捨て魔法少女と僕

ごんべい

捨て魔法少女と僕

 その日は、雨が降っていた。

 

 僕の目の前にはダンボールハウスの中で、コンビニのおにぎりを頬張る魔法少女がいた。

 くすんだ金色の髪の毛に、変な帽子をかぶっていて、ノースリーブの桃色を基調とした大胆な服と、下着を隠す気はあるのかと思うほど短いフリフリのスカート。華奢な足を覆っているニーソックスは太腿辺りまでのが右、左は膝ぐらいまでしか隠していない。

 彼女が着ている服はボロボロで、その大胆さが更に強調されてしまっている。

「うーん、あなたはいい人だねぇ」

 間延びした声でお礼をいいながら、2つ目のおにぎりに手をつけている。よっぽどお腹が減っているのか、ひたすらコンビニの袋から僕が買ってきた食物を頬張っている。

 かわいい、のか。いや、かわいい。リスみたいに必死で食べ物を頬張っている姿は小動物的な可愛さがある。

「いやぁ、おいしい。うん、おいしい。本当にあなたは、うん、いい人」

「いい人なのはいいけど、君、お父さんとかお母さんはいないの?」

 見た目はどう考えても僕より下だ。中学生ぐらいかな。人懐っこい声に、あどけなさが多分に残る顔と、女性らしい凹凸が全くない身体。

 傍から見たら、もしかして僕って犯罪者ってやつかもしれない。まぁ、でも通りがかった公園で、ダンボールハウスの中から「食べ物ください」なんて言う少女を見過ごすわけにもいくまい。

「父上も母上もいないよ。私はご主人様に捨てられた魔法少女だからね。ご主人様にとって私は使えない魔法少女だったのです」

 捨て魔法少女。

 この世界とは違う世界から流れ着いてきた特異な存在。それが捨て魔法少女だ。別に捨てられているのは魔法少女だけじゃない。捨て勇者とか、捨て女神様なんてのもいる。

 彼女たちはその世界から不要になり、忘れ去られたとき、世界から弾き出され、そしてどこかの世界に流れ着く。強大な力を持つ者は、その世界を滅ぼしかねないから、世界がそれを許容しない。

「そんなことはない。君はきっと、君にしか守れない物を守ったはずだ」

「そう、かなぁ。そうだったらいいなぁ」

 彼女たちはその力を流れ着いた世界で使うことはできない。彼女たちの力は、元いた世界でのみ通用する法則で行使されるからだ。だから、ルールの違う世界では力を使うことはできない。

 この地球は、ちょうどいい廃棄場だ。この世界には特別な力は何も存在しない。魔法も、超能力も、何もかも。世界をどうにかしてしまうような力なんて、何もない。

「住むところがないなら、うちに来ればいい」

「えへへ、ありがとう。でもなんだか悪いよ。見ず知らずの人には着いて行くなって、お兄ちゃんも言ってたし」

「遠慮なんてする必要はない。僕は、まぁ、怪しい人じゃないし、君1人が増えたって僕の生活は変わらない」

「でも、私もうすぐ死んじゃうよ? 分かるんだ。この世界には全然魔力がないしね。私の身体、もう魔力がないと生きていけなくなっちゃってるし」

「それでもいい。どうか、僕に君を救わせて欲しい」

 だって、僕は勇者だったんだ。この世界に流れ着いてきて、何とか生活できるようになった。同じ違う世界からやって来た人に出会って、救われたんだ。

 だから、今度は僕の番だ。そうじゃなきゃ、だめだ。僕は1つの世界だって救った勇者で、英雄なんだ。目の前の困ってる女の子ぐらい救わせてくれたっていいだろう?

「あなたって、お人好しなんだね。だけどね。もう終わり。最期においしい物食べたかったから、あなたに出会えて本当に良かったよ」

「やめろよ、君はまだ死なない。この世界で、生きていくんだ」

 特別な力を失った僕らは、もう世界を救えない。だけど、だからって死んでいいわけない。用済みになったからって、それで僕らの人生が終わるわけじゃないだろ。

「ううん、もう死んじゃうよ。他の皆もそうだったから。えへへ、私ようやく皆の元にいけるんだ。ばいばい、優しい人」

 そう言うと彼女は、はじめからそこに存在しなかったかのように消え失せた。

 世界を救った僕は、もう何も力を持たない村人にすぎなかった。僕は与えられた力がなければ、目の前で死んでいく少女の1人だって、救えない――。

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