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「随分と自己評価の低い女学生だったのですね。初対面の若い女性に、こんなことを言うのは失礼かもしれませんが、あなたも十分お綺麗だと思いますが」
中年に足を踏み入れてはいるものの、マネキン人形のように整った顔立ちの男は、口元に薄い笑みを湛えていた。他意のない社交辞令なのだろうけど、上から目線で品定めされているような、不快な気分にさせられるのは、十代の頃の卑屈さが、まだ私に残っているからであろうか。
「思春期だったとか、友達がいなかったとか、色々なことが重なって、自意識過剰だったのです。特別な子でいたいのに、普通どころか、人より劣る自分を認めたくなかった。みんなが意識しないで作っている友達の輪から外れてしまうことが、とんでもなく恥ずかしくて、惨めだったけど、みんなが羨ましいと思うのはプライドが傷つくから、孤高を気取りたかった。でも結局、孤高を気取れる程、強くなくて、教室から逃げ出すことしかできず、そんな自分が堪らなく嫌だった。何もかもが駄目な子に思えてしまって、兎に角、自信がなかったのです。誰だって、そういう時期が多かれ少なかれあるものでしょう?」
当時の悲痛な気持ちを思い出し、食い気味にオカルト記者に同意を求めたが、反応は期待外れだった。
「僕にも思春期はありましたが、仰るような精神状態になった記憶はないので、何とも答えられませんね。ただ、家庭環境がやや込み入っていたせいか、中学時代は、やたら一番であることに拘っていました。ぬるま湯の中で育ったお坊ちゃんたちに負けたくないと、野心は人一倍強かったかもしれません。卒業する頃には、一番であり続けることは、さほど難しくないと気づき、肩の力も抜けましたが。あれが、若さ故の自意識過剰と言われれば、そうなのかもしれません」
涼しい顔で、さりげなく自慢を挟んでくるのが嫌らしい。多分、彼なりに努力もしたし、悩みもしたのだろう。でも、如何せん、次元が違い過ぎる。無理に私の低レベルな話に同調してくれなくていいのに、と身勝手にも思ってしまった。
「だけど、自分に自信がなかったからこそ、友達がいなかったからこそ、私はジョージとのやりとりを大事にできたのだと思っています。自分だけの特別な友達が出来たみたいで嬉しかったのは今でも覚えています」
一度は馬鹿らしいと思ってしまったけど、結果的に私は週明けの昼休み、図書室に足を運んだ。他にすることがなかったとか、居場所がなかったとか、言い訳はできるけれども、どんなに強がったところで、本心はジョージの手紙を心待ちにしていたのだ。
「どんな形であれ、友人はいるに越したことはないですよ。そのせいで面倒事に巻き込まれることもある代わりに、思いもしない時に、助けて貰えることもある。例え何もして貰えなくたって、存在だけでも心の支えになる」
親しい友人の顔でも思い浮かべているのか、男の表情は柔和だった。
「まあ、僕の話は余談です。今は櫻内さん、あなたの話だ。それから、自称未来人のジョージとはどうなったのですか?」
すぐに話題がずれてしまったと気づいたようで、オカルト記者は早々に感傷に浸るのをやめ、軌道修正した。浮世離れしているようで、人間臭く、苦労知らずの天才肌のようで、中々の苦労人らしい彼の話をもう少し聞きたい気持ちもあったが、時間は有限だ。
私は甘酸っぱくて、とびきり不思議でロマンチックな初恋の思い出話の続きを語り始めた。オカルト記者は、一瞬だけ見せた優しげな表情はどこへやら、感情を伺わせぬ硝子玉のような瞳で私の話に耳を傾けていた。
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