死神ちゃんと僕
流民
第1話
「ごめんね私あなたの事、友達にしか思えないから。って言うか、そんな風に思われてたなんて……みんなには言わないでね、恥ずかしいから!」
そう言って彼女は僕の目の前から走り去っていく。今、僕の頭の中を言葉に表すなら『ガーン……』と言う一言だろう……
僕は目の前が真っ白になり、その場に立ち尽くしていた。
「いくらなんでも恥ずかしいからは……ないよな……」
彼女の最後の言葉が僕の中でぐるぐると回り続け、とぼとぼと、どこをどう歩いたのかわからないまま、僕はいつのまにかどこかのビルの屋上にたどり着いていた。
「ハハハ……そうだな、もういっそのこと死んでしまおうか……」
今まで生きてきて良い事なんて何一つ無かった。小学生の時には初恋の女の子に告白して、その後なぜかクラス中にしれわたり次の日から皆から何故か無視された。中学生の時には好きになった女の子に告白されて付き合い出したところで、すぐに罰ゲームだったことがわかって速攻でフラれたり、高校の時は……いや、もうやめよう。これ以上嫌なことを思い出しても仕方がない。
「ハァ……やっぱり死のう。生きてく自信がない……」
ビルの屋上のフェンスはちょうど人が通れるくらいの穴が空いていた。僕はそこをくぐり抜け、一段高くなった腰壁に足を掛け片足を一歩前へ出す。
「次はもう少しましな人生送らせてください神様……」
目を瞑りそう呟き、僕は宙に投げ出した足の方に重心を傾ける。
「あ、あの……死ぬんですか?」
突然目の前から声が聴こえる。ああ、幻聴か……そう思いながらも僕は目を開けると目の前ほんの一〇センチ先くらいに骸骨。あまりにも突然の出来事に僕は仰け反り、落ちようとしていた身体はフェンスに開いていた穴から屋上に戻ってしまう。
「し、死神!?」混乱した頭でとりあえずその一言だけを僕は発する事が出来た。
「す、すいません。い、いきなり現れて。わ、私死神やってるイザナミと申します」
イザナミはペコリと頭を下げ、礼儀正しく自己紹介をする。でも、僕はまだ混乱したままで、今の状態を把握仕切っていない。
「ところで……今から死なれるんですよね?」
冷静に聞いてくるイザナミ。
「で、出来ればでいいんですが……わ、私の鎌であなたの魂、刈らせて貰っても良いですか?」
不気味にキランと輝く大きな鎌を持って僕の方を見てくる。
「だ、駄目ですかね?」
見た目の恐さと、弱気な態度とギャップのあるイザナミに、僕はなんだか少し可笑しくなり、笑ってしまう。
「な、何かおかしいところでも有りましたか?」
自分の身体をあちこち見る。
「いや、ごめん。イザナミのあまりにも礼儀正しいところがなんだか面白くて」
僕の言葉にイザナミは馬鹿正直に答える。
「それはそうです! 今から魂を刈らせて頂く方に礼儀をもって接しなければ!」
その言葉に僕はまた笑ってしまう。
「な、何か変なこと言いましたか私?」
また恥ずかしそうに話すイザナミ。
「いや、そんなに礼儀正しくするもんなの死神って? もっとこう、鎌で勝手に魂ばっさばっさ刈り取っていくのかと思ってたよ」
僕はイザナミにそう言うとイザナミは少しうなずき答える。
「そうなんです、他の死神やってる人とかは皆そうやってるみたいなんですけど……なんか私そう言うこと出来なくて……だから落ちこぼれちゃって」
イザナミはそう言うと僕の方に近づいてくる。
「ハァ、ちょっと疲れちゃったんで姿変えますね」
イザナミはそう言うと一瞬にしてそのスケルトンの姿を女の子の姿に変える。
「はぁ、やっぱり元に戻ると楽です。髑髏の姿だと威圧感は有るんですが、形を変えておくのが私にはまだしんどくて……」
イザナミは姿は小柄な女の子一六、七歳くらいだろうか? 服装は巫女の着るような服装、ただ袴は朱ではなく黒に近い灰色、背中からは黒いカラスのような羽根がパタパタと小刻みに動いている。大きな黒縁の眼鏡に黒く長い髪を一つに束ねている。手に持った大きな鎌と羽根が無ければどこにでもいそうな女の子だ。
僕はその姿にまた驚く。まさかこんなに可愛い死神がいるなんて思ってもいなかった。そう思いながら僕はイザナミに見とれていると、イザナミは顔を真っ赤にしてまた自分の服装をあちこち見回す。
「な、なにか変なところありますか?」
そう言うイザナミの言葉で僕は我に返る。
「へ? いや、どこもおかしくないよ。ただ……こんなに可愛い死神なんているんだなと思って」
僕の言葉にイザナミは今度は頭からは湯気が立ち上がりそうな勢いで顔を耳まで真っ赤にしている。
「そそそ、そんなことないです!」
そう言ってイザナミは手に持った鎌をブンブンと振り回し、照れ隠ししているんだろうが、あまりにも危険な行為に僕は思わずその場から逃げ出す。しかし、物陰に隠れようがそれごと真っ二つに切り裂く鎌は、相当な切れ味なのか、それともイザナミが馬鹿力なのか。ようやく落ち着きを取り戻したイザナミは回りの惨劇な状況に目をやり、落ち込む。
「ああ……またやっちゃった……閻魔様にまた怒られちゃう……どうしよう……」
かなり凹んでいるようすのイザナミ。またと言うことは、こういうことがよくあるんだろうか? 僕は気を付けないと、そう思いながらイザナミに恐る恐る近づく。
「落ち着いた?」
僕がそう声をかけるとイザナミは我に返る。
「はっ!? すいません、お恥ずかしい所をお見せしてしまって」
イザナミはそう言うとまた顔を真っ赤にする。そしてようやく落ち着いたところで、本来の目的を思い出したようだ。
「あ、そう言えば今から死ぬんでしたよね? その、どうか私にあなたの魂刈らせてください! お願いします!」
イザナミの必死に懇願するような瞳で見られると、思わず魂を差し出してしまいそうになる。
「今月ノルマが足りなくて、このままだと私また怒られちゃうんです! それに私……いえ、とにかくお願いします!」
少し言葉を言い澱むイザナミ。
「そうは言ってもな……なんだかその気も無くなっちゃったよ」
僕の言葉にイザナミは肩を落としがっかりとする。そこで僕は一つ思い付いた。本当はもう自殺する気なんて無かったけど、そう言う風に思わせてたらこの子、僕に着いてくるんじゃないだろうか? こんなに可愛い子がそばにいてくれたら嬉しいよな……
「ま、まぁ今日はもう自殺する気なんて無くなったけど、もしかしたらまたそうなるかも知れない……かな?」
僕がそう言うとイザナミは目をキラキラさせる。
「じゃ、じゃあ着いていきます! あなたの行くところならどこまででも!」
死神じゃなければ、こんなに可愛い子に言われて、こんなに嬉しい言葉はない。まあ、でも死神でもこんなに可愛い子が僕と一緒にいてくれるなら、まあそれはそれで良いか。なんて僕は軽く考える。
そしてこの日から、僕とイザナミの奇妙な生活は始まった。
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