愛犬バズ公


 昨日犬が人を五人も噛み殺したって事件があったろ? ありゃうちの犬だぞ、おい。やべぇやべぇ。ちょっと隠しとかなくちゃ、うちのバズ公をよ。


 大体五人もやるこたぁねぇのによ、あのバカ犬。あのクソ親父だけだったんだ、俺が言ったのは。こっちが気分よく歩いてるとこに、後ろからクラクションなんか鳴らしやがって、エラっそうに。頭に来るぜ。だから俺はバズに噛みつけって言ってやった。言うよ、お前みたいな奴には、俺は。バズ、あいつに噛みつけ! やれ! そしたらあのバカ犬、周りにいた関係ない連中までガブリさ。強烈だからな。鍛えてあるから。うちのバズ公は人間がぎゃあつく騒ぎ出すと頭に血が上ってわけが分からなくなっちまうんだな。でも最高の犬じゃねぇか、え?


 バズ公がこれまでにやった人数? ちょっと数え切れねぇな。ホントしょっちゅうだから。でも夢に出てくるぜ、やられた奴ら。だいたい大勢でいっぺんにな。連中、わんわん、わんわんって俺に向かって吠え立てやがるのさ。ありゃ抗議してるんだろうな。何となく分かるぜ。でも少しも怖くねぇ。うるせぇだけ。だから俺は夢の中にもバズを連れて行くんだ。それで言うね、俺は、ああいう奴らには。やれ、バズ! 皆殺しにしろ! うちのバズ公は喜んでやるさ。そういうのが大好きだから。血祭りよ、血祭り。


 そりゃ夢さ。でも妙なことに、そういう夢を見た次の日、バズの野郎、夢の中で散々やりまくったっていうのに、こっちの世界でもやりたくてやりたくてしょうがねぇって顔してやがる。もう目がギンギラしちゃって、やべぇの。まぁ俺と同じ夢を見たのかもしれないよな。何しろ俺の犬なんだから。最高の相棒だろ、え?


 とにかく、こうなったらもうやることやらなきゃ収まりがつかねぇ。それで俺はあいつとお散歩と洒落込むわけよ。思わず大声で言いそうになっちまうね。やっちまえ! 手当たり次第にやれ、バズ公! やれー! って、言わねぇけど、面白そうだろ? でもお前らみたいな連中がいたら、俺は言うね。やれ、バズ! 噛みつけ! 脳みそまで食っちまえ!






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