第10話
【俺の妹になってください】
十話
〜 あらすじ 〜
特になにもなく釣りをしていた。それだけなのだが、柏木の様子がどこか変だ。
****
夕焼け小焼けで日が暮れて〜。なんて音楽が外から聞こえる中、俺らは荷物置き場にまた海に行く前の時のように並んでいた。
それが鳴り終わると先生が新入生の例のように立つ。
「はーい。えーっと、明日の昼頃までは君ら自由ね。質問等は受け付けないので勝手に楽しんでください。以上」
先生はやはり今回もそれだけを言い残して去って行く。
皆集はここのルールのないルール慣れたのか、先生に倣ってみんなも次々と行動をしていく。もう、いいか。皆集で。
俺らもそこに紛れるようにしてその荷物置き場から去る。
「柏木さん。どうしますか?」
外に出ると、クーラーボックスを肩からかけた山口が口を開く。
「うん?とりあえず、魚が新鮮なうちに血祭りにあげましょうか」
柏木は振り返りもせずに突き進んでいく。
「ええっ!?」
「おい、お前、もうちょいと言葉を選べ」
てくてくと柏木についていきながらも、かわいげな反応を見せる三ヶ森をよそに、軽くツッコミを入れてやる。
「えっ!?それ普通じゃないの?」
わーお。そういえばここにイカレた人間一号である姉と、二号である柏木が揃ってるんだったな。
「姉さんや柏木にしたら普通かもしれないが、俺ら一般人の常識と一緒にするのはやめていただけませんかね?……このイカレポンチが」
「あー!!ひどーい!!」
「私もう立ち直れないかも」
ぷくぅっと頬を膨らましてジト目を向ける一号と、こめかみあたりに右手を当てて辛辣ですと言いたそうな目で、こちらに訴えかけてくる二号。
「はぁ。前見て歩け前見て……立ち直らなくて結構結構」
小さな溜息が漏れる。こいつら相手にすると本当に疲れるな………でも、最愛の妹が味方してくれるというなら俺は無敵だ。お兄ちゃん頑張っちゃうっ!
「風見くん………それは酷いと……思います」
思わず耳を疑った。
「え………?」
う、嘘だろ?
至高にして最強、そして、俺の唯一の癒しでもあるはずの三ヶ森さん(妹)に味方したのに裏切られた……?
「なにボケーっとしてるのよ!行くわよ?風見!!」
「………あ、ああ」
ショックのあまりに立ち止まっていたらしい。
また、俺はフラフラと歩き始める。
………なんで?なんで裏切られた?
そんなことを考えていたら、昨日にカレーを作ってイケメンくんが待っててくれた野外炊飯の出来る所に着いていた。
「じゃー。私は魚さばいてるから、あとの三人はよこのログハウスに行って野菜とか貰ってきてー」
「じゃ、いきますか」
リーダーが指示し、イケメンくんが仕切り、姉さんと三ヶ森さんをつれてログハウスに歩いて行く。
そして、柏木はそれを見送ってから魚を捌き始める。
「………なんでお前らそんなに手慣れてんの?」
思わず声が出たし、軽くハブられてるし。
「このくらい普通じゃない?」
「いや普通、魚のさばき方とか知らねえだろ……」
柏木の邪魔にならない程度に近づくと、カシャカシャと、手際よく鱗を剥いでいた。横には鯛の切断された後の首がピクピクしている。
こ、怖え。なんで切られて動いてんだよ……
「あなたの常識と一緒にしないでもらえるかしら?カス見君」
聞き慣れない単語が出てきた。
「………ん?あれ?俺の聞き間違いかな?カスってった?」
「………ん?言ってないわよ?どうしたの?カス。見くん」
今度はカスを強調して言いやがった。……こいつ。確信犯か。
「原型すらないし……俺なにすればいい?」
「そんなこともわからないの?ゴミ」
もう、単語すら変わっちゃったよっ!
「捨てられる運命なのは変わらないのね…カスでもゴミでもいいですよ。はいはい。で、俺はなにをすればいいですか?先輩。いや、師匠」
「……じゃ、イシダイ頼むわ」
………はぁ。俺が開き直った途端に、胸を張ってドヤ顔ですよ。そう、ドヤ顔。ろくに胸もねえくせに。
「あー。うん………」
包丁とイシダイ渡されたけど、これからどうするんだ?
切るのか?包丁っていったら切るよな?というか、イシダイベタベタしててキモいんだけど……わかんねえ。
「な、なぁ。柏木?どうやればいいの?」
「ん?あー。そうねー。難しいわよね?説明もなしじゃ……カスには」
「カスを強調すなっ!仕方ねえだろ?料理は大体母が姉なんだから」
そう、我が風見家の家事事情を天気予報風に言うと、母、時々姉なのだ。大体は母親がやってくれるが、父母共に働いているために、時々姉がやってくれる。うん。こんな時だけは姉がいてよかったと思ってしまう自分が情けなくてならないな。
「わかったわ。ゴミ見………いや、カス見君にもわかる様に見せてあげるわ」
柏木は俺から包丁を取り上げると、包丁の後ろの部分を使い、頭から尾びれに向かってすーすー。と、撫でる様に動かす。というか、ゴミ見?カス見?センスねえな。と、言ってやりたかったが、後々怖いのでやめておいた。
「あー。わかった。要するに猫やらの毛並み手入れみたいにやればいいんだろ?」
「ゴミでも見ればさすがにわかるのね」
柏木は満足そうに微笑む。
「……わるかったな」
そして、もくもくと作業をしていく。当然会話なんてない。木々がゆさゆさ言って揺れているだけだ。
「な、なあ。柏木。あのさ………」
「なにかしら?」
これはいつも通りの事なのに……なんで?なんでこんなに気まずいんだろ。
「俺も……その…言ってくれないとわからないから…その……なんだ」
「あ、二人とも〜、並んでお料理ですかぁ?ラブラブだねっ!」
後ろから俺の声を遮るように、聞き慣れた声がかかる。
「姉さん、三枚におろしましょうか?」
「えぇ?照れちゃってーこのこのー」
そう言いながら、俺の横腹をうりうりーと肘でつつく。姉だからって、過度なスキンシップを取りすぎてるんじゃねえのか?
だけど、いつも世話になってるから何も言えねえんだよな。くそッ!
「あー。イシダイの処理なんて知ってるの?春樹」
俺の脇からひょこっと顔を出す姉さん。
「いや、知らない。というか、邪魔なんだけど?絞め殺すよ?」
「包丁かーしーて!」
あら?俺の脅しは軽く流された様だ。
そんな子供みたいなことをしてくる姉に包丁を譲り渡す。
「ありがとっ!」
ニコニコ笑う姉さんと包丁。なにかしでかしそうで怖え……
「あ、ご飯炊きます?」
後ろを振り返ると山口君がいた。
「あー。うん。お願い」
「了解です」
いつ見ても爽やかな笑顔ですね。
俺もなにもしないってのはなんだか嫌な感じだったので、イケメン君の手伝いをしていた。
「あ、お、おくれ……ました………」
三ヶ森さんが少し遅れて戻ってきた。抱えるように持っていたのは色とりどりの野菜たちである。
「あ、三ヶ森さん。持つよ」
俺が駆け寄ろうとしたのだが、先に発言したのはイケメン君。行動までイケメンとか許さねえぞ。
そんなこんなで、包丁やらを扱うのは女子、火やらは俺ら男がやるようになった。
そして、ご飯ができ、目の前には日本昔話のように盛られた白米、イシダイの姿煮、真鯛のカルパッチョが並べられた。
「「「いただきます」」」
みんなで合掌。
山のようにあったご飯は一瞬で無くなった。
だって、うめえんだもん。仕方ない。
「食った食ったー」
思わず声が漏れる。
「美味しかった?」
それに反応してきたのは向かいに座っていた柏木だった。
「あぁ!美味かった!」
「………そ、そう」
ほっと、ため息をつくように柏木はそう言う。
「じゃ、俺、片付けするわ」
昨日から特に俺はなにもしていないし、片付けくらいはと、そう立候補する。
「私も手伝うから、先にお風呂行っちゃいなさい?美柑」
「……わ、わかりました……」
いつから下の名前で呼び合う仲になったんだ?だけど、まあ、いいことかな?
「じゃ、お姉さんと一緒に行こうかー」
指の動きがただの変態ジジイの動きをしている姉に三ヶ森さんは捕まり、連れられ、荷物置き場の方面にダーっと走って行ってしまった。
「よし、じゃ、さっさと終わらせようかっ!!」
イケメン君も手伝ってくれるらしい。
『我が同士よ。わかっているではないか』
と、目で語りかける。
山口はイケメンな笑顔を見せて、さっと食器を持った。
そして、三人肩を並べて食器を洗う。
無言だろうかなんだろうか知ったこっちゃない。エロの前にはなにもかも無力。エロこそが真の正義でエロこそが、至高っ!
終わった瞬間、ばっと、スタートを切り風呂場に駆ける。全速力で。
「な、なんでそんなに急ぐのよっ!!」
柏木も後ろについてきていた。
「な、なんでって、なんでもいいだろ?早く風呂に行きたいだけだ」
なんて、走りながら返す。
本当に柏木はやいな。一応高校二年生の俺ら男子についてこれるんだ。運動部に欲しい逸材だろ。これ。
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