椅子一個分の時間

流民

第1話


ここは学校の図書室、そして僕は椅子。今まで、様々な人が僕に腰を掛け、一時の疲れを癒したり、お喋りに夢中になったり、物思いに耽ったりする人を観てきた。

まあ、僕は自分では身動き一つ取れないから、ここでじっとしていることしか出来ないんだけどね。

基本的には僕らは人が利用していない時には暇で、隣の椅子や机と喋ったりして、時間を潰している。

そんな僕らの最近の話題はある男の子と女の子だ。明らかに二人とも好き同士なのに、不器用なのかお互いの距離を詰めれないでいる。

それを僕らは凄く焦れったく観ている。だいたい二人は毎日放課後にやって来る。女の子が先だったり男の子が先だったりは日によってバラバラだけど、よっぽどの何かが無い限りはだいたい毎日来る。だけど、帰りは同じには帰らないんだよね。

話を聴いてると、同じような所に住んでるみたいだけど、お互い恥ずかしいのか、勇気が無いのか、一緒に帰ろうってなかなか言い出せないみたい。本当にもどかしいね。

そう言ってる間に、二人がそろそろ来る時間になったみたい。

学校のチャイムが鳴って、少しして誰かが入ってくる。お、来たみたい。今日は女の子の方が先みたいだね。

扉を入って少し立ち止まり、部屋の中を見渡し、少しがっかりした表情をする女の子。

なんだか初々しいな~。見渡したあとに、ようやく僕の二つ隣の椅子に座る。チアちゃんのところだ。チアちゃんのところに座って、徐に持ってきた本を開くが、どこか集中出来てない感じだねこれは。

それから少ししてまた扉が開くガチャリという音がすると、女の子はそちらの方を少し伺う。

でも、残念……これは全く違う人だったね。

なに、もう少ししたら来るさ。もうちょっと待ってなさいって。

それから少しの間何人かの人が図書室を出入りするが、その度に女の子は扉の方に笑顔を向けて空振りに終わっている。女の子は少し諦めたような表情をして、誰かが入って来ても扉の方を向かなくなった頃だった。

お、ようやく来たな。さあ、待ち人が来たよ、その笑顔を見せてあげな。

って、気が付いてないよこの子……ああ、でも男の子はいつもの通り女の子の席から一つ開けた僕に座ったよ。もう、本当に焦れったいなぁ~。隣に座ればいいのに!

お、僕を引く音で漸く気が付いたみたい。眼があっただけで顔を赤くしちゃって~。本当にこの二人は初々しいくて焦れったいなぁ~。

今日も何だか他人行儀な話し方だし……何時になったらこの二人お互いの気持ちに気がつくんだろう……本当にもう!

もし僕が言葉を話せたらすぐにでも二人に教えてあげるのに!

あー……今日も下校の時間が来ちゃったよ……また二人とも別々に帰っていくし……

全く、本当にどうしようもない二人だな~。


さて、今日も来ましたよこの時間。もう僕達皆はこの二人から目が離せなくなってるよ。もう二人がこの図書室で知り合ってかれこれ十ヶ月位時間が経つけど、本当にこの距離感全く変わらないね。もしかしたらこの二人このまま卒業しちゃうんじゃ無いだろうか? 本当にそれが僕達は不安だよ……なんとかこの二人にお互いの気持ちを教えてあげたいよ本当に。

まあでも、僕らは何も出来ないんだけどね。本当にただ見てるだけしか出来ないのは焦れったいよ。

おお!? でも何か今日は男の子がちょっと雰囲気が違うぞ? どうしたんだ? って、なんだ勉強を教えてもらうのか……でも、女の子の向かい側に座って、今日は僕の所じゃ無いな。でも、何かたまに眼が合っちゃたりして、顔赤くして……これは結構良い感じなんじゃないか? うん? あ、ちょっと手が触れたね。あー、直ぐに引っ込めたけど、それだけで二人とも顔真っ赤にしちゃって……何て言うか、ここまでくるともう天然記念物並の初々しさだね。

おお!? 今度は二人同時に声を掛け合ったよ!? って、二人とも遠慮して両方とも黙っちゃったよ。もう、男なんだからそろそろ君からちゃんと告白しなよ! ほら、おあつらえ向きに図書室には君達以外いないんだからさ!

さあ、勇気を出して君の思いをちゃんと彼女に伝えなさい! もう今しかないよ!

ほら、さあ! おお、言うか? 遂に言うか? えー!? 何で女の子急に立ち上がって帰っちゃうの? ちょっと、ちょっと! もうすぐ、彼告白するよ! いいの? あーあ、行っちゃったよ……彼呆然としてるよ。

まあ、そうだよね。かなり勇気を振り絞ってせっかく告白しようとしたんだもんね。まあ元気出しなって。彼女君の事が嫌いな訳じゃないからね。ほらほら、そんなに落ち込まない! 彼女顔真っ赤にして帰ったから、多分緊張感に耐えられなかっただけだよ。だから君が嫌いな訳じゃないから安心しなって。 今度は逃げられないように壁ドンでもしな、壁ドン。まあ、またチャンスはあるさ。だから、大丈夫。さあ、もう下校の時間だよ。気をつけて帰りなよ。

あー、彼かなりショックだったみたいだね。あんなに元気のない後ろ姿は初めて見たよ。

本当に女の子にももう少しの勇気があればな~。まあ、でも今日はかなりの進展だったぞ。このままいけば、何とか卒業までには間に合うかな? とにかく、頑張ってほしいもんだよあの二人には。


あの告白未遂の日からしばらく、女の子は来なかった。うーん……どうしたんだろうね? 男の子は毎日来てるんだけどね。なんだろう、お互い好きあってるって思ってたのは僕達の勘違いだったのかな? まあ、そんな事はないよね。多分あんな帰り方したから気まずいんだよねきっと。

大丈夫! また直ぐに会えるよ。なんなら教室に会いに行けば良いじゃないか。まあでも、告白するならここでしてよね。僕らみんなその祝福の瞬間を見たいんだからね!

お! 来たよ、来た来た! お目当ての子が来たよ! もう、女の子も顔真っ赤にして部屋におずおずと入ってきて。さ、ささ。こっち座って! 彼待ってたよ!

って、おお! これは……凄いぞ! 歴史に残る大進歩だ! な、なんと彼女が男の子の隣の席に座った! こ、これは凄いことですよ!? 今まで頑なに僕のひとつ空けて隣に座ってた彼女が、男の子の隣、つまり僕の隣の席に座った! これは彼女、遂に覚悟を決めたのか!? さて、男の子の反応は? あれ? なんか思ってたのと違うな……もっと嬉しそうな顔するかと思ったのに……どうしたのさ? 彼女隣に座ったんだぜ? さあ、ゆー言っちゃいなよ! 周りの眼を気にしてるのかい? そんなこと気にしないで、早く言っちゃいなよ! うつむいてる暇なんて無いよ、彼女は覚悟を決めたんだから!

よし、そうそう。彼女の方をしっかり見て……うん、そう、いい感じだよ……さあ、今がチャンスだよ! ほら、さあさあ………………

きたー! 遂に言ったよ! で、彼女の反応は……………………

ちょっと、ちょっと。その間長くない? 早く言ってあげてよ! 彼待ってるじゃん。う、頷いた! きたー、来たよこれー! おめでとう! 本当におめでとう。長かった……本当に長かった……最初にここで見かけてから約一年。卒業までに間に合ったね……。

本当に良かったよ! おめでとう! お幸せに。

おっと、もう行っちゃうの? 気をつけて帰りなよ! ヒューヒュー、熱いよお二人さん!

はぁ……いやいや、良かった良かった。本当にずっと見守り続けて良かったよ。さて、じゃあ僕も頑張りますか!

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