第6話
俺は遙 彼方。
学園サバイバルが始まったと思ったら黒幕とこんにちはしていきなりクライマックスな男子高校生だ。
「退場させた、だと…?」
目の前で人がスクラップになったというのにどこか冷静な部分が残っているのは前回とやらの影響だろうか。どんな経験してたんだよ前の俺は。
「はい、邪魔者がいなくなったところで本題に入りましょうか」
その言葉に危険を感じ取った俺は楓の近くに寄ろうとするも、不可視の壁に阻まれてしまった。楓が何か言っているのは見えるが音が伝わってこない。
これは不味いな。
「まあ結論から言いますと。妹さんが大切なら目立つ行動は控えてくださいってことです」
案の定、楓を人質に取られた。壁を破壊できないか試しに叩いてみるが、感触からして無理だろう。諦めて神に向き直る。
「人の大事な妹を人質に取った割には今ひとつはっきりしない要求だな」
目立つ行動は控えろだと?修学旅行のクラスで撮った集合写真からハブられてても気付かれなかった俺への挑戦状か?お?
「何も難しいことは言っていません。私はただ、今回は貴方に自重してほしいと、そう言っているだけなのですよ」
「は、自重も何も。端から俺にそんな大それたことなんて出来やしねえよ」
前回がどうだったか知らないが今現在俺は只の高校生だ。一介の男子生徒がこの異常事態で出来ることなんてたかが知れてるだろう、せいぜいゴブリンぶっ殺すくらいだ。
「いいえ貴方はやります、間違いなく。何せ実績がある」
そう言い切る神の声音にはどこか妙な迫力があった。
本当に何をやらかしたんだ前の俺は。
「わかった、そこまで言うなら気をつけよう。だから楓を解放してくれないか」
どうせ目立たないんだからこんな条件あってないようなものだ。
「それは出来ませんね。彼女は大事な人質ですので」
「ぶっ殺すぞ」
言葉と同時に放った掌底は壁にあっけなく止められた。現実問題、今の俺ではこいつを殺せない。思わず舌打ちが漏れる。
「おお怖い怖い、そんなに睨まないでくださいよ。心臓に悪いので私はここらでお暇しましょうかね」
そう言って奴が指を鳴らすと、教室内には俺独りが残された。
俺のせいで関係ないクラスの生徒が1人を残して皆殺され、1人残った妹は何もできずに連れ去られてしまった。罪悪感はある。怒りも感じている。しかし、同時に言いようのない虚しさも感じるのだ。こんな状況でも我を失わず、どこかから俯瞰しているような感覚でいる自分に。元に戻され、記憶を消された今までの十数回の繰り返しのどこかに、俺は大切な何かを置いてきてしまったんじゃないだろうか。
たった一人残った教室で、自分が自分でなくなってしまったような喪失感を感じながら、俺はしばらく立ち尽くしていた。
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