第7話・なにもの

「あっ!」


ノーブルの発動した【火系の探索魔法・レッドシーカー】の魔眼の効力が切れる。【赤と黒】【何故か白い光】のみの世界が捌けるように消えていく。


(確かあっちの方…ん〜小さい川があるけど光ってたところ大きい岩が多くて、あの岩が光ってたのかな?よく分かんないな……うーん…気になる気になる気になる)


興味が勝ったノーブルは厚手の布地を掛けた岩から立ち上がると岩場の隙間から見える川に向かって歩き出すのであった。


そもそも広大な自然の中で遊び盛りの男の子がジッとしてられる方が変わり者なのだ。


=老兵ストーン=


「むむっ…やはり動きましたか」


ストーンは馬車から自分の着替えと身体を拭く布を取り出しているとノーブルの【赤】が移動したことに気付いた。【火系の探知魔法レッドマーカー】でノーブルに予め打ち込んである魔力を追うことでノーブルの【赤】を特定する事が出来る。


(ふーむ…向かった先は特にありませんな、小動物くらいの反応しかありませんし、あ〜…ノーブル様が近づいたら離れて行きましたな…おや?いくつか動かない反応は何だろうか?)


気になってノーブルが向かった先を見やると山脈の雪解け水が流れる複数の川の1つがあり、そこに高さは1メートルと少しくらいの岩がゴロゴロしていた。そこで何か探してるようだった。


(成る程、4歳のノーブル様のお身体では岩が影になって見えんな、この時期の雪解けの川なら苔もないし滑る事もないだろう…ほっほっほっ!元気で結構!)


自分の教えた魔法を使って探検している男の子を見つめながら嬉しそうに微笑んでると、馬車に向かって私兵団の騎兵がやってくる。


「ストーン団ちょ…って、ええ〜…何で上裸でニヤニヤしてんですか?怖いですよ…」


若い騎兵1人が馬から降りながら嫌そうな顔で声をかける。

連れのもう1人もブンブンと首を縦に振る。


「何だその不審者を見る目は…ノーブル様に魔法を教えるために何回か【火系の反応強化】を使っただけだ!」


その言葉に若い兵士はギョッと目を見張る。


「えっ!?ええええ〜!ノーブル様はもう魔法の【余波】を感知出来るんですか!?」


「儂も…ゴホン…!私も驚かされたわ!シベック…どうやらお前と私の【探知魔法】を打ち込んだのがキッカケになった様だぞ?」


「ああ〜…あんだけ周囲の濃い【魔力】見た後にあんな馬鹿デカい【変質した魔力】打ち込まれれば理解しますよね。」


シベックと呼ばれた若い兵士は先の件を思い出し苦笑すると兜を取った。兜で固まった髪をガシガシと解くと寝癖の様なクセっ毛が現れる。


「…っというかサラッとオレ巻き込んでません?【イナスタジアム】打ち込む前にはノーブル様は気絶してましたからね!?」


「うるさいぞ!貴様らも同罪だぁああ!」


無理矢理共犯に仕立て上げてくる上司に気怠げな目を向けるシベック


「わー理不じ…あっ…何ですかその拳…ちょ…ぶべらっ!!?」


顎に鉄拳にもらって、沈む部下に一つ鼻息を鳴らすとトーンは馬車に振り返り着替えの続きをするのだった。


=少年ノーブル=


川に向かって歩いて行くと、足音に気付いた野兎に野鼠のような小動物がザザザザっと一気に離れて行く。そして一旦立ち止まりこっちの様子を伺っている。


その様子に一瞬、追いかけ回したくなる様な衝動に駆られる


(まぁ…どうせ追いつけないよなぁ)


衝動を経験から得られた理性により掻き消し、小さな探検してを続行する。


自分の身長くらいある岩の間を抜けたり、たまに飛び乗ったり降りたりしながら【白い光】があった辺りまで足を運ぶ。


(この辺りだった気がするけど…もう一度魔法使おうかな?)


そんなことを考えながら乗っていた岩から飛び降りる。タタンっと小気味良い音を響き渡り。川の近くで休んでいた高山に住む色鮮やか鳥たちがパタタタっと羽音を立てながら、ノーブルの近くを飛べ去る。ノーブルは驚いて尻もちつきそうになるのを近くの岩に手をつく事で回避する。


「うおぅ…!?…っと…とと……はあぁ…いきなりで驚い………………………………………」

鳥たちが飛び去った方向を恨みがましく見ようとすると、視界に端にチラッと風景に合わない【白い何か】が見えた気がした。


ノーブルはその【白い何か】が見えた方向に向き直る。


其処には


ジッとこちらを見る美しい青く輝く瞳。それは鉱石の【蒼玉】を思わせるが如く青と緑が複雑に融合されている。


手入れがされてないのか癖っ毛だらけの薄桃色の髪。それでも髪本来の艶やかさは保ち。太陽の光に乱反射し、透明度の高い【紅水晶】を連想させる。


土や泥が染み付いた全体的に白い服。使われている素材は生物の鱗なのか、白と青のグラデーションは染物とは違い。【金剛石】と【緑柱石】を散りばめたかの様に幻想的である。


それらの鉱石を台無しにするかの様に、危険を示すかの様に


恐ろしい青紫色で刻まれている【入れ墨】のある顔を持った幼子が川のほとりで座っていた。


【何だろうあの子は?】のノーブルは思った。


グリジオカルニコ


2歳


Deity.1


寄る辺無き幼子


冥神崇拝の生贄


冥神の加護


海神の恩恵


Equipment.36


青金剛の呪い墨


海竜のスケイルドレス


「……………」

ノーブルは突然湧いて出た【情報】に思わず身を固めた。考察に入ろうとした瞬間、答えがやってくる。自分の中に誰かがいるような疎外感と身体が自分の思い通りに行かない嫌悪感に支配される。


(えっ…ええ…あっ…んんん…と…ダッ…ダメだ…分かったようで分かんない…何だこれ…これ…キモチワルイ…ホント何者なんだあの子…!?)


混乱し、頭を抱えながら【同じ思考】をしてしまう。


グリジオカルニコ


2歳


Deity.1


冥神崇拝の生贄


冥神の加護


海神の恩恵


Equipment.36


青金剛の呪い墨


海竜のスケイルドレス


(だぁああああああ!もう!しつっこい!)


再び自分の考察に没入しようとして、引っ張り上げられる。


(ナンダコレナンダコレナンダコレハ…そうだ!あの子は何ともないのか…!?)


【情報】が入ってきた時に頭を抱えてたため目を離したが謎の幼子(すでに謎ではない)も同じ状態ではないかと心配と現状の自分を理解してくれるかもという期待を胸に相手を見やると


可哀想な人を見る目でノーブルを見ていた。


(…………失礼な…)


そんな幼子の態度に、1人思考の渦へとハマっていたのがバカらしくなった。冷静になって今まで呼吸をしてなかったことに気付いたノーブルはとりあえず気持ちだけでも切り替えようと一度深く深呼吸をした。


「すぅううう…はぁあああ…」


久しぶりの深呼吸で思考だけでなく世界までクリアになる感覚に気持ちが良くなる。先程の倦怠感や嫌悪感に苛まれる状態からは回復した。


「………よし!」


そう声をあげて、幼子の方を見つめる。幼子は驚いた様にギョッっと青い目を見開いた。


そして【僕】は【あの子】に向かって歩き出す。

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