月の舟
アルケミスト
第1話
「今宵の月は、ほんに美しいのう~」
牛車の様な豪華な宮型の船に烏帽子と狩衣姿のフレンズが優雅に月を眺めていた。
「エボシ様、何で今夜は沖に出たんですか? 月見でしたら「竜宮」のお屋敷でも出来たのでは?」
海の中で身体を浸けて、牛車の様な船を引いていたフレンズが訪ねる。
「これ、カイギュウ。そちには月を愛で、四季を楽しむというやむごとなき嗜好はないのか!」
「エボシ様、すみません。私には難しくてよく解りません」
「ほんに難儀やのう~、カイギュウは、まー良い、今宵の月見はついでじゃ」
「と、申しますと?」
「リュウグウノツカイの占いで今宵、西の方に出かけると麻呂が欲しい物が見付かると言っていたのでな」
「また占いですか?」
「リュウグウノツカイの占いは良く当たるのじゃ」
にこやかに語るカツオノエボシは、大きな酒瓶を奥から取り出した。
「シロヘビから貰った酒もあることだし、月を肴に一杯やるかの~」
「エボシ様っ!」
「何じゃ、麻呂が良い気分で酒を飲もうとしておったのに」
「向こうから何か来ます」
「何っ~」
杯から白い酒が零しそうになるが、カイギュウの言った方向に珍妙な船を見付けて驚きながらも、占いが当たったかもしれないと少し興奮していた。
「ほーう、リュウグノツイカイが言っていた麻呂の欲しい物かもしれぬ。…カイギュウ」
「はいっ」
「あの珍妙な物を捕まえるのじゃ」
「エッー、怖いですよ!」
「何を言うか、早くしないと欲しい物が逃げてしまうぞ」
「それ、進むのじゃ」
「わー、お月様キレイだね。かばんちゃん」
「そうだね、サーバルちゃん」
「手を伸ばしたら届きそうだよ」
「ハハ、それはちょっと無理かな」
「これ、そこの者」
「えっ?」
「なになに?」
「お主達、この辺では見慣れぬフレンズやの~」
「私は、サーバル」
「かばんと言います。アナタは何のフレンズさんですか?」
「ホッホッホ、麻呂はカツオノエボシ。エボシ様と呼ぶがよい」
「私は、エボシ様の従者ステラーカイギュウ、カイギュウと呼んで下さい」
「エボシ様とカイギュウさんですね」
「お主達、どこから来てどこへ行くのじゃ」
「キョウシュウチホーからヒトがいる所を探しに来ました」
「ヒトとな、麻呂も久しく見ておらぬ、風の便りでは絶滅したのではと言うがの~」
「かばんちゃんは、ヒトなんだよ」
「何~? ホッホッホ、いと可笑しきことをいうネコやのう~」
「ネコじゃない、サーバルだよ」
「ホッホッホ、ならばかばんとやら、麻呂の問いに答えてみよ」
「問いですか?」
「うむ、これに答えられたらお主をヒトと認めようぞ」
「解りました」
「では、行くぞ」
カツオノエボシは、扇を上げて問いを出した。
「朝は四本足、昼は二本足、夕は三本足。このフレンズは何か?」
「えっー、そんなフレンズいないよう!」
「朝は四本足、昼は二本足、夕は三本足のフレンズ? これってもしかして…」
「ホッホッホ、どうじゃ、答えられぬか?」
「答えは、ヒトです!」
「えっー、なんで、なんで、かばんちゃん?!」
「ほぉーぅ、して、なにゆえにヒトなのかの~」
「ヒトは生まれた頃は手足を使って四本で歩き、成長したら足だけ二本で歩いて、年を取ったら杖を突いて三本で歩きます」
「ホッホッホ」
カツオノエボシが扇を広げると桜が舞った。
「見事じゃ、かばん。正解じゃ」
「すごいやかばんちゃん。私ぜんぜん解らなかったよ」
「エボシ様、これってなぞなぞですよね」
「そうじゃ、麻呂も大昔は、ヒトと良く謎掛けをしたものだ。懐かしいの~」
カツオノエボシは、遠い過去にパークに訪れたヒトと謎掛けをした楽しい日々を思い出す。
「かばん。ありがとうなのじゃ、今宵は良い月と酒、それとヒトとの懐かしき謎掛けが出来たのじゃ、礼を申すぞ」
「いえ、そんな。ボクもなぞなぞ面白かったです」
「ホッホッホ、ならば良いことを教えてしんぜよう。この先に進むと巨大な鳥居が立っておる。それを潜り先に行けば海に突き出した「竜宮」と呼ばれる巨大な神宮がある。そこにリュウグノツイカイというフレンズがおるので訪ねたら良かろう。きっとかばんが知りたいヒトがいる場所を教えてくれるかもしれんぞ」
「解りました。ありがとう御座いますエボシ様」
「何、また謎掛けをしようぞ、かばん」
「はい」
「またねー、エボシちゃん」
「これっ、ネコ。エボシ様じゃ、様を付けんかっ、様を」
月の舟 アルケミスト @Alchemist-Erica
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