でぃのフレンズ~幻のパンゲア~
にわとり・イエーガー
登場!新フレンズ!
「少し寄り道しても良いかな。この先で特別なイベントをしているようだよ」
機械的な響きを伴う人工音声が、かばんとサーバルに喋りかける。
「なになにー?楽しそう!」
頭頂部に大きな耳・・・付け耳ではない、本物の耳・・・を生やした少女が答える。まるでネコ科の動物を模したような装束を着ている金髪の女の子。名をサーバル。
ヒトを超えた身体能力と無邪気な心を持った、フレンズと呼ばれる生物だ。
より正確を期するなら、この言い方は間違っている。フレンズとは動物がサンドスターという謎の物質によってヒト化した、つまり変態したとは言え、素体はサーバルキャットなのだから。
「イベント・・・?なんだろう?」
最初に話しかけて来た機械音声とサーバルの言葉を聞きながら、その内容を咀嚼する少女。こちらは首をかしげながら、機械音声の会話内容を吟味している。
サーバルのような際立った外見的特徴は少ない。大きな帽子とリュックサックをバスの中でも外さない、小高い丘にピクニックにでも来たような外見の女の子。名をかばん。
だが、この名は本名ではない。自身の記憶、素性、全てを失くした状態である日サバンナにて目覚めたかばん。何も分からずさまよっていた所を、サーバルに発見され、名をもらったのだ。
その後、サバンナを歩く内に、かばんは己を見出すため図書館に向かう目的を得、そして到着した図書館では己がヒトであるという答えにたどり着いた。
今は、そのヒトの最後の目撃情報があった港に向かっている最中だ。
かばんは、己の群れを探す。
なぜか付いて来てくれたサーバルと一緒に。
「じゃあ行ってみよう」
機械音声の主は2人の否定の応答が無かった事から、肯定パターンのガイドを開始した。
ウサギのような大きな耳(奇しくもサーバルと似ている)が胴体部にそのままくっつき、その胴体部には大きな目、そして短い足が付いている。恐らく、幼児、児童などに警戒心を与えないために低い視点を確保するためのデザインだと思われるこの機械。サーバル達、フレンズらからはボスと呼ばれ、自身ではラッキービーストと名乗っているパークガイドロボットだ。
サバンナを縄張りとするサーバルだが、それ以外の地方はあまりよく知らない。もちろん記憶の無いかばんは言うに及ばず、このボスの働きがなければここまで来るのももっと長い時間と多くの労力がかかったに違いない。
ゆえにこそボスに信を置いている2人は、案内に素直に従い、これからの道行を楽しみにしていた。
観覧路を右にそれ、少しばかりの下り坂。周囲の風景は森林からごつごつの岩場に変わっていく。更に天井を見上げながら、地下に。砂漠地方を思い出す風景に、2人はスナネコの声やツチノコの顔を思い浮かべながら、ゆったり走るバスに揺られていた。
「着いたよ」
ボスの無機質な、それでいて親切な案内によって、2人はお昼寝から目を覚ました。代わり映えのない地下トンネルの風景が続いていたので、バスの中で眠ってしまっていたのだ。
「ううーん・・・」
寝ぼけ眼をこすりながらかばんが起きると、そこは別世界であった。
まず、空が見えない。スナネコの家の中のように、上に壁がある。それでいて、空恐ろしいほど広大な世界。
見覚えのない巨大な樹木の数々が色彩の暴力をもって2人を襲い、それらはどこか、野性味を帯びていた。サバンナを、ジャングルを踏破したはずのかばんの記憶をたどっても類を見ない、懐かしささえ覚えるほどの自然。
「ここどこー?」
どうやらサーバルも知らないらしい。こちらはかばんとは違ってぱっと目を覚まし状況を確認しようと努めている。全然知らない場所に向けて、好奇心と警戒心の混ざった視線をきょろきょろと動かす。大きなお耳もぴこぴこ揺れている。
「期間限定イベント、パンゲアスピリッツを見よう。お土産に限定グッズがゲット出来るゲームもあるよ。お腹が空いたら、ジュラレストランに行こうか」
「うわー!楽しそう!!」
「ええっと。いっぱいあるんですね。アトラクション、だっけ」
「そうそう!アトラクション!何から見ようか!」
ボスの招きに応じて、かばんとサーバルはバスを降り立ち、大地に踏み出した。
まずはこの地のメインイベント、パンゲアスピリッツを観賞する事に。かばんは未知なる事象へと膨らみゆくわくわくを、サーバルは新たなフレンズへの親愛を抱え、石造りの建物へと近付く。
「お客さんだぞー!開けろー!」
石材を積み上げて作られた高さ20メートルほどの壁に一点の入り口。途方もなく巨大な一枚の石版の扉が、轟音を立てて開きゆく。
声は確か、上の方から聞こえたのだが。どうやってこんな門を開いたのだ?かばんとサーバルは上方を見上げたが、何も見えなかった。
「あ。こっちこっち」
と。開いた扉の先からも声が。
そこに居たのは、新たなフレンズと思しき人。
「いらっしゃいませー。お客さん、初めて?」
「うん!」
「はい」
サーバルとかばんの返事を聞き、その人は2枚のチケットを差し出した。
「これ、中でドリンクと交換出来るから持って行ってね」
「ドリンク?」
サーバルは不思議そうな顔で、ドリンクという言葉の意味を解しかねているようだ。
「ジャパリまんじゃなく?」
言いつつ、かばんはそれなら交換の必要もないか、と気付いた。ペンギンアイドルのライブの際も、ジャパリまんは勝手に取って良かったのだった。
「それじゃ楽しんでってねー!」
2人を招き入れてくれたフレンズは手を振って送り出してくれた。
その時。ふと、サーバルは自身の肌があわ立っているのに気付いた。こんなに優しいフレンズの前なのに。なんでだろ?
実はかばんも同じだった。このフレンズさんが現れた瞬間から、やけに動きにくい。自分の体が自分のものでないかのように。
サーバルとかばん、それにボスが行ってから。
「もーお客さんは来ないみたいだね。閉めちゃって良いよー!」
やはり上方から声が降って来た。その声に応じて、開いた時と同じように扉は閉まる。
「私達も行こうか」
「ん」
下の2人。サーバルらに応対した受け付けのフレンズと、1人で扉を開け閉めした剛力のフレンズも、先に行った彼女らを追って中に。
「・・・やっぱり。トロオドンは、上手・・・」
手足が太く、長く。部位だけを見ると不格好にも見える姿だが、全体で見ればスラリと細長い美女が、3人にチケットを渡した少女に話しかける。。
「んーん。私は受け付けは出来ても、スーパーサウルスみたいに片手でこの扉は開けられないし。私達は皆で、一人前だよ。プテロダウストロが居なかったら、お客さんも探せなかったし」
こちらはごく普通の女の子。肉食性を表すギザギザの歯をきらめかせつつ、スーパーサウルスの誤解を崩す。
「照れるなあ。はっはっは」
話していると、扉の上から2人に指示を送っていたフレンズが降りて来た。階段などを使わず、自分の能力で飛び降りたのだ。
地に下り立ったプテロダウストロは、くりくりした大きな瞳を輝かせ、2人に笑いかけた。
「んじゃ、あたしらも行こっか。久々のお客さんで、皆も張り切ってるだろうし」
そして3人は、サーバルらの入って行った観客席ではなく、出場選手控室に向かった。スーパーサウルスは、万が一の控え選手でもあるのだ。
「うわあ・・・。広いね」
「うん!フレンズの皆がいっぱい入れそう!」
空・・・は見えない。ここは地下だから。それでも天井までの距離は遠く、開放感がある。
「そうだね。ここは円形闘技場と言って、古来から人や動物を競わせて楽しんでいたんだよ。ジャパリパークではフレンズ運動会やフレンズ武闘会が催されているよ」
「うんどうかい・・・?」
サーバルにはボスの説明はさっぱり分からなかった。
「サーバルとカンガルー。どちらのジャンプ力が高いのか。飛距離はどうか。美しさはどうか。そんなものを比べて楽しむんだよ」
「あ、あー。なんだかペパプライブみたいですね。あれも5人の踊りや歌を楽しむもので、とっても楽しかったしね」
ボスに頷きながら、サーバルにも話しかけるかばん。かばんは今の説明でなんとなく把握出来た。
そのかばんに同意しつつ。サーバルは「いつもの奴」を探していた。
だが。匂いがしない。あの芳しい芳醇な香りが。
ジャパリまんが、無い・・・?
「あれれ・・・?」
この時点では、サーバルはかばんに助けを求める必要性を感じてはいなかった。
だって目の前には、美味しそうな何かがあるもの。
でも感じない。ジャパリまんじゃない。
なんだろうこれ?
「ん?食べないのかい」
サーバルが食べ物の前で逡巡していると、横から手が伸びて来た。
「それ、なんですか?ジャパリまんとは違いますよね」
見知らぬ食物を前に手を出しかねているサーバルのため、かばんが質問してみた。
「これは・・・ジャパリぱん・・・食べてみなよ」
もぐもぐと口を動かしながら、彼女の勧めるままにサーバルとかばんはジャパリぱんを手に取って、食べてみた。
これは・・・違う!ジャパリまんじゃない!!
サーバルは己の味覚のおもむくままに一息にかっくらってから、言った。
「美味しい!」
「うん。本当に美味しいです」
かばんも少しずつちぎっては口に入れ、顔をほころばしている。
ジャパリまんとはまた違った美味しさだ。ジャパリまんが旨味を押し出した味わいだとすれば、ジャパリぱんは香ばしさと喉越しを重視しているのかな。などと分かったのか分からないのか分からない感想を持ったかばんだが、2人のお腹は確かに満たされた。
「そういえば。君ら、どこから来たの?見ない顔だから、サンジョーでもジュラでもハクアでもないっぽい」
すっきりショートカットな髪の毛は硬そうで、健康的なのが目に見える。スカートが可愛らしい彼女はプシッタコサウルスと名乗った。
「私達はみずべちほーから来たんだよ」
「サンジョー、とかはここら辺のちほーなんですか?」
3人はボスの先導のまま、歩きながら喋っていた。
「そうだよ。私はハクアちほーから。門番のスーパーサウルスには会った?彼女はジュラちほー。あとはチケット係のトロオドンもハクアだね」
ドオオオン
「うわああ・・・すごい音だねえ」
サーバルなどは全身の毛を逆立てて、身をも震わせている。
突然に巻き起こった轟音だが、その前兆は皆に聞こえていた。
ドン・・・ドン・・・ドン・・・
一つ鳴ると少し休み、また鳴り響く。今のような腹に響く音ではなく、どこか遠くから聞こえて来る。
かばんは、この広大な敷地に足を踏み入れてから、ずっとサーバルの耳がせわしなく動いているのに気付いていた。最初は初めての土地ゆえの敏感さかと思っていたが、そうなのだろうか。
何か謎があるのでは。
考え過ぎかな。かばんは、様々なちほーを巡る旅の中で、賢しらな真似をし過ぎているのではないかと気にしていたりする。出しゃばり過ぎて、いつか嫌われないか。最近の悩みである。
プシッタコサウルスと共にかばん達は席に付いた。円周状にある席は上から下まで10段はあったし、その着席数は数万を超えていただろう。一体、どこにこんなにフレンズが隠れていたのか。かばんはおろか、サーバルも見た事がない数だ。
見ればボスの同種と思われるガイドロボットも、観客の間をぬってジャパリぱんの入った箱を運んでいる。そしてなにがしかのフレンズが客席に配っているようだ。
そうこうしている内に、いよいよ始まった。
「さあさあさあ!今日はご新規のお客様もいらっしゃるようです!皆様張り切って参りましょう!!」
円周競技場のど真ん中に歩み出て来たフレンズが、丸くふくらんだ枝のような何かに喋りかけている。ポニーテールが可愛らしい、背の高いフレンズだ。生身の声とは思えないような大声が、この場の全フレンズに語りかけている。
「司会進行はいつも通り、パラサウロロフスがお送りします!」
大きく手をあげてアピールするパラサウロロフスに会場中から鳴り止まぬ拍手が贈られた。
「出場選手、入場!!」
パラサウロロフスの合図と共に、続々とフレンズが中央に集まる。そして全8名の選手の名が読み上げられる。
「最強!最大!優勝候補最前線!ティラノサウルス!!」
際立った特徴は見えない。静かに浮かべた笑み。何もかもを見通しそうな瞳。外見から見えるのは、確かな実力だけ。
ただ、強い。無数のフレンズが存在するこの空間の中でも、一人だけ存在感が違う。
「デカい!堅い!強い!ティタノサウルス!」
手に持つは長く硬いムチ。そして全身を覆う装甲。ティラノサウルスをも上回る長身をゆるりと動かすその様は、強靭という言葉が良く似合う。
「ライバル関係に決着は付くのか!トリケラトプス!」
二本角の槍を右手に携え進み出る、左手の大盾が目立つ少女。一見すると大人しそうに見えるが、芯が強く、黙ってやられるような弱気はない。
ちなみにライバルとは、ティラノサウルスの事だ。両者の戦績は五分五分。年により個体により勝敗はその時々で異なる。つまり、ティラノサウルスと互角にやり合える実力者。
「陸上水中を問わない!全フィールド最強!スピノサウルス!!」
背にとてつもなく大きな飾りを付けた細身の女性。だがその見た目からは想像も出来ない狩りごっこの上手さを持ち、司会の説明通り戦場を選ばない。
「武器を取れ!戦いに常道は無い!シュノサウルス!」
長く伸びたヒモの先に硬い棒を取り付けた武器(フレンズ諸氏に分かりやすく説明するなら、ヒモ付きハンマー)を操る少女。その身体能力から繰り出される一撃は、重く鋭い。
「最恐!恐れを知らない暴君!マジュンガサウルス!」
ずんぐりむっくりな可愛らしい見た目に似つかわしくない、禍々しい笑みをたたえる少女。自己以外の全てがジャパリぱんに見える少女。
「その防御性能はどこまで通用するか!ガストニア!」
全身を硬質な鎧で固めた上、鎧からは鋭いトゲが無数に突き出ている、隙の無いフレンズ。
攻撃力は無いに等しいが、ぶつかるだけでも敵は無い。果たして狩りごっこではどうなるか。
「狩りごっこの仕方を教えてやる!実践練習でな!エオラプトル!!」
今まで出て来た全てのフレンズより小さく、可愛い。取り柄といえばスピードだけだが、攻撃性能はかなり低い。唯一のサンジョー出身という事もあり、サンジョー仲間からの声援が厚い。
経験だけでどこまで行けるか。
「以上8名のトーナメントでお送りします!!」
大歓声が最強の8名を包む。
全員が強く全員が退かない。
サーバルとかばんは圧倒されていた。見ただけで分かった。
あの場の誰とやっても、勝てない。一番弱そうなエオラプトルでさえ、サーバルを上回る戦闘性能を持っている。
なぜ怯えていたのか、やっと分かった。
「地上最強の称号は誰の手に?一回戦第一試合!事実上の決勝戦か!?ティラノサウルス対ティタノサウルス!」
このフレンズ達が、強すぎるから。
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