とてもらぶりぃごーすとせっしょん♡

城屋

キャプテン・メランコリックの海賊船:参加人数六名

第1講 余程のことがない限りルールは絶対

※すべての幽霊船における基本ルール

一つ、どの幽霊船もあの世に向かって航行している都合上、あらゆるゲームにはタイムリミットがあります。必ずご確認ください。

二つ、我々運営はときに仲間割れを推奨するゲームを開催することはございますが、仲間割れが必須となるゲームの運営は行いません。とはいえ、プレイスタイルはご自由に。

三つ、幽霊船ごとのゲームのルール周知はパスを通して行われます。

四つ、すべてのプレイヤーには週に二回以上のゲームの参加が義務付けられています。詳細、およびプレイングの辞退の手続きについては公式サイトでご確認ください。

五つ、ゲームのクリア条件は突き詰めれば動力炉の破壊もしくは停止のみです。また、特殊な条件を満たしてクリアした場合はトロフィー他、特典を獲得できます。ゲームそのものに貢献せずとも動力炉が破壊等されれば、その時点で『生き残りメンバー』は全員ゲームクリアです。


最後に、我々運営は神ではありませんが、人間でもありません。常識と理屈を捨てて、楽しくゲームをプレイしていただければ幸いです。



――


手のひらサイズの怪しい携帯デバイスの文字を高速で読み込み、小雨は息を大きく吐く。


体中が汗ばんで気持ち悪いが、それどころではない。一見して意味不明なこの文字列が、間違いなく現実であると認識できる。


湿って腐った木の匂い。踏めば穴が増えそうな木造の廊下。原理不明、ところどころに固定されて青白く光り、足元を照らす火の玉。なるほど、ここは間違いなくに相違ないだろう。窓はなく、外は見えないが、ときどきぐらりと足元が傾くのも船らしい。


そして、この現実が最悪であるとわかる要素が最後にもう一つ。


先ほどから続けざまに鳴り響く破裂音。何者かによってここに連れてこられた少しあとから鳴り響き始めたもので、小雨はそれに釣られるようにしてここまでやってきた。


その正体に感づいたあたりで、来たことを後悔した。


破裂音の正体が銃声であり、さきほどから銃を撃つ加害者と、銃を撃たれている被害者がいたからだ。

加害者は、見ているだけで現実感を失うような『動く骸骨』。これ見よがしに海賊だとわかるような、絵本に出てくる中世の船乗りの服装を纏っている。頭には仰々しい羽根つきの帽子。

被害者はこれまた死者。いや、正確に言うと生きていたのだろう。


さっきまでは、の話だが。


「嘘だろ……一体誰を撃ってるんだよ……!」


動く骸骨は何度も撃つ。死体となった何者かに何度も銃を撃つ。

執拗に、何度も何度も何度も。

そのたびに小雨の顔から血の気が引いていく。


ここからでは影になっていて見えづらいが、撃つ度に血しぶきが上がっているので誰かがいることは間違いない。


当然ながら、撃たれている者はもう救出不可能だろう。必然、小雨の脳に浮かぶ選択肢はたったの一つだけ。

逃げる。あの骸骨船長に見つかる前に、どこかへ。


「……あれ? 、どこ行った?」


そこで思考にノイズが走る。

ここまで来たのは、小雨だけではない。もう一人いたのだ。小雨と共に、この幽霊船に乗せられた参加者プレイヤーが。


呆然としていると、ガツンという音が響く。先ほどの銃声と同じ場所から、しかしまったく異質の音が。


見ると骸骨船長はのけぞって倒れていて、その前には拳を振り切った少女がいた。

長い髪。仰々しい形状の、いわゆる長ランと呼ばれる大きな学生服。眼鏡の奥に光るギラギラした眼光。


間違いない。先ほどまで一緒に行動していた顔見知りの女の子だ。彼女は拳を解き、人差し指で力強く骸骨船長を差し、告げる。


「テメェ! 何してやがる! そんなに銃を撃ったら死んじゃうだろうが! 殺す気か!」


――殺す気だったんだよ!

と、物陰から突っ込みを入れるが、そんなことはお構いなしに少女は続ける。


「テメェみたいな危ないヤツはすぐさまに粛清してやる! 幽霊だろうが関係ねぇぞ!」


小雨は物陰から様子を見ていたが、どうやらそういうわけにもいかなくなってきたようだと嘆息する。

舌打ちしながら隠れるのをやめ、少女に向かって走り出す。


――あの女、状況が全然わかってない!


骸骨船長は尻もちをついたまま、少女に向かって銃を向ける。


「この距離ならもう銃なんざ怖くねぇ」


それを少女は腕ごと軽く足蹴にし、冷静に銃を手ごと踏みつけた。相当な力がかかったようで、踏みつけられた手は粉々に砕けてしまった。


骸骨船長はその様を見て一瞬だけ固まる。その隙をついて、少女はさらに追撃をしかけた。顔面に足を乗せ、そのまま床に叩きつけ、頭蓋骨を粉砕してのけた。

それを見届けた後、少女は足の裏にこびりついた骨片を振り払い、大きく息を吐いた。大きな仕事を終えたような開放感あふれる笑顔で振り向き、小雨に言う。


「おっし! よくわからんが、これで終了なんだっけ? コイツが『どーりょくろ』ってヤツなんだろ? なあ?」

「違う! まだ終わってない!」

「へ?」

「ルールをよく読めよ! 『船長は生身の人間が破壊することはできません』って書いてあっただろ!」

「なに言ってんだよ。実際壊れてんだろうが……あっ」


ガチャリ、という音がする。

無残な姿に変わったはずの骸骨船長は、さきほどと同じように銃を構え、少女を今にも銃撃しようとしている。


寸前で小雨は、復活した船長に唖然としている少女の手を引っ張る。次の瞬間、つい先ほどまで少女がいた位置を、銃声と銃弾が通過。


手を引っ張ったまま、小雨はすぐに走り出す。遅れて少女に言った。


「逃げるぞ!」

「ああ!? おい、まだ終わってないだろうが!」

「破壊手段がないなら仕方ないだろ!」

「……くそっ! なんなんだアイツ!」


少女は吐き捨て、苦々しい顔になりながら続ける。


「そもそもここ、どこだ!? 私たちは何に巻き込まれてる!?」

「デスゲームだよ! さっき言っただろ!」

「アホか! フィクションならともかく現実にそんなもんあってたまるか!」


少女の言葉には心の底から同感だが、しかし実際に巻き込まれたものは仕方がない。そもそも動く骸骨が出てきた時点で、現実感を説くのはどこかズレている。

小雨は考える。どうしてこうなったのか。一体どうしてこんな目に逢っているのか。


突き詰めたところで、結局『唐突に巻き込まれた』としか言いようがないのだが。

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