ツチノコの黄昏
@tikinbaby
第1話
「あなたはツチノコです。」
どうやらそれが自分の正体らしかった。
「ツチノコって?どんな生き物なんだ?」
目の前の二人の少女に尋ねる。
彼女らはこのジャパリパークで唯一の知識の持ち主だ。
オレはサンドスターに触れて産まれた時になんの記憶も持っちゃいなかった。
記憶喪失ってやつか、あるいは最初から記憶自体なかったのかもしれない。
だからオレの頼りになるのはこの自分より背の低い偉そうな少女達だけなのだ。
「さあ?胴が太いらしかったですよ?」
「あっ後ジャンプも出来たとか。」
「……それだけか!?種類とかナワバリとかは!?」
「あなたは人間によって作られた想像上の生き物らしいのでこれ以上詳しいことは本に載ってないのです。」
「おどろおどろしい本に2〜3行書いてあっただけなのです。」
「人?想像上?なんだそれは!?」
予想外の事態に頭がくらくらした。
右も左もわからず産まれたばかりのオレは図書館に行けば正体が分かると聞き、早速訪れた。
だがここで分かったことは自分が架空の存在であることと、人間という不思議な生き物のことだけだ。
木の板に揺られながらぼんやりと図書館で聞いたことを反芻する。
人に関してはいくつか聞いた。二足歩行。フレンズに似ている。物を作り、このパークを作った。今は絶滅しているかもしれないらしい。考えることが得意……だからオレの存在を考えたのだろうか?
だがオレのことに関してはピット器官というのがついていたり鼻がきくといった肉体的な面のことしか分からなかった。
ツチノコってなんなんだ?
「図書館から来たんだって?遠くから大変だったね。」
ふと、今オレを泳ぎながら板で運んでくれているフレンズ──ジャガーが話しかけて来た。
「ああ。しかも無駄足だったしな。」
ここジャングルちほーは入り組んでいて川も多い。地理を知っていて泳げるジャガーに運んでもらっている。
いや、運ぶという言い方は正確じゃないかもしれない。
フレンズの行動は動物だった頃の習性や記憶によって決まるらしい。
鳥なら飛んで、ライオンならゴロゴロして、スナネコなら砂漠に住んで……
だが、オレは?動物だった頃なんてない。存在すらなかった。
他のフレンズ達とは違う。オレには行く場所も帰る場所もない。
目的地なんかないのだ。
だから、そういう意味では運ばれているわけじゃない。ただ漫然と位置を変化させているだけだ。
「……とりあえず大きな道に連れてってくれないか。」
「だったらあんいんばしだね。もうすぐつくよ!」
そう言ってジャガーは俄然スピードを上げ始めた。
別に急いでくれなくたっていいのに。
「着いたよ!サバンナに行くならこっちで砂漠に行くならあっち!どっちがいい?」
「……じゃあサバンナの方で」
正直、どっちでも良かったのだが、砂漠は暑い。
「おーよ!」
ジャガーは緩やかに岸に寄せてくれた。
聞くところによると一日二回、こうしてフレンズを乗せているらしい。
実際乗せてもらった身としてはありがたいが。
「お前は動物だったころからこんな仕事をしていたのか?結構大変だろ?」
「まさか、動物だったころは寝たり食べたりしかしてなかったよ。」
少し予想外の答えだった。
「ん?じゃあなんでこんなことしてるんだ?」
「なんでって言われても……折角この体に産まれなおって……みんなと友達になれたから……かなぁ?」
ジャガーはなんのてらいもなくそう言った。
こいつは動物だったころの記憶なんか関係なく、今自分が出来ることをフレンズのためにしてくれているのだ。毎日、ずっと。
「ジャッ、ジャパリまん食うか!?」
声が上ずってしまった。
唐突にジャパリまんを差し出されたジャガーも何が何だかわからんという顔をしている。
だがオレは分かった。そのお礼だ。
図書館で博士達に言われたことを思い出していた。
「お前は動物だったころの記憶がないぶん、人に近いかもしれないのです。」
「飲み込みがなかなかに早いのです。」
そう言われた時は、お前は他のフレンズと違ってなんでもない存在だと言われた気がして、なんだか物悲しくもなった。
でも違う。逆だ。
このパークで一番、人間のことを分かることが出来るのはオレなのかもしれない。
他のフレンズと違って、動物であったことのないオレならば。
このパークを作った、謎の存在、人間を──
「やっぱり砂漠のほうにしてくれないか!?」
「ええっ?いいけど」
砂漠に行こう。
砂漠にはまだ博士達も見つけてない人の施設があるらしい。
俺が見つけて調べれば、人間のことが少し分かるかもしれない。
人間のことが分かれば、ツチノコという訳のわからない存在、自分のことも分かるかもしれない。
なんだか胸がスーッと晴れやかな気分になった。ジャガーを心の中で急かす。
一刻も早く砂漠を探検したい。
人間を知りたい。人間と出会いたい。
向こう岸に辿り着くと同時に二個目のジャパリまんを渡してジャガーに別れを告げ走り出した。
きっとまた、ジャガーは困惑した顔をしているだろう。
奴は教えてくれた。今出来ることがすべきこと。
オレにとってそれは人を知ることなのだ。
さばくちほーに差し掛かった。
熱気がオレを包みこむ。構わず砂の上を走り続けた。
オレの下駄は砂であっても減速しない。
人の施設はどこにあるのだろうか。
眩しくて広い砂漠の上は少し嫌だな。
暗くて狭いところだといい。
ツチノコの黄昏 @tikinbaby
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