第10話 昼の一時


ガルダ王国で1番親しまれている献立は、

裸青麦を煎った粉で焼かれた【パン】

塩とバターのスープ状ののもの【バター茶】(貴族はこれにチーズが入る)

牛・羊の塩漬け肉【ジャーキー】

焼き芋や野山・果樹園で採れる果物などである。


王国北部の主産業は裸青麦と芋類である。特に麦はガルダ王国全域での主食として必須となっている。牛乳にバター・チーズも愛され、家畜の牛自体も大事な食料だ。


王国東部にある岩塩鉱床は東の大公国と衝突はあるものの比較的平和に供給出来ている。


王国西部の大草原では馬や羊が多く育てられている。1年のうちの1カ月しか収穫できない草原キノコも有名である。


王国南部では主に林業や果樹園が盛んだが他の地域とそこまで差がある訳では無い、しかし南部辺境という別世界から来る資源は貴族や商人の注目の的である。


そんな南部辺境でのノーブルとニコ・私兵団一行は焚き火を囲んで昼食支度をしていた。


「バターひとかけらと香草の粉、そして塩を山キノコや肉の上にふりかけて串に刺して焼きます」


そういってシベックは焚き火の前で舌舐めずりしながら食材を手慣れた手付きで次々と炙っていく。


「作ってるところ初めて見たけど豪快だね」


南部辺境では草原キノコの代わりにプルー湖東部で採れる山キノコを使っている。兎肉は見回りの時に採ってきたそうだ。


山羊の乳からつくったバターと塩で味付けされ焚き火の上で炙られてるそれはテカテカと光り、美味しそうな匂いを辺りに漂う。


「南部辺境の料理はガルダ王国料理というよりもプルー湖原住民寄りのため独特でクセが強いんですよ…あっ!ノーブル様その肉もうひっくり返して良いですよ」


そういってノーブルは近くにあった串焼きをひっくり返す。火遊びしたい少年のワガママにを折れてシベックは調理の手伝いをさせている。


「おっとと…クセが強い?どれが一般的なのかよく分かんないけどバター茶は苦手なんだよなぁ…兄上は王都の料理は薄くて食べた気がしないとか言ってたし…」


「この前、調査隊が本家の屋敷に挨拶しに来た時に南部辺境の料理を嫌がらせにそのまま提供したら、王国中央の人は食べにくかったらしいですよ。」


「父上は何してるんだ…」


「ジャンテ様の場合は逆で物足りないんでしょう…私もバター茶は昔はパンに付けて良く食べてましたが、今は脂っこくて好みませんね」


そう言ってシベックはノーブルとニコの持つ木製の器に、山キノコと野生のタマネギ、炙った兎肉の串焼きに山羊のソーセージを添えた。


「この味付けした肉とキノコと一緒にパンと芋を食べてくださいね。タレがかかって美味いんですよ」


シベックはそう言って笑うとストーンや他の兵士たちの分も盛り付け始めた。


「よしニコ座って食べようか!」


「うん!美味しそう!」


そう言って調理している焚き火から離れ、岩に腰掛けると待ってましたと言わんばかりにニコはお肉を頬張る。


「あっ!あっふぅい!へぇと…おぅひい!」


「そっか!美味しいか!」


2人が並んで和気あいあいと美味しそうに昼食を取る一方で暗い雰囲気の老兵が1人。


「はぁあああ…」


老兵ストーンは落ち込んでいた。


「団長…美味いメシの前で溜息つかないでくださいよ…」


シベックは料理を乗せた皿をストーンに渡すと近くの手頃な岩に腰下ろす。


「はぁあ…どうせ儂なんか…」


「ノーブル様ー!団長が面倒臭いんですけど!本当に何があったんです!?戻って来てからこんな感じで僕も限界ですよ!?」


シベックは想像以上に重症な上司を見かねてノーブルに助けを求める。


ニコが美味しそうに食べるのを眺めてたノーブルはシベックに振り向く。


「ん?ニコに【冥神の加護】があるって言ったら爺が冗談言うなって怒られただけだよ」

「「はいっ!?」

見回りに行っていた2人はその発言に驚き、そして団長含む3人の様子に納得がいく。シベックは生真面目過ぎる団長がノーブルの情報を精査する前に説教したんだろうな想像した。


「ノーブル様…まぁ自分も言いたいことありますが【加護持ちだとどうやって知ったんですか?】」


シベックの発言に俯いていたストーンだけでなく他の3人も顔を向ける。


「ニコを見つけて【何者なのかなぁ?】って考えてたら頭の中に名前と何歳かとか加護とか色々入ってきたよ」

「「「「「!!!???」」」」」

驚愕する私兵団一同。


「ねぇこれも魔法なの?」

シベックは苦笑すると頷き


「…【神信魔法】という世界…【神の目から見たもの】の情報を手に入れる魔法がありますね」


「ならその魔法だったのかなぁ…?」

ノーブルは先程の情報を入ってきた気持ち悪さを思い出し苦い顔をする。


「お言葉ですが…【神信魔法】は神を祀る為に祭壇や神官職に就ける位の魔力の扱いに長けた人が10人以上は必要な儀式魔法です…本来は成人の儀や論功行賞の場などでしか使えない規模のものなのです」


「成る程…みんなが信じないワケだよね…」

ノーブルが納得するとストーンが飛びつく勢いで詰め寄る。


「分かってくれますかぁあ!ノーブル様ぁあ!」

「「!?」」

余りの勢いにニコは料理の器を持ったままノーブルの後ろに隠れる。


「…ニコ大丈夫だよ…爺うるさい!」

「ウグゥ……!?」


ノーブルが一喝すると矢でも突き刺さったように呻き声を上げ跪き、その一連の流れを見たシベックは冷たい視線をストーンに送る。


「…団長、ノーブル様を第一に考えるのは良いですが、ニコ様は現状、ノーブル様のご友人として敬うべきです。ニコ様の心象はノーブル様に直結します。蔑ろにすると本当に嫌われますよ…」


「…グヌウゥ……わ…分かった…申し訳ありませんノーブル様、ニコ様。」

そう言って元の位置に戻るストーン。それを見送った後、シベックはノーブルに向き直ると質問を続ける。


「一応、ノーブル様に現れた情報について確認してもよろしいでしょうか?」

「分かった…紙とか書くものある?」


「はい、【神信魔法】の確認で使うとは思いませんでしたが、ニコ様の事を記録する必要があったので持って来ています。」

そう言うとシベックは調理器具をまとめたところに置いてあった木箱を開け、羊皮紙と細い棒状の木炭を取り出し持って来た。木炭にはノーブルの手が汚れない様にハンカチが巻かれている。


「ノーブル様これを…」

「ありがとう…それじゃ…もう一回試しに、ニコ」


「ん?なにノーブル?」

ノーブルはニコを見ると「この子は何者なんだろうか?」と念じる。


グリジオカルニコ


2歳

Deity.1

少年に付き従う幼子

冥神崇拝の生贄

冥神の加護

海神の恩恵

Equipment.36

青金剛の呪い墨

海竜のスケイルドレス


「…」

「どーしたの?ノーブル?」

心配そうにこちらを見るニコに我に返るノーブル。


「ん?大丈夫だよニコ、気にせずご飯食べてて」

「うん」

元気よく頷いたニコは串焼き肉のタレがかかったパンも美味しそうに食べ始めた。


(なんか情報が変わっていたが…まぁいいか)

目の前でシベックがキョトンとした顔で2人を見ていたが、ノーブルは気をとり直して、羊皮紙に情報を書き込んでいく。


「…よし…書けたよ!どうぞ」

そう言って書き終わった羊皮紙と一緒に木炭も渡す。


「はっ!お手数おかけしました。確認させて…うはっ!…字が僕より綺麗…………なん……………で……………え…ぁえ!?」

羊皮紙の内容を確認したシベックは驚愕し、肩がプルプルしている。


「どうしたのだシベック!報告せんか!」

ただならぬ雰囲気に全員食事の手が止まる。


「……あの…団長…」

シベックは自分では処理できないと判断したのか助けを求める。


「なんだ!」

ストーンが問いただすとシベックは半泣きになりながら振り返る。


「【神信魔法】で得られる情報と同じでしたぁあ…」

「なんだと!?」


ストーン同様に驚愕する兵士たち


「あとこれ内容が色々ヤバいんですよぉぉお!?」

そう言ってストーンに泣き付きながら羊皮紙を兵士たちに見えるように見せる。


「「「「「なんじゃこりゃぁああああ!!??」」」」」

ちなみに昼食のデザートは山羊のヨーグルトジュース。南部辺境で採れるキビの砂糖に野山で取れる野イチゴ使い、甘く濃厚で大変美味であった。

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