第9話 trance dreamer
俺は勢いよく病院を飛び出し、そこが最寄駅のすぐそばにある行きつけの大型病院だと言うことに気付いた。
「なんだ、ここなら土地勘はバッチリだ!」
そう独り言をこぼし約6分。駅のホームに着いた。そこでポケットから携帯電話を取り出す。発信先は、幼馴染の秦ヤマトだ。
無機質な音が数回流れたうち、
「もしもし?サカキか⁉︎お前2ヶ月も寝込んで大丈夫なのかよ!今行くから待ってろ‼︎」
「おい、待て待て待て待て。話が早すぎる。俺今さっき目ぇ覚ましたんだけどよぉ。色々とお話聞いて、」
「う、うん……。」
「また眠ることにしたわ。またいつか会おうな!」
「おい待て!それどういうk」
「バイバーイ。」
決心はついた。親友にも連絡した。これで惜しみなくまた二次元に行ける。
初夏の日差しが照りつける中、周りの人達はかったるそうに下を向いている。周りの目なんて気にしていられない。俺は自ら線路の中へダイブした。
「ぶっはっ‼︎げっほ!ごほっ!」
顔を上げると、さっきまでいた駅のホームとは違い、そこは風呂場だった。思わず口角を上げて笑ってしまう。キタコレと心で確信し、急いで風呂から上がる。着替えも済ませ、ルピのいる二階へ駆け上がった。勢いよく開かれたドアに驚くルピに、
「大事な話がある。あのだなぁ俺は一旦三次元に戻ってだなぁ、」
「待ってくださいよご主人!急にどうしたんすか⁉︎」
「俺はさっき、風呂場ですっ転んで頭から湯船にダイブしたんだ。目を覚ますと三次元に戻ってたんだ!」
「ええ⁉︎戻れたんすか⁉︎三次元に‼︎っしゃぁ私にもやらせてくださいよー!」
「あぁ、待ってくれ、その前に俺が三次元に行っていた間の話をさせてくれ。」
そこで、俺はルピにマサヒコ先生から聞いた、トランスの話や、人それぞれキッカケがあること、それと二次元と三次元の時間の進み方の違いも全てをはなした。
「ご主人のキッカケは頭から落っこちることだったとして私はどうなるんすかねぇ?とりま頭から落っこちてきますわ!」
ルピが部屋を飛び出し数十秒後、
ざっばーん!と豪快に飛び込む音がした。俺もかけつくと、そこにはびしょ濡れのルピが立っていた。
「ご主人の嘘つき……。」
「だからキッカケは人それぞれ違うって……。」
翌日の放課後
「ワータールー君!」
俺の机に頬杖を着いて上目遣いで話しかけるハナカ
「ワタル君。なんか悩み事とかあるでしょ?絶対ありえないこととか最近起んなかった?」
ドキッとした。図星だ。なぜバレたのだろうか。
「その顔は図星のようだねぇ。さて、話してもらうまで返さないから。私は信じるよ?不思議な体験してきたから。」
そう言ってふっと窓の外を眺める。心なしかハナカさんにだったら全てを打ち明けてもいいような気がしてきた。
「あの、俺、別世界から来たって言ったらバカにする?」
「ううん、しないよ。だから私は全部信じるって言ったじゃない。」
「うん。ここの世界が二次元だと仮定しよう。僕は三次元の世界から来たんだ。」
「ふうん、そうなのね?」
「思った以上に反応が薄い。
「あ、なんで私が驚かないか疑問でしょう?それはね?」
そういうと俺の耳に口を近付け、外に漏れ出さないよう小さな声で
「私もそうだからだよ。」
「ええ?えええええええええ⁉︎そ、そんなことって?ええっ?」
「しぃ!誰にも聞かれちゃダメ。君の所の天使ちゃんも元々はこっちの世界の住人じゃないらしいね?」
全てを読まれている。恐ろしい。
「そんなに恐れないで。ただ単に読唇術を持っているだけだから。」
ただ単にのレベルではないようなと心で思うと、
「そんなすごいことでもないよぉ……」
と照れてよこした。全部読んで来やがるこの女!
「そうだ!明日ワタル君の家に行っていい?ルピちゃんともゆっくり話したいと思ってたの。」
翌日
ピンポーンと音がなる。それに応じたのはコノミだった。
「わぁ〜ハナカさん来てくれたんですか?どうぞ上がってください!」
「ありがとう。それじゃあおじゃまするわね。」
ソッコーで二階の俺の部屋へ向かう。
コンコンと鳴り響いたノックを合図にドアを開ける。
「いらっしゃーい。」
まるで新婚さんを出迎える時の大物芸人じみた挨拶をかます。
「来たよ〜。」
と言いながら用意した座布団に座る。
「まずルピちゃん。あなたにお話があるの。」
「はい?なんすか?」
「私ね、あなた達とおんなじで三次元から来たの。」
「えええ?ま、まあハナカちゃんもそうなんじゃないかなーって薄々感づいてたんすけどね……。」
「そこで色々お話ししようかと思って。来たの。」
「はいはい、俺から質問。俺は三次元では佐藤サカキって名前だったんだけど、ハナカさんはなんて名前だったの?」
「私の本名は田辺マユミでした。これからも呼び名はハナカでいいよ。」
「そんじゃあ、私から。ハナカさんはここに来る何かキッカケみたいなのあったの?」
そこでガチャッと静かにドアが開いた。
コノミがお茶を持って来てくれたようだった。
「はい、ありがとう。」
ハナカさんはコノミにそう告げると、ハッと思い立ったように言った。
「今度、みんなで温泉に行かない?私、昔っからの夢だったの。いっぱい人誘って、今度の三連休にでも。」
「「それいい‼︎行きたい!」」
コノミとルピが声を揃えて言う。
俺は、周りに聞こえないように
「ちょっと、どうゆうつもりだ?」
「さっきのルピちゃんの質問でちょっと思い出してね……。」
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