第15話 絵本に反応する胎児

いつからだったか、耳が聞こえるようになったという週から絵本を読み聞かせ始めた。

胎児のうちに父親の声を聞かせておくと、生まれてからなつきやすいとなつきやすいとなにかの本で読んだからだ。

おおきなかぶ、しろいうさぎとくろいうさぎ、イルカのピー、しゅっぱつしんこう、アンパンマンと、夫婦お互いの実家にあった絵本を寄せ集め繰り返し読んだ。


次第に毎晩同じ話をするのに飽きてきて、おおきなかぶなんかはうろ覚えながらそらで読み聞かせるようになった。

絵本でなくても、声を聞かせればいいと思い、そのころ読んでいた浅田次郎のエッセイやおもしろ南極料理人を読んで聞かせるようになった。

妻はあまり語彙力がない人だったので、俺じゃなくてあなたが読み聞かせしなさい、と浅田次郎を読ませた。

妻にとっては馴染みのない文学的表現が理解できず、苦痛だったようで、しばらくして自然消滅した。

一時期夫婦間でツタヤで映画を借りるのがブームになり、その日観た映画をダイジェストで読み聞かせることもあった。

たまにはと思い、おおきなかぶを読んだりすると、あるとき妻が、うんとこしょどっこいしょのイントネーションがお互いで違うと言いだした。どうでもいいと思ったが、妻のイントネーションに合わせることにした。

最近仕事のせいで、帰りが遅くなる日が多く、絵本を読むのが億劫に感じ、お腹に声をかけてから寝るようになった。これからパパとママは寝るから、ベビちゃんもゆっくり朝まで休んでね、と話しかける。そうすると、それまで夜中に胎動で目が覚めていた妻が、朝まで寝付けるようになった。

とはいえ相変わらず尿意や足のつりで目が覚めるようだが。

昨日は、話しかけながらときおり、うんとこしょどっこいしょ、と話しかけると、それに答えるように大きく胎動があった。またうんとこしょどっこいしょと言うと、それに答えるように胎動があった。

妻と目を見合わせた。

聞こえているのだ。そして音の聞き分けができているのだ。


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