勇者なんか消えればいい。〈Sub Story〉
花宮 蒼
Evan's Story① -1番-
あれは俺が生まれて30年ほどが経った頃、父上に連れられて王家直属の
「いいか、エヴァン。
ここにいる
いずれお前が受け継ぐ、大切な部下でもある。
こやつらに負けぬようお前も鍛錬を怠るでないぞ」
「はいっ!父上!」
あの頃はまだ体も小さく、魔量だって並みの魔人族程度しかなく、ただただ守ってもらうことしかできないクソガキだった。
唯一できたことは最近覚えた治癒魔術。
治癒、といってもかすり傷程度しか治せないような弱々しいモノだったが、
それが初めてまともに使えた呪だった。
父上や母上から受け継いだ魔力はその頃の俺にはコントロールできるものではなく持て余していたのだが、生まれ持った〈闇〉属性での治癒魔術だけは、己の力だけでコントロールができていたモノだった。
それから約10年経って漸く、両親から受け継いだ魔力のコントロールができ始めた頃、再び父上直属の戦闘部隊の
『おや、エヴァン様ではないですか。今日はお一人ですか?』
「うん!あ、でもちゃんと父上には許可を頂いてきました」
『では今日は何をしましょうか?』
「えっとね、今日は飛行部隊のみんなに飛び方を教えてもらいたくて…。
ダメかなぁ…?」
『そんなことはありませんよ、エヴァン様!
…そうだ、ちょうど飛行部隊に所属するドラゴンの息子たちが訓練をしているんです。もしよければ一緒に訓練なさいますか?』
「えっ!本当?いいの?」
『勿論。さぁ、此方へどうぞ』
この日は偶々、飛行部隊に所属する
…あまり覚えてはいないのだが、この時訓練に誘ってくれたのが、現ワイアット騎士団上級騎士エドワードの相棒、トルマンだったのではないかと思っているが、真相は本人に聞いてみないとわからないところだが。
とまぁ、そこは置いておいて。
飛行部隊が訓練していたのは魔界の西に位置する山岳地帯だった。
城からそこまではその頃の技術力では辿り着くことすら困難だったため、誰かの背に乗せてもらって移動していた、ような気がする。
『エヴァン様、此処です。
あの岩山から、麓の砂漠まで、ゆっくりと降りてくるのが今日の訓練です』
「ゆっくり降りるの?ビューンって速く降りるんじゃないんだね」
『そうです。ドラゴンにとって翼を効率動かすには、まずゆっくり降下することが大切なのです。
ゆっくり降りるためには、力強く羽ばたかないと体を支えられないため、急降下してしまいます。飛ぶ速さをコントロールできるようになることが目標です』
少し離れたところの岩山では、大人の
しばらくはその様子を見ていた俺だが、一刻も早く混ざりたいと、その小さい竜の隣に並んでまず体を風で持ち上げることから始めた。
しかし中々地面に対して垂直に体を持ち上げることができず、燻っていたところを現在の友、ルイスが声を掛けてくれた。
『エヴァン様!あのね、翼を大きく動かすことを意識するとうまく飛べるよ!』
勿論、俺達魔人族に翼はない。が、イメージとしたらそんな感じ、と教えてくれたのだ。
「大きく動かすの?」
『そう!父様がね、うまくいかないときはゆっくり風を動かすんだって言ってたんだ。だからエヴァン様もゆっくり風を動かせば真っすぐ飛べると思うんだ!』
「やってみる!えっと、君の名前はなんていうの?」
実は数頭の子ども
なぜなら竜は成長するごとに顔の輪郭が変化していくもんだから、すぐ名前と顔を一致させることが難しいのだ。
本当に思い出せない時には失礼を承知で名前を聞きに行くのだ。
『はい!ボクの名前はルイスと言います!
父様のような大きくて強いドラゴンになるのが目標なの!』
この頃のルイスはまだまだ子供で拙い話し方だったのにお父上の話をするときは目をらんらんと輝かせて饒舌だったな。
そして、ルイスに教えてもらったように風を翼を動かすようにイメージすると、体を安定させて浮かせることができた。
「ルイス!見て!言う通りにイメージしたら飛べたよ!」
その頃すでに、俺の身長をゆうに越していたが、ルイスの頭の上まで飛べた姿を俺は一番最初にルイスに教えたんだとか。その時隣にいたってのも理由の一つだろうけど。
それから俺とルイスは兄弟のように鍛錬を積み、
初めてできて嬉しかった時、できなくて悔しかった時、悪戯して怒られたとき、喧嘩して寂しくなったとき
どんな時でもいつも一緒にいた俺達はこうして次期魔王として世代交代した時も、そしてこれからもずっと一緒にいることだろう。
ルイスは俺の一番の友であり、家族だ。
-Evan's story① Fin-
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