないし高校で金髪なんて………


「あっ!バスの人か!!」


「その覚え方はちょっと嫌だなー」


「いや、もう覚えたよ。バスの橘。で、山口遥がどうしたの?もしかして、………えっと、橘さんも好きなの?」


モテモテだなこの野郎。次あったらぶっ殺してやる。


内心そう思っていたのだが、なんだか、その名前を出した瞬間に彼女の表情が凍りついた。


「ど、どうした?」


そう問いかけてみるが、心ここに在らずという感じだった。


「………橘さん?」


橘の横に座っていた三ヶ森が肩をチョンチョンとすると、はっとなにかに気付いたように立ち上がった。


「………あ、ああ。ご、ごめんなさい。ちょっと気分が悪くなっちゃって……今日はもう帰るわ。でも、一つだけ忠告しておくわ。あいつを狙うのはやめなさい」


彼女はそれだけを言い残すと去って行った。


「………三ヶ森さん。やめておけってさ?」


「私、こんなですけど、他人に流されるのは嫌いなんです。だから、やめません。絶対に諦めたりしませんっ!」


俺が嘲笑気味にそう言ってやると、いつものおどおどした少し頼りないような三ヶ森さんではなく、やる気に満ち、生き生きとした顔をした三ヶ森さんがニッコリとしてやる気をたぎらせていた。


「なんか、スッキリしましたし、今日のところは解散しましょうかっ!」


「そっか。じゃ、帰ろうか」


もう既に頑張ろうとしている彼女に“頑張れ”なんて言葉は必要ないだろう。俺は応援するだけだ。


そうして、会計を済まして店から出る。


「じゃ、またね」


なぜだか、少し親元を離れて行く子を見送る親の気持ちがわかった気がする。


「あ、あのっ!!」


少し進んだところで、後ろから声がかかる。


「ん?どうした?」


振り返ると、三ヶ森さんが袖口を強く掴んで立ってこちらを見つめていた。


「そ、相談!また、乗ってくれますか?」


「ああ。任せろ」


俺は精一杯のキメ顔を決めた。


俺は親じゃねえ。兄だ。お兄ちゃん。なのだ。だから、妹の願いは断れねえよな。


それだけの会話をして俺らは別れた。


*******


GWは食っちゃ寝を繰り返していると終わり、また学校生活が始まろうとしていた。


こんなんだから、五月病なんてなるんだよ。


もっと休ませろ。夏休みみたいに五月休みを作ってくれ。これで五月病なんて防げんだろうがよ…………そんな俺の願いが届くわけもなく、姉が俺の部屋の戸を開ける。


「おはよー」


姉も五月病にかかってるのか、少し元気がなかった。いつもなら蹴破る勢いで扉開くくせにな。


「おはよ」


体が重い。動かねえ。動きたくねえ………やる気ねえ。気だるいってこんな感じなのかね。


そんなことを考えながらまだ見慣れない学校までの道を、すらーっと眺めながらも我が母校に着くのである。


そして、授業。俺が最も嫌いな授業数学だ。


教科書を開いて眺めると難しい数式がびっしりと書かれている。それを眺めているだけで頭痛が俺を支配し、それに追い打ちとも受け取れるような“テストに出る”みたいな単語が黒板に書かれる。……………はぁ。もうテストか。………俺にはもう無理だ。


俺は静かにシャープペンシルを机に置き、机に突っ伏した。


「ちょっと?何やってるの?」


寝ているところ後ろから小声でそう問いかけてきたのは柏木。


「頭痛い」


「嘘言わないの」


「これは事実。もうムッチャクチャ痛いね。割れるほどに」


「シャープペンシルの先でつむじ思いっきり押してあげましょうか」


「ご、ごめんなさいっ!!」


反射的に大声を上げて土下座をしていた。


そして、カキカキしている皆の注目の的にすらなってしまった。その目の中に当然黒澤先生の目もあるわけでして………


「おい。お前。放課後職員室な」


「は、はい………」


*******


どうせ呼び出されるなら美人の女の子に屋上とかそんな感じが良かったなぁ。


なんて思いながら俺は一回の職員室に行く。そして、挨拶をしながら入ると、職員室の奥の方に設置されている足の短い机を囲うように置いてある黒のソファーに座らされた。


「で?言い訳を言ってみろ」


俺の正面に座って先生はため息まじりにそう訊いてきた。なんて言おうかな。にしても………視線が勝手に下の方へ落ちていく。


「蹴りが鋭そうな長い脚を組んでいる先生のパンティが見えそうで見えないのがなんともエロい………」


「そうか。頭を出せ」


「え?声に出てた?ち、違いますっ!!違うんですよっ!!ただ俺はパンティーに興味があって」


「そうか。わかった。蹴りをご所望だったな」


回し蹴りをした時に垣間見えたのは黒のガーターベルト……


べチッ!!


鈍く生々しい音がした後に、俺の視界は真っ黒になった。


「………我が一生に一片の悔いなし」


そこで俺の意識は途絶えた。そして、夢の中のようなはっきりしないパッとしないそんな色のないような場所にいた。


「ここは…?川?かわ……だよな。で、あれは………大昔に亡くなったアメリカンショートヘアーの猫のペットのちーちゃん!?なんだよ。遊ぼうってか?仕方ないなぁ。あはは……あははははは……」


「そんなに痛くないだろう?本気でやってたら死んでるかもしれないが、三割ほど抑えてやったんだ。生きろ」


そんな無慈悲な声がどこからか流れてきて、なんとか俺は途絶えそうな意識を手繰り寄せる。


「………それは無理があるんじゃないですかね」


「喋れるなら生きてるのか。はぁ……」


痛え。まだズキズキするし……


「って、おい!!教え子を路頭どころか三途の川彷徨わせるとはどういうことだ!?」


「感のいいガキは嫌いよ?」


「どこがだ!!」


「まあ、そんなことは水に流してもらって、さっきのあれな。さっきの蹴りで許してやろう」


「そ、そうなんですか!?」


まあ、パンツも見れて美脚の蹴りまで頂いて課題もないなんて幸せだな。


「ああ。そうだ。で、課題だが………」


「は?」


「なんだね?」


「許してくれるんじゃ?」


「それは……その……ぱ、ぱ………」


何かを言おうとして赤面になる先生は凄くエロくて、目新しく感じますね。


「なんですか?」


もう、何を言おうとしてるかはわかってるが、敢えてここは言わせてみようではないか。


「その………なんだ。ぱ、ぱ、わ、私の……」


やべえ。なんか、楽しい。


恥じらう乙女きたぁ!!って感じだ。


「もういい。これをやれ」


と、持ってきたのは山のようにあるプリント。一瞬エベレストかと思ったぜ……


「いくら俺が先生をいじめたからって、その仕打ちはあんまりじゃないのかなぁ?」


あ。またこの軽口が………


「ははは。そうかそうか。君はそんなに三途の川とやらを渡りたいようだね」


「さっき水に流すって先生言ったじゃないで………」


「問答無用っ!!」


「ぎゃぁぁぁ!!!!」


プロレス技やらをかけられて俺はズタボロにされた。

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