外伝その1.元サラリーマンは荒廃した世界で戦車に乗りたいようです
「♪フーンフフーンーーっと、くらぁ」
川沿いをツーリングしているせいか、つい鼻歌なんぞが漏れてくる。まぁ、別に隅●川を並走してるワケじゃねーんだけどな。
これで、乗ってるのがカブで荷台に寿司桶でももくくりつけてあれば古きよき江戸っ子の寿司屋さんなんだが、生憎俺の愛車はチョッパータイプだし、車体後部にはゴツい重火器が備え付けてある。
それでも、風を切って走るのが気持ちいいことには変わりはないんだがね。
川の水は何度か見た記憶のある●田川よりもむしろパッと見はきれいで、そのまま飲めそうなくらいだが、かと言ってむやみに近づくワケにもいかん。
『Gughyaaa!!!』
……ほらね? こういう産業廃棄物と水棲生物が合体事故起こしたみたいな輩が水中からホイホイ現れるような場所だしな。
とりあえず、俺は愛車を止め、バイクにまたがったまま、背中から抜き放ったショットガンを適当に「ハサミの代わりにバズーカ砲を両手に付けたようなカニっぽいバケモノ」に向けてブッ放した。
散弾のいいトコロは、適当に狙っても、適当に当たってくれるトコロだな、ウン。某狩りゲーではイマイチ使えん子だったが……。
瞬時にして鉄くず(いや、本当に鉄なのか知らんけど)と化した、モンスター(?)の残骸をしばし観察してみたものの、あまり金目のモノは取れそうにない。せいぜい、比較的マシな状態の腹部の甲羅(?)くらいか。
「しゃーねぇ。ま、コレで一応、今週の依頼は果たしたコトになるはずだしな」
賞金首に比べれば雑魚モンスターの討伐料金なんて雀の涙だが、それでも今日の宿賃くらいにはなるだろう。
俺は、すっかりおなじみになったオータの町に向かってチョッパーを走らせた。
「今日の晩飯は何にすっかなぁ」
さて、いきなり過ぎて何が何だかワケワカメ……なんてロークォリティな方はいないとは思うが、念のため最低限の説明だけ付け加えておこうか。
俺こと某中小ゲームソフトメーカーの広報部に属する平社員だった牧瀬三郎は、ある朝、目が覚めたら世紀末的RPG『鋼鉄叙事詩』ちっくな世界に転生していた。以上!
──何、「唐突すぎる」? 「前振り部分で手を抜くな」?
いや、そうは言われても、発端そのものは驚くほどテンプレな展開だったし……。
* * *
「さ……よみ……れ……この…………っ」」
この世界で最初に目が覚めたのは、このテの話のお約束というべきか、“Dr.ハーバードの研究室”だった。
(なんだよー、俺様が朝に弱いと知ったうえでのこの狼藉か?)
眠い、というよりダルいという感覚に支配されていたその時の俺は、そのまま二度寝を決め込もうとしたんだが……。
「えぇ加減に、起きんかぁ!」
──ボムッ! バチバチバチッ!!
「あんぎゃあ~~!」
電気ショックというより処刑台の電気椅子ってな感じの、すさまじい高圧電流を流しこまれては、低血圧気味な俺もさすがに(?)目を覚まさずにはいられない。
「なにしやがんでぃっ!!」
マンガみたくベッド、いや手術台の上に垂直に30センチばかり跳ね上がって俺は飛び起きた。
「おおっ!? ホントに生き返りおったわい」
もっとも、なんとも無責任な台詞とともにはしゃぐ、いかにもマッドサイエンティスト風の白衣の男を見た途端、驚きのあまり怒りは霧散したけどな。
「え、もしかして……Dr.ハーバード!?」
目の前の初老の男性とその傍らにいる古傷だらけの大男のコンビは、最近中古屋で買って手に入れたゲーム──『鋼鉄叙事詩・参』に出て来る、通常のRPGにおける神官代わりの死体蘇生係、Dr.ハーバードをほうふつとさせた。
「ん? なんじゃ、ワシのこと知っておるのか?」
さらに驚いたことに、思わず口から出た言葉を、当の本人に肯定されちまったし。
(オーケー、とりあえずCOOLになろう。俺の名前は、牧瀬三郎。職業は二流ゲーム会社のサラリーマン。昨晩はふたつ上の兄貴と飲んで、そのまま終電ひとつ前の電車で帰る途中、運よく座れてウトウトしてた……はずなんだが)
常識的に考えれば、この状況、単に『鋼鉄叙事詩』っぽい夢を見てると考えるべきなんだろうけど、生憎身体の痺れと痛み、そして鼻をつく焦げくさい匂いが、そういう逃げを許してくれない。
──どうやら、コレは紛れもなく現実だと認識しておく方がよさそうだ。お約束からすると、俺は『鋼鉄叙事詩・参』の主人公の立場に放り込まれたらしい。
(くぅ~、よりによって『鋼鉄叙事詩』、しかも3作目とは。職業が戦車乗り固定なのは、シリーズのお約束だからまぁいいとしても、主人公、改造人間なんだよなぁ)
一瞬脳裡に「やめろォ、ジョ〇カー! ぶっとばすじょ!」と、手術台に拘束されてわめいている自分という絵面が浮かんだが、とりあえず無視する。
(いや、待てよ。このテの異世界転移?/転生?物の場合、身体は自前のものというパターンもありうるか)
「ドクター、すまんが、鏡はないか?」
「ん? ここに鏡なんて上等なモンはないが、自分の顔が見たいならなら、そこの棚のガラスでも覗いてみてはどうかの?」
言われた通り、得体の知れない薬の瓶がしこたま詰め込まれた棚のガラス部分に自分の顔を映してみる。
「OH……」
結果は──うん、断じて俺の地味メンフェイスじゃないな。
感電の影響か逆立ち気味の乱れ放題な赤毛。一応アジア系だが、沖縄とか東南アジアあたりで見かけそうな浅黒い肌。美形というには少々目鼻のパーツが大きめだが、よく見ればそれなりに整ったワイルド系イケメン(ただし両頬に大きな傷あり)な容貌。
年齢は……わかりにくいけど20歳前後かな。
パッと見の印象や髪の色からして、たぶん『参』の主人公のバレル(デフォルト名)なんだろう。
「ま、とりあえず命があった、って言うか生き返っただけでもメッケモンか。世話になったな、ドクター」
色々考えたいことはあるが、ここでウジウジ悩んでても仕方がないので、とりあえず研究室をお暇することにしよう。
「うむ。ワシとしても、お主は電撃蘇生実験に成功した1号であるからな。折角甦った命、大事に使うがよい」
初老のドクターは、俺から治療費(?)をせびることもなく、思ったより人間味のある台詞と表情で送り出してくれた。
ゲームでは蘇生実験にしか興味がないマッドサイエンティストかと思ってたけど……意外だ。
「あ、ちょい待ち! お主、その風体からして賞金稼ぎじゃろ? もし仲間や知り合いが死ぬ場面に出くわしたら、ぜひ此処へ連れて来て、蘇生実験に使わせてくれ」
──訂正。やっぱ骨の髄までマッドだ。
とは言え、悪い条件じゃない……ってか、むしろある意味望外の幸運とも言えるしな。
「りょーかい。ま、個人的にはそういう状況にならないことを祈るがね」
* * *
てなワケで、ドクターのラボから出て(さすがにゲームの時みたく、恩人の家を家探しして色々持ち出す勇気はなかった)、さて、これからどうするべきかと考えてみる。
くたびれたコートのポケットには財布が遺されていて、意外に中身が入ってる(300ゼーニちょっとあった)のは嬉しい誤算だ。
『鋼鉄叙事詩』のゲームに準拠するなら、このコートとジャングルブーツ、革グローブの3つとも、初期のショップで買える人間用装備と遜色ない防御力を持ってるはずだけど、武器が見当たらないのがイタい。
たしか、この町(というか規模的には集落というべきかも)唯一の宿屋が素泊まり一泊10ゼーニで、一番安い武器──大型ナイフが30ゼーニだったっけか? 大雑把に換算すると1ゼーニ200円くらいかね。
一歩町の外に出たら、半機械半生物なモンスターとか、世紀末的モヒカンとかモヒカンとかモヒカンとかが闊歩している世界(ついでに町の中の人も結構ケンカっぱやい)のはずだから、いつまでも丸腰でいるのは絶対に避けるべきだろうし。
できれば飛道具が欲しいところなんだが、この町のショップだと売ってるのがパチンコ(50ゼーニ)とボウガン(150ゼーニ)なんだよなぁ。前者はともかく後者は、多少は頼りになると思うけど、その程度の代物に全財産の半分を支払うってのも……。
(とは言え、命が安い世界ではした金を惜しむのはどう考えても死亡フラグだよなぁ)
ともあれ、まずは実際に店に行って色々見ながら考えようという、至極無難な結論に達した俺は、ゲーム内の斜め見下ろし画面を思い出しつつ、よろず屋──武器防具から薬から携帯糧食まで諸々売ってる店の方に歩き出したんだが……。
「!」
(あ、アレは……まさか!?)
偶然通りがかった町の門(ちなみに町の周囲には杭が一定間隔で打ち込まれ、その間を有刺鉄線が上中下の3段に巻き付けられて簡単な防御柵が築かれている)のすぐ脇に見知った(?)顔を見つけて愕然とする。
“見知った”と言っても、無論、
ソーダ・ゴワルスキー。推定16、7歳の黒髪黒瞳の美少女で、『鋼鉄叙事詩・参』のヒロイン双璧のひとりだ。この地方でもかなり大きな町を支配するゴワルスキー家当主の娘で、ワガママ&世間知らずといういかにもお嬢様らしい属性の持ち主なため、その自分勝手な性格から、もうひとりのヒロイン・リセ(貧乏&けなげ系)に比べるとプレイヤーの評判がイマイチよろしくなかった気がする。
もっとも、中盤以降は家出して世間の荒波に揉まれたせいか性格が丸くなり、(プレイヤーの選択次第で)主人公に対してデレる姿は、なかなかの萌的破壊力が高かったように思う。
で、そのソーダと主人公のファーストコンタクトは、確かにこのフライングマムの町なんだが……。
(確かソーダって、自分とこの町から恋人と駆け落ち(笑)して、この町にやって来たんじゃなかったっけ?)
いかにもセレブらしいドレス姿で、その恋人(?)の男に対しても、尊大な態度で我儘放題な台詞を巻き散らしていた──はずだ。
それなのに。
今、門の脇に落ち着きなくキョロキョロと挙動不審を絵に描いたような仕草で、辺りを見回している彼女の様子は、どちらかというと小動物っぽい。
服装も(まぁ、この辺境の町の人間よりはだいぶ上質だが)一般庶民と言い張れないこともない、地味めのチュニックとキュロットスカートを履いている。
もしかして、単なる他人の空似で、ゲームに出てくるソーダじゃないのかもとも思ったんだが、この地方で黒髪黒瞳、ついでに(あくまでコーカソイドではなくモンゴロイド系として)抜けるように白い肌という特徴はかなり珍しい。
付け加えて言うと、その容貌自体も、ゲームのCGで表現されていたソーダの顔を、現実に置き換えたら多分こうなるだろうというイメージにそのまんまんだし。
(ん? 何かひとり言いってるのか?)
「ぅぅ……どうしよう……何とか独りでフライングマムの町には来てみたけど、うまく主人公の人と接触できるかなぁ」
──うん、間違いなく、コイツも転生者だ。
原作ゲームの流れに沿うと、これから割とハードな人生送るハメになるんで、なんとかその流れを変えようと、主人公(=俺)に干渉するために来たっぽいな。
実際、ゲームの
ところがどっこい、主人公の中身は、すでに俺、牧瀬三郎クンだったりする。
はてさて、このまま素知らぬ顔で、転生ソーダの話を聞くべきか、はたまたコチラの事情も明かすべきか、あるいは原作の流れに従って動くべきか、いっそ完全に流れをブッ潰すべきか……おもしろいコトになってきたな♪
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