桜の木

双乃樹

出会いと別れと桜の木

……家の近所にある桜の木。

今年も満開に花開いた桜の花が今年も僕らを見持っている。


出会いと別れ。

……この生きていく上で避けては通れない。

そんな日に───

桜の花は今年も僕らを祝福するかのように満開に咲いている。


君と出会った日も、

君と別れねか日も、

───桜は変わらず満開に花開いて、

出会いと別れを見守ってくれている。


僕と彼女は幼なじみで

物心つく前から一緒にいた。


……親の話ではマンションの前にある桜の木ではじめて出会ったらしい。

その時も桜は今と同じように満開に咲いてたらしい。


出会ってから、幼稚園に入園してから中学(今まで)ずっと一緒にいた、

幼なじみとも高校からは別々になる。


……卒業式の日に僕と彼女は離れ離れになる。

僕は私立の高校へ。

彼女も地元の公立高校へ。


別に高校に入学したからと言って、会えなくなるわけじゃない。

家は変わらず、お隣りさん同士。

会おうと思えば会える距離にいる。


……ただ会う時間が減るだけ。

今までのように四六時中一緒に入れなくなるだけ。

たったそれだけのこと。


でも、僕らは知っている。

学校が違えば友達も違ってくる。

そうなると今までと同じように遊べなくなるかも知れない。

いや、きっとそいなるんだろう。

僕が幼稚園の時にできた友達と小学校から今までの友達が違うように……。


幼稚園の頃に仲がよかった子の中で今でも交流があるのは彼女だけ。

そう考えるとやはりそう考えるのがだとうだろう。


今日は四月七日。

僕と彼女の入学式。

これから僕らは新たな環境で友達を作っていく。

……もしかしたら彼女や彼氏ができるのかもしれない。

ふと、そう考えると胸が痛んだ。


まだ着慣れない制服を着て電車に揺られていく。

周りにはもう彼女はいない……。


駐輪場から自転車で家へと帰る。


人は失ってから何かに気づく。

……そんなことを誰かが言っていたのを思い出す。

ほんとにその通りだなって思う。


今までの日常が僕にとっての非日常に変わっていく。

電車通学と自転車通学をすることも。

真新しい今の制服を着ることも。

そのすべてが今の僕にとっての非日常だ。


彼女が隣にいないことに今は寂しさを感じている。

でも、それも慣れてしまえば、どうと言うことはない。


彼女が「いない」と言うのが日常に変わっていくから。


環境が変わったからそう感じているだけ。

ただ、それだけの話なんだ。


───でも僕は諦めの悪い人間なんだ。

今まで積み重ねてきたことを環境が変わったからと言って簡単には手放せない。


これから僕らの日常はどんどん変化していく。

大学に行くにしろ、就職するにしろ。

どんどん、変わっていく。


幼馴染はずっと一緒にはいられない。

これからも交流するにしても

疎遠になるとしても

いつかは関係を変えなきゃ行けないんだ。


───その関係を変える日はいつかやってくる。

ただ、それが今になっただけ。

それなら、僕の答えは決まっていた。


……思い出せばいくらでもでてくる彼女との思い出。

そのすべてが僕を後押ししてくれる。


僕は彼女が好きなんだ。

今まで気付かなかったけど、好きなんだ。

だから、関係が勝手に変わってしまう前に

自分で変えて見よう。


関係は勝手に変わってしまうこともある。

このままなにもしなければ勝手に関係が変わることは

幼稚園から小学校に上がるときに経験してきた。


───だから、伝えよう。


自転車を全力でこいで、家と自転車を走らせる。


家へと入ると、桜の木が迎えいてくれる。

そして、そこに彼女はいた。


真新しい制服に身を包み桜の木を見上げている。


「あっ」


彼女が僕に気づく。


「入学式、どうだった?」


いつもと変わらない笑顔で彼女が僕に聞いてくる。


「……普通かな」


僕はそう答える。


「そっか。私もそんな感じ」


僕らが出会った日も別れた日もこの桜は僕らを見持っていた。

……だから、関係を変えるにもここが相応しいのかも知れない。

僕らが知り合いから幼なじみになった日

僕らが入学し卒業した日

僕らが離れ離れになる日も。


そんな時、少し風がふきはじめる。

桜の花が綺麗に舞い上がっていく中で、


「……好きだ」


「……え?」


僕はそう伝える。


「ゆづきのことが好きだ」


もう一度、僕はそう彼女に伝える。

……もう少し言うべき言葉があったのかも知れない。

でも、僕にはそう伝えることが精一杯だった。


「……嬉しい」


彼女が僕を真っすぐ見て言葉をはっする。

顔は顔を真っ赤にして涙を流しながら、


「卒業式の時、これから離れは慣れになるのにひろちゃん

なにも言ってくれなかったから、私のことなんてどうでもいいんじゃないかって不安だったから。……嬉しい。」


「私も……私も好き。 ひろちゃんのこと大好き!」


彼女はそう言って微笑む。


「ねぇ、ひろちゃん?」


「ん?」


彼女が僕に話しかける。


「……キスして?」


顔を真っ赤にしながらゆづきが言う。


「言葉だけじゃなくて、行動でもしめしてほしい」


彼女のその言葉に僕は答える。


「わかった」


好きだから躊躇う理由なんてなかった。

そっと顔を近づける。


「んっ」


そして、僕たちはキスをした。


「キス……しちゃったね」


彼女が幸せそうに微笑む。


───僕たちはこの日、恋人になった。


家の近所に咲いた桜の木は。

今年も僕らを見持っている。

出会って 

幼なじみになって離れ離れになって恋人になった僕らを。


───それは、きっとこれからも同じだろう。

嬉しいことも悲しいことも、いつだってこの桜の木は見持ってくれている。

これからもいつものように満開に花開いて────

END





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

桜の木 双乃樹 @kanonene1951

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ