第11話

【俺の妹になってください】


十一話


〜 あらすじ 〜


柏木の様子はやっぱりすこし変だ。だからって、エロには勝てない。


****


そして、風呂場前に着いた。最後まで振り切られずに柏木はついてきた。


「すげえな。お前」


「……は、はぁ…はぁ……な、なんでそんなに急ぐのよっ!!」


「だから、早く汗を流したかったんだよ。じゃ、俺ら行くから」


プンスカ怒っている柏木を置いて、『男』と書いてある暖簾をくぐる。


そして、一目散に湯船浸かる。


『……ねえ、三ヶ森ちゃん』


妙に真剣な声が聞こえる。


『はい?』


『春樹と山口君ならどっちがタイプ?』


はぁ。なにを言いはじめるかと思ったらそれかよ。そんなイカレた発言の直後、山口くんと目が合う。山口くんは苦笑して、ため息をついた。山口くんのイケメン顔はどこか悲しそうだった。


『……そ、そうですね……あはは……そろそろ出ませんか?逆上せちゃうし』


笑って誤魔化す三ヶ森さん。ほら見ろ姉さんっ!三ヶ森さんも反応に困ってるじゃねえかっ!!


『あっははー。そうだねー。出よっか!』


そんな声とともに、バシャン。と、水が落ちる音がした。


多分風呂から上がったのだろう。


「今日はなしか」


「そうだな……」


俺がそう呟くように言うと、俯きながら残念そうに山口くんがそう言う。


やっぱりお前も男だな。


『ねねっ!柏木さん』


それからすぐに、俺の聞いたことのない声が柏木の名前を呼ぶ。


『どうしたの?橘【たちばな】さん』


『あの………急にこんな質問変なんだけど、柏木さんとあの………小ちゃくて童顔でかっこいいと言うよりかは、可愛い感じの………』


『あー。風見?』


『そそっ!あの子とどう言う関係なの?』


壁越しにそんな会話が聞こえてくる。


『………別に。なんでもないわよ?ただの幼馴染だけど』


柏木とはただの幼馴染。それ以上でも以下でもない。そのはずなのに………なんでだろ?なんで残念に思うんだろうか。


『そっかー!』


それからはなにも話すことはなかった。


*****


風呂から出て夜風に吹かれながら、昨日寝泊りをしたテントまでの帰路につく。柏木は昨日のように俺の腕に絡みつくことはなく、三ヶ森さんの腕に絡みついていた。


「春樹?どーした?」


「別になんでもねえけど?」


姉が心配そうに俺の顔を覗き込むように視界に飛び出てくる。だから、あざといんだって。


「そう?」


「あぁ。そうだ」


そう。何も変なことはない。夜風がひんやり冷たいの同様、柏木と俺はただの幼馴染なのだ。それ以上でも以下でもない。


そして、テントに着く。


「じゃ、おやすみー」


一つ欠伸をしながら、そんなことを挨拶がてら言ってテントに入る。


「なあ、風見」


寝袋に包まって目を瞑り寝ようとすると、小さく声がかかった。


「……なんだ?」


「あの三人の中で誰が好きなんだ?」


で、でたー!!修学旅行系の寝る前に恋話しちゃう奴ー!!!


なんて小馬鹿に思ってしまうのであったが、それを押し殺して答える。


「姉さんは元々家族だからな含まれないし、柏木も小さい頃から一緒にいるからなんか、そう言う対象じゃないかもな」


「じゃ、三ヶ森さん?」


「うーん。それも無いかな?そういうお前はどうなんだ?」


だって、将来妹になってもらうつもりだからなっ!とは、さすがに言えないし、俺ばっかり質問されるのはおかしいことなので、きっちり切り替えしておいた。


「俺は………いない。あはは………ごめん」


「そっか」


山口は苦笑し誤魔化す。が、追求はしないでおこう。


こいつと俺は別にまだ知り合って一ヶ月もたってないんだ。深入りはしないでいいだろう。


それから暫くして、イケメン君はすぅすぅと、寝息を立てて寝始めた。


なんでか、目が冴えてしまって寝れる気がしない。


だから、静かに山口を起こさないようにテントから出て夜風に吹かれに行く。


そうして、キャンプ場から離れて夜の海の見える高台まで登ると、そこには黒のロングコートを羽織り、黒髪をなびかせている黒澤先生がいた。


「ふう」


「どうしたんすか?」


海より深いため息をつく先生に後ろから声をかける。


「あー?風見か。夜も遅いぞ?寝ねえのか?」


先生は少し背筋をピクッとさせて、振り向く。怖かったのかな?まあ、そうかな?結局気だるげだしわかんないや。


「そういう先生こそ寝ないんすか?遅くまで起きてると肌に悪いって聞きますよ」


「心配ありがとう。だが、君は遠慮という言葉を学んだ方がいいな」


先生は苦笑してそう言った。


「いや、心配なんすよ」


「それはどーも。で?話でもあるのか?」


「特にないですけど………」


そういい目をそらすと、先生が「ん?」と、言いながら顔を近づけてくる。


近い近い……香るよ!甘いの匂うからっ!!


「………若いな」


「は?」


思わず声が出た。


「まあ、悩みたまえ。青春をかける少年よ。……だが、どうしても答えが出ないなら相談しても良いかもな」


全部見透かされてるかのような発言に俺は少し寒気がしたが、それと同時に安心感があった。


「母さん」


思わず、その単語が口から飛び出した。


「おい………お前少し頭を出せ」


「い、いや……それは遠慮……」


丁重に断ろうとしてみたところ、先生は満面笑みを浮かべて手招きをしていた。


それに吸い寄せられるように、俺は先生の方へ歩いて行く。


「よく来ました」


満面の笑みである。そして、腕を振り上げ、降ろす。


ゴンッ!


その刹那、鈍く低い音が夜の高台に響く。


「いってぇー!!」


「生きてる証拠」


いつも通り気だるげな声で、人を小馬鹿にしたような声でそう言うと、先生は去っていった。


先生の第一印象。少し怖い。乱暴でなにをするのも面倒くさそうにやる適当な人。


そんな先生になぜ人望があるのか疑問に思っていたのだが、その理由が去って行く背中越しに垣間見えた気がする。


「うぅ……」


身体がブルっと身震いした。


さすがに夜風に吹かれすぎたのか、寒くなって来たのでテントまで戻り床に着き瞼を閉じた。

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