風雲!?ヘラジカ城!

@sakayu-

1話

「きみ、ちょっといいかな」


ドッタンバッタン大騒ぎのセルリアン退治アンドかばんの正体判明記念パーティーが終わり

冷たさを増す空気の中、料理の残り火を片付けるヒグマの背後から凛とした声が響いた。

自信に満ちた、それでいて親しみのある美しい声

振り向かなくてもわかる、ヘラジカだ。

(私もきみと話をしたいと思っていた。)

「やあやあ私はヘラジカだ。きみとっても強いんだなあ、ちょっと勝負しないか?」

一言一句予想通りの言葉に吹き出しそうになる。どこまでも真っ直ぐだ。

「ひとつ条件がある。きみにもハンターとして活躍してもらいたい」

「いいとも」

「いいのかい」

「まずは勝負だ」

(なるほど、私が勝ったらヘラジカもハンターになってくれる。そういう条件か。)

「では何で勝負する?」

「そうだなあ、、あっそうだ!この前ライオンからお城を借りてな。1週間後、そこの最上階で待つ。」

お城。

話には何度か聞いたことがあるがまだ見たことはない。楽しみになってきた。


セルリアン退治のつかの間の休息。

ヒグマは先日のヘラジカとの約束の話を広げてみた。

「ヘラジカは最近ライオンとも仲良くなって、多くの仲間に囲まれていると聞きます」

「変なことを仕掛けてくるとも思いませんが、お供しましょうか?」

「おしろってどんなところなんですかねえ?」

「すごく白いんじゃないか?」

「尾が白いのかな?」

「ミナミコアリクイみたいな?可愛い」

脱線するハンター仲間のキンシコウとリカオン。

「一緒に行くか?」

「いいんですか!?」

「オーダー了解です!」

飛び上がるキンシコウと即座に旅立ちの準備を始めたリカオンに

ヒグマは苦笑いを隠せなかったが、思えばへいげんちほーにはヒグマ自身あまり足を運んだことがなかった。

セルリアン討伐の依頼がほとんど無いからだ。

「その前に仕事を全て片付ける、とびきりハードに行くぞ」

内容と反対の喜びを含んだ声が辺りに響いた。


「ここがへいげんちほーですか、長閑なところですね~」

キンシコウが伸びをする。

「遊びに来たんじゃないぞ」

とはいうものの辺りにセルリアンの気配もない。

しばらく進むと斥候のリカオンが待っていた

「この先にヘラジカの部下が二体。こちらから仕掛けますか?」

「武器の準備だけはしておけ」

「ヤマアラシとシロサイです。」

リカオンが目視で確認する。

「それぞれ攻撃と防御に特化すればかなりのものですね。弱点もありますが。」

キンシコウが分析する。

二人とも頼りになる仲間だ。

「お待ちしており、、お待ちなサーイ!」

こちらに気づいたシロサイが我々の武器を見て声を上げる。

「ヘラジカ様からお城に案内するようにとのこと、ですぅ」

トゲトゲの尻尾と似つかわない丸い声のヤマアラシ。


丁寧に敷き詰められた石の上を先導の二人に続き歩くと

一目、それ、とわかるものが目に映った。

真白い、土?と石

微かに木の匂いもする。

キンシコウとリカオンは喜びのあまり駆け出した。

ヒグマも自然と足早になる。

大きい、思ったよりはるかに。

まるで白い山だ。

その一番上でヘラジカが待っている。


「よく来たな、ヒグマ」

「約束だからな、ヘラジカ」

そう、私は勝負のためにここに来た。

「戦うかい?」

ヒグマがそう言うとヘラジカはうーんと唸った。

「そのつもりだったのだが、二人が暴れたらお城が壊れるって皆に怒られてしまったのだ」

私もそう思う。

「それで思いついたんだ。強さだけじゃなく勇気も試される、皆が参加できる最高の勝負だ」

ヘラジカは外に通じる戸を開けた。

眼下にへいげんちほーが広がる。

「そこに面白いものが付いているだろう?地面まで降りられる坂道だ。

そこを駆け下りて地面の手前でジャンプして、その距離を競うというのはどうだろうか?

そちらが三人、こちらも三人での団体戦だ」

面白い。そして、しめた、とヒグマは思った。

こちらの仲間にはスピードと勇気のあるリカオン、

飛び回るのが得意なキンシコウがいる。

これなら勝てる。


ヒグマは答えた。

「いいだろう」

「では一番手は私だ」

ヘラジカが天守閣から身を乗り出して準備をする。

下で計測係のアルマジロ、ヤマアラシと応援するフレンズが見守る中

「やあああああああああああああああ!!!」

一気呵成に駆け下り、踏み切る。

黒褐色のロングヘアーが矢の様に棚引き、土煙を巻き上げ着地。

アルマジロが丸まり着地点まで転がった回数で計測する。

「17マジロ、ですぅ」

ヤマアラシが数えて読み上げる。

「おぉー!さすがヘラジカ様!」

「次は私が行こう」

ヒグマは名乗りつつリカオンとキンシコウに目配せする。

頷く二人。

これは団体戦だ。誰か二人が勝てばいいのだ。

「でやああああああ!」

「14マジロ、ですぅ」

かばんを取り戻した時と同じ気合で挑んだが少し高く上がりすぎてしまったか。

まあいい。こちらの残り二人とあちらのメンバーを見比べれば間違いなくこちらの勝利だ。

「よし!」

ヘラジカが満足そうに頷く。

「では次、カメレオン、頼むぞ!」

「ふえええ」

おっかなびっくりといった様相でヨロヨロと降りてくる。

大きくカーブする所で姿が消えた。

見えないほど早く走れるのか!?

一瞬驚いたヒグマだったか数秒後ペタペタ、ペタッと足音がして

踏み切りのすぐ先にカメレオンが姿を現した。

「1マジロ、ですぅ」

やはり怖さで姿を消してしまっただけのようだ。

「どうして拙者が、、」

問いかけるカメレオンにヘラジカは答えた。

「忍者だからだ」

「拙者、ムササビの術は使えないでござるよ、、」

「そうだったか?」

「ええ~」

リカオンが9マジロを跳び、勝敗は大将に託された。

「頼むぞ」

ヒグマがキンシコウに声をかける。

「解ってます、安心してください」

タッタッタッタタタタタ

体操選手のようにリズミカルに駆け下りる。

跳び出す刹那、キンシコウは棒を取り出し踏み切りに突き立てる。

棒が大きくしなり、身体を空高く打ち上げた。

金色の雲は大きく弧を描き、ヘラジカの記録のそのまた先に降り立った。

「23マジロ、ですぅ」

「お見事お見事!」

ヘラジカに動じた様子はない。

でもこれで、勝ったのは私達ハンターチームだ。


その場にいた全員、忘れていた。指名するヘラジカさえも。

目立たないがこのメンバーこの競技において無敵のフレンズがいたことを。

「頼むぞ、ハシビロコウ!」

緩やかな助走。ぶわり、宙を舞う。

銀色の風が青い空を覆った。

「怪鳥すぎるだろ・・」

思わず、ヒグマは呟いた。


道中墜落していたハシビロコウを回収し、皆で図書館に向かう。

料理を振舞うためだ。

何故ハシビロコウを指名したのかヘラジカに尋ねてみた。

ヘラジカはたまにハシビロコウがお城の屋根の上にいるのを見て

そこまでジャンプできると思っていたようだ。

一方ハシビロコウにどうしてそんな所にいるのか聞いてみる。

「私ついじっと見る癖があって。遠くをぼんやり眺めるようにしたらいいってハカセに教わって。

でもついセルリアンとかがいないかしっかり見ちゃうんだよね。いたらヘラジカ様やみんなでやっつけてるの。」

道理でへいげんにセルリアンがいないわけだ。

「皆のおかげでへいげんは安全安心な場所になりつつある・・

ところでハンターとやらは何をやればいいのだ?」

「えっ我々が勝ったらハンターになってくれるんじゃ」

「それは最初にいいともと言ったろう。勝負は勝負だ、楽しかった」

ヒグマは力が抜けた。


「ヘラジカ、あなたは。そのまま真っ直ぐ、頼みます。」

「うむ!」

ヘラジカは力強く頷いた。

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