第11話 神信魔法
ノーブルがニコの情報を得たのは【神信魔法】と同じものか近い魔法である。
そう判断した私兵団一同は昼食後の休憩を情報整理に費やすことに満場一致で決まったらしい。
ここでノーブルが一言。
「みんな休もうよ…ニコも寝ちゃったし僕も眠い」
ノーブルの横ではお腹一杯になったニコが毛布に包まってスヤスヤと眠っている。ノーブルはそんなニコに髪を手ぐしで髪を撫でている。
「ノーブル様…結構、ガルダ王国の歴史に残る大事なのです。我慢して下さい…」
ストーンが申し訳なさそうに、かつ逃がさない様に兵士全員で囲む。
「知ったことか!」
「「「「「強気!?」」」」」
「というかみんな剣やら縄やら持って来てニコに何する気さ!」
「えぇと…一番の問題は【海神の恩恵】なのです」
老兵は寝ているニコを一瞥するとノーブルを向き直る。
「ニコが【魔物】とかだって言いたいの?」
「「「「「…」」」」」
私兵団一同はノーブルの威圧にたじろいだ
(うわぁあ…団長…ノーブル様が滅茶苦茶怖いんですけど…なんか急に4歳児とは思えない貫禄があるんですけど…予定通り休憩して村に着いた後でも…)
(バカもん…シベック貴様は人嫌いの【海神の恩恵】持ちなんて村に入れるか!?)
(つまりは刺客…この場合は【海神の使徒】であると…)
(………そうだ)
(それ言ったらノーブル様に確実に嫌われますね…今回の護衛任務の責任者は団長ですし)
(きっ…貴様ぁああああああ!!??)
ヒソヒソ声で喧嘩している私兵団にノーブルはため息を吐いた。
「ねぇシベック」
「えっ?あっ!はい!」
責任擦り付けようとした矢先に突然呼ばれてビビるシベック
「紙に書いた情報だけど一般的にどういう認識されるのか聞いても良い?」
「えっ…なら団長でも…」
「そうです!是非とも私めに…!!」
「シベック!」
「ウグゥ……!?」
「分かりました…」
起死回生の余地を与えないノーブルにまたしても崩れ落ちるストーンを無視し、ニコの情報を記載した羊皮紙に目を向ける。
【グリジオカルニコ】
「名前だな…」
「名前ですね…でも苗字が無いということは王国民では無くどこかの原住民でしょうね…」
「そうなの?」
「嫁さんがそうだったんですよ」
「シベック嫁さんいたんだ…」
「元々冒険者だった奴とかこっちで嫁さん作って定住はよくありますよ」
「へ〜…シベックも?」
「いえ、私は西の帝国のスパイしてたんですか嫁さんに一目惚れして亡命したんですよ」
「…」
【2歳】
「2歳だってさ」
「保護者を待ってたところを見つけたんですよね」
「確か、お婆ちゃんらしいよ」
「こんな所まで来るなんてパワフルなご老人ですね…」
【Deity.1】
「何これ?」
「【神格】ですね。その人がどれだけ世界・人・神に愛され認められてるかが分かります。高い数値で悪い事はありませんよ。」
「シベックやストーンは?」
「僕は30くらいだったかなぁ団長が40くらい…「42じゃい!!」…だそうです。…そういえば僕らに【神信魔法】使えば良いんじゃないんですか?」
「えっ…?…………それもそうか?」
ノーブルはそういってシベックやストーン、兵士たちを見つめる。
「どうです?」
「…………何もないなぁ…詠唱とかないの?」
「いやいやいやいや、ノーブル様に質問した僕も悪いですが【神信魔法】ってホイホイ使えないのが普通なんで!詠唱読んで後は精霊にお任せみたいなのは無理ですよ!?」
「ふーん…シベックとストーンは【恩恵無し】で30・40あるのに【加護持ち】のニコは1なの?」
「【加護】どころか【恩恵】持ちは生まれた時から50近くあるハズなんですけどね…原因は分かりません」
「そっか」
【少年に付き従う幼子】
「これさっき見た時と違うんだよね」
「【称号】ですね。これは日頃の行いやキッカケがあればコロコロ変わるそうです。」
「シベックは?」
「私兵団に入団する時に、スパイだったのもあって身分を明るくする為に神殿で【神信魔法】かけてもらったんですけど…確か…【森の乙女に縋り付く隠密】だったかな?」
「…」
「なんですか…その目は…」
【冥神崇拝の生贄】
「…どう思う?」
「ハーディス家のファンクラブ…とかでは無さそうですね…関わったら凄い面倒臭い事になりそうです。」
「…冥神崇拝については?」
「…どんな団体か、部族か分からないと何とも…」
「…正直、【加護】とか【恩恵】はどうでもいいからコレは何とかしたいんだけどな…」
そういってニコの薄桃色の髪を撫でる。寝ているニコはくすぐったそうに身じろぐ。
「…ノーブル様」
【冥神の加護】
「…シベックの感想は?」
「【ありえないん】です…見える事自体が…」
「ありえない?」
「【冥神】の【恩恵】は【自分で公開する意思】が無い限り【神信魔法】でも開示されないです…つまり【恩恵】より強い【加護】が見れるワケないんですよ…」
「【冥神の恩恵】持ちだから【冥神の加護】見れたって可能性は…?」
「…ノーブル様よくそんな発想思い付きますね…とは言ってもハーディス家のご家族揃って【神信魔法】の検証する必要があるので分かりませんが可能性はあります」
「…分かった」
【海神の恩恵】
「…シベック」
「…」
「感想は?」
「いやいやいやいや…【海神の加護】だったら即【魔王】判定ですよ!?」
「えっ!?そうなの!?」
「あっ!知らなかったんですか…その【加護】の【恩恵】ですよ?」
「…確かにどんな仮説立てても悪いイメージしか湧かないね…」
「…でしょうね」
「…ん?【冥神の加護】は放って置いて【魔王】なの?」
「…( i _ i )」
「…ごめん…確かにワケ分かんないね」
【Equipment.36】
「これは?」
「これも神格と似たようなもので世界・神から見た自分の【身に付けているものの価値】ですね」
「【数値高いほど価値がある】ってこと?それいる?」
「本当に理解早いですね…これに関しては正直いって滅茶苦茶便利です…!」
「…なんで?」
「まず高価な物なら【本物】か【偽物】か分かります。」
「…うーん便利だけど、神に聞くにはなんか規模が小さくない?」
「それは一個人としての範囲で考えてるからですね…論功行賞の報酬や外交なんかでは…」
「うーん…」
「冒険者ギルドで倒した高ランクな魔物素材の判別で重宝されます。」
「あっ…分かりやすい!」
【青金剛の呪い墨】
「これは知ってる?ニコの顔に入ってる模様だと思うけど?」
「どう見ても顔の入れ墨でしょう…【青金剛】に【呪い墨】どちらも始めて聞きますね…顔に墨や泥を塗る原住民は珍しくないですが【呪い】のなるとお手上げですね。」
「まだ知られてない原住民とかじゃないの?」
「可能性はあります」
【海竜のスケイルドレス】
「これは、そのまんまだろうね」
「…」
「シベック?」
「…先程、装備の価値が数値で分かるって話をしましたよね?」
「うん」
「呪いの墨自体に価値は無いに等しいと思うます。よってニコ様のお召し物単品の数値であったとします。」
「う…うん」
「…冒険者ギルドで登録されているAランクの素材でも【20】近ければ上等です」
「…つまり?」
「国宝クラスの中でも最高位のものです…貴族の地位が買えるどころか領地と屋敷も付いてきますね…」
「………でも生贄なんだよね?」
「…ニコ様が住んでいた場所の価値基準がどうなっているのか分かりませんとどうにも…」
「…そっか、…ふぅ…とりあえずこれで情報の整理は簡単には出来たね。」
そう言ってノーブルは一息つく、シベックも同様に気持ちの整理が出来たようで先程の焦燥感は和らいでいる。
ノーブルは寝ているニコの頭を撫でながら、整理した情報を元に今後のことを考えて始めた。
(…僕としてはニコの保護者を一緒に待ちたいところだけど…1人じゃ無理なことが多すぎる…)
「シベック…いや…私兵団のみんな、僕はニコの保護者をこのまま待ちたいけど…どうかな?」
シベックはノーブルの提案を聞き、「オイ!責任者!出てこい!」みたいな視線を私兵団団長ストーンに送る。
ストーンは私兵団からの視線を受けながらと口を開く。
「ノーブル様…ニコ様はご友人という事で無下にすることは致しません。当初は日帰りの予定でしたが、事情も重なり獣人族の村で1泊することも視野に入れておりま。」
「ふんふん…要するに?」
「村へ日暮れ前に辿り着ける時間まで出発は待たせましょう。」
思ったより融通を効かせてくれたことに驚くノーブル。
「…うん、ありがとう。時間が過ぎた場合は?」
「…ニコ様には村に着いてきて貰おうと思います。」
ストーンが苦い顔をしながら提案した内容に私兵団全員が驚く。
「【海神の恩恵】は危険だから村どころか僕と同行させるのもダメかと思ってたけど…」
「正直なところ、事が起こり過ぎてて手が足りないんですよ…先程、【索敵魔法(レッドシーカー)】を使ったのですがニコ様に反応しませんでした」
「!?…【冥神の加護と恩恵】だね…」
「はい…ノーブル様には【探知魔法(レッドマーカー)】が打ち込んであるのでソレで追えます。ニコ様にも同様に使おうと思います。」
「連れて行くにしても別れるにしても【冥神】に関わってたら見過ごせないよね…」
「【海神】も含めてですね…それに別れることはないでしょう」
「ん?何で?爺?」
「えっ?」
「えっ?」
急に話が噛み合わなくなりポカンした顔で見つめ合う2人。
「保護者が来るまでの間でしょ?」
「えっ?いや…?【冥神の加護】に【海神の恩恵】ですぞ?保護者共々、監視下に置く必要があるかと…あっ!?」
ストーンが気付いた時には遅く、既に不機嫌な顔をしたノーブルがいた。
「………いいよ?続けて?ニコと保護者の待遇についてさ」
「…はっ…はい、保護者の方にはニコ様についての情報の提供を…ニコ様自身はノーブル様の【神信魔法】の内容が真実であると…その…王都の…神殿に連れて行き【加護】と【恩恵】を証明するべきかと思います…」
恐る恐る進言していくストーン、それを目を閉じ幼い顔の眉間には似合わないシワが寄っている。
「…………ん…分かった…」
しばらく黙考した後、ノーブルは快諾の意を告げた。
「はっ!理解していただけたこと、深く感謝致します!」
ストーンはノーブルの前でそう言って跪く。
「揺れにて見え会わす【レッドマーカー】」
ノーブルはそう言うと魔力が湧き、寝ているニコを光が包んだ。
「…んぁ……………ぅん?…ノーブル?」
光はニコの体に溶けていき、変な感触でもしたのか眠りから目を覚ます。状況を理解出来ていないのかポカンとした表情だ。そんなニコにノーブルは優しく声をかける。
「うん、ごめんね起こしちゃったね?僕もお昼寝したいから馬車に行こうか。」
「……………?………ぅん?ううん…わかんないけどダイジョウブだよ!」
そんな二人を見ていた私兵団一同は硬直していた。
「「「「「えっ?」」」」」
ノーブルは私兵団に振り向くと告げた。
「爺が言ってたじゃないか【手が足りない】【探知魔法を使う】ってさ」
そう言って話は終わりだとニコと手を繋いで岩から立ち上がり、馬車に向かって歩き出した。後ろではストーンが混乱していた。
「えっ…えっえええええ!?いっ…言いましたがノーブル様が使わな…というか使えたんですか!?ええええええええええええっ!?」
騒ぐ私兵団一同を無視しノーブルはニコの小さな柔らかい手を優しく握りながら、誰にも聞こえないであろう大きさの声で呟いた。
「力持ちじゃなくてゴメンね」
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