けもの探偵タイリクオオカミ

@nekocharain

第1話 けもの事件

 私の名前はタイリクオオカミ。作家である。現在、宿泊施設「ロッジアリツカ」に長期滞在しながら、長編漫画『ホラー探偵ギロギロ』の新作を書いている。原稿に向かってペンを走らせている時は至福のひとときで、今日もこうして新たな物語が紙の上に生まれている。

 私がもし文字を読むことが出来る動物だったなら、文字を使って物語を紡いだのであろうけど、生憎私はフレンズであり、けものである。以前博士たちの縄張りである図書館に立ち寄った際に、彼女らが所有していた「本」を見せてもらったことがあるが、私には何一つ理解することが出来なかった。数日前にここにサーバルキャットとともに滞在した「かばん」という動物は、文字を読むことが出来るようだったので、羨ましいことこの上ない。フレンズが苦手としている、複雑な思考を「かばん」は持ち合わせていた。「かばん」も、物語を作れば、きっと面白いものが出来上がるだろう。

 私は中断していた思考を、再び原稿へと向けた。と、その時である。


「せんせぇ~! ジャパリまん持ってきました~!」


 無邪気な声を上げながら、アミメキリンが私の部屋へと入ってきた。ニコニコと楽しそうな顔をしている。全く、のんきなものだ。


「よし、じゃあ休憩するか」

「はい! それで、あの先生…新作の方は…?」

「あぁ、五枚ほど書き上がっているよ。 見るかい?」

「はい! もう! 是非!」


 私が原稿を渡すと、アミメキリンはベッドの上に腰掛け、一心不乱に読み出した。眠るときと同じで、独特なポーズで読んでいる。

 私は、彼女が持ってきたジャパリまんを頬張りながら、次の話の構想を頭の中で練ろうとした。

 ドン、ドン。

 突然、ドアをノックする音。

「あのぅ、よろしいでしょうか?」

 ドアの向こうから、ロッジアリツカの管理人であるアリツカゲラの声がした。

「あぁ、どうぞ」

 アリツカゲラは、私を長期滞在させてもらっている恩人なので、丁重に対応しなくてはならないが、そうさせない独特の雰囲気があるフレンズだ。

「失礼しますぅ…あのぉ、タイリクオオカミさんに、お客さんが来られています」

「私に? 一体誰だ?」

「待って! 私に推理させて!」

 突然アミメキリンが私の会話を遮った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

けもの探偵タイリクオオカミ @nekocharain

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る