第11話 転居に伴う手続き。
4月25日は妻の誕生日だ。そして、この日私たちは婚姻届を提出した。
ただ、私達の場合ただ単に婚姻届を出しただけでは手続きは終わらない。というのも来週引っ越しの予定があるので、転出届や住民票の発行、戸籍の異動に伴う戸籍謄本の発行、母子手帳の再交付など諸々の手続きも同時に行うことにしていたのだ。
結局朝10時頃に役所に入って、すべての手続きが終わったのは夕方5時ちょっと前だった。
まず朝に役所に向かう道すがら、とにかく妻は不機嫌で歩きながら悪態をつかれた。売り言葉に買い言葉とはこのことで、妻の理不尽で自己中な態度に私もイライラしてきて、ひたすらお互いを罵り合いながら歩いた。本当に今日入籍する気があるのだろうか疑問に思った。一緒にいるだけでこんなにムカつく相手となら入籍なんかしない方がいいのではないかと思った。
しかし妻はただ機嫌が悪かっただけのようで、役所に着いたら自然な流れで転入届を出しに窓口へ向かった。その窓口で、今日は転入届の他に婚姻届の提出と住民票の写しの発行をしたいと告げたところ、手続きに慣れた担当者に変わってもらい、ついでに戸籍課の窓口で一括して処理してもらえることになった。
私が当初考えていたプランは、まず夫婦になる前の状態でお互い転入届を出して引越し先の自治体の住民になり、それから婚姻届を提出すると楽なのではないかと思っていた。いま振り返るとこの流れのなにが楽なのかさっぱり分からないが、ネットでいろいろと調べていくうちにこういう流れにしようと決めていたのだ。
ところが実際に窓口へ行き担当者と話をすると、どうやら先に婚姻届を処理して、それから転入届という流れのほうが手続きの順番としては都合が良いらしいのだ。役所の処理の問題なので、それで構いませんと伝え、まずは婚姻届を提出した。
ちなみに婚姻届というのは書き間違いがあったとしても、その場で役所の職員が修正指示を出してくれるので、間違いがあっても別段問題ない。
その後職員が戸籍の確認や居住地の確認など事務処理をしている間椅子に座って15分ほど待った。婚姻届の手続きが無事に終わり、職員から祝いの言葉をかけてもらった。晴れて法律上も夫婦となったわけだが、別段感動はない。所詮紙切れ一枚だけのことなのだ。こうしてみると結婚を実感するのは婚姻届の提出よりも、結婚式なんだろうな。周囲から祝福された方が実感が湧くのだと思う。
その後に転入の手続きへ入った。これは比較的すぐ終わり、ゴミ出しのカレンダーなど自治体のガイドブックをもらい終了となった。ただ住民票の発行には一時間ほど時間がかかるらしいので、午後にまた出直すことにした。
もうすぐお昼になりそうだったが、次に母子手帳の担当部署へ向かった。転居した旨を告げ妊娠届を出したら、すぐに職員が諸々の配布物を用意して、ひとつひとつ丁寧に説明してくれた。
妊娠届の提出にあたって重要なのは、妊娠出産に対して自治体が負担してくれる補助金関係の話だ。今まで住んでいた自治体とは病院で使える補助券のシステムや、無料の検診の内容などが異なるので、ちゃんと話を聞いて有効活用しないといけない。
一通り説明が終わったあとで、職員から提案を受けた。それは、保健師と妊娠出産に関して面談をしないかというものだった。この面談というのはそこの自治体が独自に行っている制度らしく、面談をするともれなく1万円分の商品券がもらえるというものだった。今すぐに面談をすることも可能だし、後日時間のあるときにまた来ても構わないという。
私は直感的に今すぐ面談してとりあえず商品券だけもらっておいた方が、あとで出直す手間もなく良いだろうと思った。しかし妻はピンと来ていないらしく、とりあえず後回しにしたい様子だった。朝からストレスだったせいか疲れもあるようで、まずはお昼ごはんを食べながら検討し、もし気が向いたら夕方までに伺いますと伝えその場をあとにした。
お昼ごはんはバーガーキングで済ませた。つわりが始まってから妻はやたらとポテトを食べたがるのだ。役所の近くでポテトを食べられるところはバーガーキングぐらいだった。妻は満足げだった。
空腹が満たされてセロトニンが分泌され出したのか、妻の機嫌がよくなった。やはり面談を今日受けてしまおうという話になったので、役所へ戻り住民票の写しを発行してもらったあとに、再度母子手帳の窓口を訪れた。
面談は保健師と妊婦が一対一で行うというので、私は1時間ほど席を外し、庁舎内を散歩した。トイレで用を足し、食堂でコーヒーを飲み、ぼんやりしているとあっという間に1時間が過ぎた。
妻のもとへ戻ると面談ももう終わるタイミングのようだった。最後の締めだけ一緒に保健師の話を聞いた。妻の表情は朝とまったく変わり、非常に明るい笑みを浮かべていた。面談してよかったようだ。
どんな話をしたのか聞いてみると、ほとんど自治体の制度やサービスの紹介と有効活用の説明だったらしい。こんなにたくさんサービスがあるんだねと嬉しそうにしていた。
そして1万円分の商品券もしっかりもらうことができた。これがすごくて、子供向けの商品であれば有名百貨店などで使えるのだ。一体どういうねらいで面談だけで商品券を配っているのか理解できないが、とにかくありがたく使わせてもらうことにした。
その後警察署へ行き、免許の住所変更を済ませ、今日の用事はすべて終了となった。
妻は自分の誕生日に一日がかりで手続きばかりしていたのが気に食わなかったらしく、最悪の誕生日だったとポツリと言った。
無視すればよいのだが、私はその発言が癇に障り、じゃあ一体どうすれば最高になるんだ、と尋ねた。すると妻は、美味しいケーキが食べたいと言った。私は、美味しいケーキを食べれば最高の誕生日になるんだな?じゃあ食べに行こう。二度と今日が最悪だったなんて言わせないぞ、とムキになって言った。
駅前の百貨店のレストランフロアへ行き、以前から気にはなっていたが入ったことのない高そうなフルーツパーラーへ入った。そこでとびきり高いマンゴーパフェとクリームたっぷりのパンケーキを注文した。妻は値段の高さに驚いていたが、2つ合わせてたった4千円である。たった4千円で彼女が最高の気分になれるなら安いものだ。
結局妻が食べきれなかった半端なパフェとパンケーキの残りを私がたいらげ、最高の誕生日となった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます