バベルの塔

 3月6日の報告会。


「いやー、思ったよりもうまくいったよね!」


 ライムが作業場の『窓』に動画を再生して言う。ニュース番組で取り上げられた先日の記者会見の様子――ではなく、それを別角度から、記者たちを映していたカメラの映像だ。


「見て見て、このお兄さんがケモプロ用の野球資格回復制度を作ってって言ったときの顔! ぽかんとしちゃって」

『はっはっは。予想以上でしたねえ』


 『窓』の中から恰幅のいい、アロハシャツを着たタヌキ系アバター……ライムの叔父のサトシが言う。東京に引っ越してきたサトシは、ここではなく都心部に居を構えていた。広報だけでなく営業でも走り回る分、その方が都合がいいとのことだ。なので報告会にはアバターでの参加になる。


『いくつか言いそうなメディアを選んで招待したので、十中八九こうなるとは思いましたが、いやはや、代表のダメ押しが思ったより効きました』

「これでもう『売るな』って言われることはないよね。言うんなら人間のアマチュアをケモプロ選手が指導するための制度作りをしないといけないんだもん」

「効果があったなら何よりだ。大変な状況だが、二人の仕事には期待している」


 新型コロナウイルスによる影響を予測して、二人は広報・営業として大立ち回りをしている。その成果のうちの一つが先の記者会見というわけだ。


「しかし本当に制度を作ってくれるなら、作ってくれた方がありがたくないか?」

「現実と同じように、講習でも受けさせろってか?」


 ミタカが口をへの字に曲げる。


「アレってよーするに、学生に無茶な指導をさせないとか、学校への新人の引っ張り方とか、そういう講習だろ? 決まったプログラムしか提供しねェケモノに何を教えるってんだよ。勘弁してくれ」

「将来的にケモプロの監督が、現実の高校野球を指導するようになったら……」

「はァ? いやお前それは――」


 ミタカは俺を指して――言葉をいったん止めて宙を見つめる。


「――まァ……選手のパラメータを見て指示を出してるんじゃなくて、あくまで客観的なデータと自分で見て学習した結果を用いて指揮してるから、やれっつわれりゃできなかねェだろーが……いるかァ? AIに監督されてェヤツ?」

「ムフ。選手と、監督になりたい人のプライドが許さないかも?」


 それもそうか。それに人はAIに完璧を求めている。間違いをする人間臭いAIを目指すケモプロは、そういったことに向いていないだろう。AIの指示の結果試合に負けたら、すべてAIのせいとして怒りを買いそうだ。


「監督業は当面人間様の仕事だろーよ」

「そうなるんだろうな。なら、やはり監督モードには需要がありそうだ。まずはこの話から進めようか」

「オウ。やっぱ経験者のテスターがいると話が早いわな」


 ミタカが経験者のテスター――ヤクワナミの提出したレポートを表示する。


 監督モードのテスターはアツシたち機器販売部門の元プロ野球選手に任せてもよかったのだが、意外にも監督経験どころかキャプテンをやっていた人もいなかった。それに何より――プロアマ規定なんて気にする必要のないアメリカでの機器販売が好調で、アメリカチームとの連携があって忙しいため、あまり時間が取れない。


 そこに余剰戦力としてアルバイトで入ってくれたナミは、監督経験もあり、何よりプロからも投球術を評価されていた試合勘の持ち主で、テスターとしてうってつけだった。


 ……ちなみに、ロクカワのレポートはなかった。やってる暇はなかったらしい。そもそも、機材も一人分しか渡さなかったし。


「んじゃ細かいことは置いとくとして、まず……コレか。『チームを固定して鍛えたい』、ね」

「監督業とは育成業でもある、とのことだ」


 今はシミュレーターを起動するたびに記憶をリセットした選手が呼び出されているが、これでは毎回作戦の意図を教え込まないといけない。さすがにそれは達成感もないだろう。


「別に構わねェけどよ、そうなると将来的に、1ユーザーに対して1チーム用意しないといけねェのか?」

「人によって作戦の方針は違うだろうから、複数の監督が混ざって教えるのはよくないだろうな」

「どうよ、セプ吉」

「マ、いいデショウ。データ容量が増えるより、同時稼働数が増える方が困るノデ」


 ニャニアンは肩をすくめる。


「もちろん、死にデータみたいなのがないほうが素晴らしいデスケドネ」

「あっ、それなら実際の、っていうか、アマチュアチームを使うのはどッスか? 高校とか、大学とか」

「オー、ナルホド。それは無駄がなくていいデスネ」

「無駄はねェが不満はでるんじゃねェの? ひいきの学校にヘボ監督が指導して負ける、とかなったら、運営だけじゃなくそのユーザーにもクレームがいくぞ」


 そういえばライパチ先生は、カナが卒業した翌年は結構叩かれてたらしいな。成績不振で。


「クレームか……監督がついたことを伏せるという手もなくはないが、そんなことをしても漏れるところからは漏れるだろう」

「かといって1ユーザー1チームで、今後対戦も用意すッとなると、もはや別リーグみたいなのができてくんぞ」

「現行のアマチュアとは当面分離するしかないと思うし、ユーザーごとにチームが増えるのは仕方ないだろう。……ああ、ネーミングライツを買っているアマチュア校だけは、そのオーナーと契約する形で監督業をやる、という形で提供できる気がするがどうだろう?」

「実際の高校野球じみてきたな、オイ」

「ムフ。そしたらプロ・ケモプロ監督、って職業も生まれるかも?」

『はっはっは、eスポーツ化待ったなしですね』


 役人のフジガミもeスポーツ化を望んでいたし、そういう流れになるのは好ましいことかもしれないな。


「とりあえず、ナミのチームは記憶を引き継げるようにしてくれ。それで効果があるなら覚悟を決めよう」

「わァった」


 それからしばらくナミの上げたレポートを検討していき――大きな問題にあたる。


「……で、コレだな。『話したい』ってヤツ」

「あー、確か今はコントローラーで作戦を選択するんスよね? で、話したい……話して作戦を伝えたいってことッスか?」

「ああ。具体的な作戦の意図なんかを伝えたいそうだ」


 送りバントをさせるにも、確実に送るのか打者も生きることを目指すのか、なぜそうするのか……ということをきちんと説明したほうが選手が納得する、とナミは言っていた。


「監督業というのは結局コミュニケーションの仕事だと思う。であればお互いに話せた方がいいだろうと思うんだが……まず、声で指示を出すことは可能だろうか?」


 問いかけると、従姉はこくりと頷いた。


「う、うん。できなくはない……かな」

「まァ音声認識のレベルも上がってるからな。コマンドの音声化についちゃ難しくねェ。ねェが……」


 ミタカは口をへの字にする。


「コミュニケーションっつーことは、マジで『話したい』っつーことか? 人間の言葉を理解しろって?」

「そうなったらいいと思う。今は契約更改の時に、ミタカが間に立ってオーナーと選手の間の会話を通訳しているが、それと同じようなことができないだろうか」

「ボイスコマンドじゃなくて、AIに言葉を理解させろってわけだ。相変わらずオマエは無茶ぶりしてくるな? GAFAだってやれてないことをやれって?」

「ガーファってなんだ?」

「おま……Google、Apple、Facebook、Amazonの四大企業の略だよ」


 なるほど、巨大企業だ。


「つまり、人間の言葉を理解させることはできない?」

「ここにいるのを誰だと思ってんだ?」


 ミタカが従姉と肩を組む。続いてニャニアンも横でブイサインをした。


「さっきツグが『できなくはない』っつったろ。『できなくはない』レベルだったら、できるめどはついてる」

「レベル……つまり、簡単な方法と、難しい方法があるということか?」

「難しい方法と、頭がおかしい方法だ」


 ミタカはニヤリと笑う。


「さて、バベルの塔をどうするか話し合おうじゃねーの?」


 ◇ ◇ ◇


「バベル……?」

『ああ、代表。三つのしもべを使う超能力少年の話ですよ』


 窓から飛んできたサトシの言葉に、誰もが口を閉ざして首をひねった。


『……古すぎたかな?』

「タイトルぐれェしかわかんねェよオッサン。調子乗んなよ?」

『いや、実際作中に出る塔の名前はバベルなんですよ』

「知るかよ」

『まあ本題に戻りますとね、旧約聖書に出てくる塔のことです。大雑把に言うとこの塔の建設中までは、人々の話す言語は一つだったんですが、天に届くほど高い塔のことを神様に認めてもらえなくて、言語をバラバラにされてしまって、結果的に塔は完成しなくなってしまった――という感じですね』

「ムフ。いろんな言葉があることの説明のためのお話、みたいな?」

「なるほど」


 言葉が分からなければそりゃ作業もうまくいかないだろう。


「つまり、今、ケモノたちの世界で使われている言語は一つなのか?」

「まァな。言語っつーか、データを喋ってる。例えば、同姓同名の人間がいるとするだろ。オレたちが話すときは、そいつの名前だけじゃどっちのことかわからねェ。対して、ケモノの方はそういうことはねェ。固有のIDを伝えているわけだからな」


 ダイトラがラビ太に呼び掛けたとして、それは「ラビ太」と言っているわけではなく、「IDほにゃらら番」と呼んでいるのだという。


「そこに誤解は生まれねェ。まさにバベルの塔の時代のコミュニケーションだろ?」

『なるほど、つまりニュータイプですね』

「それには異議があんぞ。って、横道にそらすなよオッサン。とにかくだ、人間の言葉を理解させたい、という点については方法がある。人間の言葉をデータに翻訳すればいい」

「うん。AI同士の会話のルールに載せれば、できると思う」


 従姉は頷く。


「今も、データを翻訳してアイコン化して表示しているから、その仕組みと自然言語処理を組み合わせれば」

「ケモノのデータを翻訳して表示し、人間の言葉をデータに翻訳してケモノに伝える。これならまァイケると踏んでるワケよ」

「なるほど。……それで」


 難しいが実現可能性がある方法はわかった。


「頭がおかしい方法は?」

「マジで『人間の言葉を理解させる』」


 ニャニアンが口笛を吹き、ミタカにすっぱたかれる。


「プラカードも応援曲も、ケモノは全部……まぁいい感じに整形された、翻訳されたデータとして受け取ってる。それをやめて音を、文字を、そのまま見せて……生のデータで内容を理解させる。音声データとして、画像データとして。言葉もそうする。学習させる。本当の意味でコミュニケーションできるようにする。どうだ?」

「学習の方法は?」

「段階的に行く。今ケモノたちが発してるデタラメ語を、データを翻訳した言語に置き換える。ま、急に意味のある言葉を喋り始めるワケだな。自分が、意図せず、勝手に」

「ちょっとしたホラー、デスネ」

「そうやって覚えていく。あとは人間から話しかけられたときも、データと言葉を同時に聞くわけよ」


 自動翻訳がついている状態になるわけか。


「んで十分に学習して、AIが言葉を使えるようになったら――完全に切り替える。言葉だけを使うようにして、データを喋らせんのをやめんのさ」

「なるほど。……どれぐらいかかる?」

「さァな。一年か十年か、もしかしたら覚えねェかもしれねェし」

『つまり字幕付きの映画を見て、英語が覚えられるかどうかって話でしょう? いやあ、よほどやる気を出さないと、僕は覚えそうにないですね』


 確かに。俺もライムがずっと横で翻訳してくれる、という状況だったら英語を真面目に勉強しなかったかもしれない。


「どうよ。この時点でもなかなか頭がおかしいだろ?」

「ということは、まだあるのか」

「あァ。ここでバベルの塔が再び登場だ。オマエさ、ケモノに何語を喋らせるつもりだ?」

「何語って」


 ……ん?


「ナミは日本人だし日本語――いや、アメリカでもこのシステムは売るつもりだ。そうなるとアメリカのケモノは英語を喋る? ……なら、今青森にいるロビンは、フレズノにいるプニキは……チームメイトと何語で話しているんだ?」


 意思疎通に全く問題のないバイリンガル? そんな背景もないのに?


「……日本のケモノ選手は、日本風の名前をしている。アメリカのケモノ選手は、英語風だ」


 ロビン・ニアウッド。山ノ府やまのふクマタカ


「だからと言って、住んでいる地域で言葉が違うのは……困るだろう。トレードしたときとか、交流戦のときとか、言語の違いでコミュニケーションが取れないなんて」


 バベルの塔は必要だ。少なくとも、ケモノ世界には。


「……ケモノ選手のことを考えると、ケモノたちは一つの言葉を喋るべきだと思う」

「だろーな。それがデータだった」

「だが人間と本当のコミュニケーションを取るなら、言葉が必要だ」


 しかし人間はバラバラの言語を喋っている。日本語、英語……。


「つまり……ケモノには」


 人間の都合ではなく、ケモノたちを第一に考えるなら。


「……ケモノ語、とでもいうべき言葉が必要なんじゃないか?」


 ミタカは肩をすくめる。


「そーなるよな、やっぱ」

「ケモノ語をケモノは話す。人間は……自分の言葉をケモノ語に翻訳してもらって、ケモノはケモノ語を日本語や英語に翻訳してもらう……」


 これならケモノが喋る言語は一つだし、人間が何語で喋っても翻訳を通してコミュニケーションできる、が――


「頭おかしいだろ?」


 俺たちの世界にバベルの塔はない。結局、ケモノとの間には通訳が必要になる。データを翻訳するのと何が違う? ――いや。ケモノ語を学べば直接のコミュニケーションが取れるようになる、な?


「しかもこんだけ手間暇かけて、結局やってることは野球ゲームだぜ?」

「……単純に考えればデータを字幕に翻訳すればよかっただけだ。なぜこんな提案を?」


 ミタカは――ふいっと目をそらす。ニャニアンがニヤニヤした。


「……正直、AIに言葉を与えるって実験をやってみてェ」


 なるほど。


「コミュニケーションってんなら、データを翻訳するんじゃなく、言語を学習させて会話ができるようになるべきだろ。ケモプロはその実験のための下地がある……というか、たぶん、ケモプロじゃねェと人間とAIの自然な会話を目指す意味がねェ」

「どういう意味だ?」

「ここに自然言語処理の先輩がいる」


 ミタカはスマホを取り出して操作すると、ぽいとずーみーに投げてよこす。


「わっと」

「Googleアシスタントを使って、そうだな、適当に明日の予定をスケジュールに入れてみな。ホンモノじゃなくていい」

『Siriじゃないんですね』

「うっせーAndroid派なんだよ」

「わかったッス。オッケーグーグル!」


 ………。


「反応しないッスね?」

「発音の問題デスカネ?」

「オッケーグーグル! オッケェ、グゥグル!」


 ピピ! と起動音。


「明日の8時から先輩と漫画の打ち合わせのスケジュールを入れて欲しいッス!」

『すいません、よくわかりません』

「明日の8時から先輩と漫画の打ち合わせのスケジュールを入れて欲しいッス!」

『すいません、よくわかりません』

「……明日の8時に打ち合わせの予定を入れて?」

『午前8時ですか、午後8時ですか?』

「午後8時」

『イベントを明日の20時に追加しました』


 ずーみーはドヤ顔をする。


「んじゃその予定の時間を変更な。あとライムも参加で」

「わかったッス。オッケーグーグル!」


 ピピ!


「明日の20時の予定を、21時に変更」

『イベントを明日の21時に変更しました』

「明日の21時のイベントに、ライムを追加」

『すいません、よくわかりません』

「……明日の21時のイベントに、クジョウライムを追加」

『予定出席者にクジョウライムを追加しました。出席依頼を送信しますか?』

「いいえ」


 一仕事終えたずーみーは、ふぅっと息を吐いた。


「お疲れさん。さて、自然言語処理の第一線にお住いのGoogleアシスタントとのやり取りだが、どうだ?」

「音声認識も内容の把握もなかなかのものだな」

「だろ。んで――」


 ミタカは声を低くする。


「『会話』としちゃどうだ? 『人間同士の会話』として許容できる内容か?」

「……いや、人間とああいう話し方をしたら、不自然極まりないだろう」

「だろーな。どうしてああいう会話になると思う? ずーみーはどうしてああいう話し方をしたよ?」

「えっと……最初は普通に話しかけようとしたんすけど、うまくいかなくて。で、もっと機械に分かりやすい話し方をした方がいいのかな? って」

「そう、そーいうことなんだよ」


 ミタカは腕を組んで頷く。


「今あるAIとの会話ではな。『相手は言葉をよくわからない機械だ、定型文なら理解しやすいだろう』……そういう『AIに対する気遣い』が生まれて、とても自然とは言えない会話が繰り広げられるようになるわけだ。これを繰り返して学習しても、『人間らしい会話』は生まれないだろうぜ」

「ずーみーは最初につまづいたから話し方を工夫した。最初からうまくいっていれば、こうはならなかったんじゃ?」

「いいや、そうならないね。なぜなら、こいつらは怒らない」


 こんこん、とスマホを叩く。


「怒ったふりのメッセージは作れるが、感情があるわけじゃねェ。だったら楽をしたくなるのが人間だ。オーケーグーグル。3月10日18時に会議の予定を追加。参加者はオオトリユウ。ってな」

『グーグルさん、ちょっと今いいかい? 予定を追加して欲しいんだけど……なんて、言わないですねえ』


 グーグルさんが忙しいかどうかとか、気にする必要はないものな。


「これはおそらく、他のどんな『会話するAI』『会話するロボット』にも当てはまることだ。ペッパー君に真摯に話しかける人間はいない。学習型AIチャットボットにだって、人間らしい会話よりも細切れの単語を投げつける。仕方ねェさ、相手は生きてない、感情のない機械だ、ただリクエストに応答するサービスだ、それも未成熟のな」


 感情のない相手だから、冷たく対応できるのだとミタカは語る。『私に機械のように話しかけないで!』なんて怒る相手ではないからと。


「だが、ケモプロなら可能性がある」


 ミタカが端末を操作して、窓に動画を映す。ケモプロの契約更改の様子。ケモノ選手に話しかけるオーナーたち。


「ケモプロは……これまでケモノ選手の『実在』に対するコストを支払い続けてきた。応援してもらえるように、選手を『生きている』と感じてもらえるようにな。その成果が、これだ」


 選手の提案に悩み、絞り出すような声を出すスナグチ。豪快に笑い、褒めて、激励するタカサカ。結婚報告に動揺するヒナタ。


「ケモノとの対話なら――人間は、AIと人間らしい会話をするかもしれない」

「その唯一無二の実験場、というワケデスヨ」


 ニャニアンが目を輝かせて、熱い息を吐きだす。


「そんなの、技術者として放っておけないじゃないデスカ? アスカサンの気持ちも考えてくだサイ、ダイヒョー!」

「うっせェ」

「ウッヒョ!」


 パァン、とニャニアンの尻からいい音がした。


「動機は分かった」


 目を見るに、従姉も同じ気持ちなのだろう。


「……ケモノ選手と自由に話せるようになる。きっとそれはケモプロの未来をもっと広げてくれると思う。ケモノに言葉を与える、その方向で行こう」

「うおー、ロマンッスね!」

「……ま、言語を習得するのにどれぐらいかかるかはわからねェけどな。オッサンも言った通り、やる気の問題もある。AIがどれだけ言語を必要として、学習をするのか。その動機がな」

「ケモノ語を覚える、喋る動機か……」

「あ、なら、こういうのはどうッスか? ネイティブスピーカーを用意するんスよ。ケモノ語でしかコミュニケーションを取れない相手を」

「あン?」

「ちょうど、うってつけの相手がいるッスよ。ほら!」


 ずーみーは、眼鏡の奥の瞳を輝かせて言う。


「――赤ちゃんッス! ツツネさんの!」


 11月に生まれる予定の、瓦ノ下かわらのしたツツネと砂林すなばやし黒男クロオの子ども。


「赤ちゃんがデータを喋らずに、ケモノ語しか喋らないなら――ぜったい、両親はケモノ語を覚えるッスよ!」

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