迷子のお父さん

弘恵

第1話

○ハローワーク・外観


○同・1階相談窓口

   多くの人でごった返す中、デスクに向かい合う中川勘太

   (43)と相談員。

   困った顔の相談員。

   中川、イライラした顔で、携帯を開けたり閉めたりしている。

中川「だから、そこを何とか」

相談員「困りますよ。わたしだって、あなたに就職してもらおうっ

 て考えてるんですから。しかし、そんな好条件では、今時、無い

 んですよ、正直言いまして」

中川「だってね、もうすぐ子供が生まれるんだ」

相談員「それはおめでとうございます」

中川「何がおめでたいんですか。6人目ですよ。失業中なのに。嫌

 味ですか?」

相談員「いやぁ、子供が多いことは良いことです」

中川「そういう問題じゃないでしょ? どうやってこれから育てて

 いくの? 君がちゃんと仕事先を探してくれないからって言う

 よ? 本当に」

相談員「そ、そんな……あなたも失礼ですね。こっちだって一生懸

 命やってるんです。今時、資格も何も無いのに、いきなり30万

 以上なんて月給、無茶言わないでください。扶養手当だってね、

 どの会社も……」

   中川の携帯が鳴る。

   中川、携帯を開けて見る。

中川「ホラ。生まれちゃった。六人目……」

   中川、画面を相談員に見せる。

   その画面には、『女の子』の文字。

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