ケモノプロ野球、2019シーズン開幕戦(上)
【対青森開幕戦(第1試合)】 / 島根出雲ツナイデルス公式チャンネル 2018年12月1日配信
『今日を楽しみにしていたケモプロファンの皆様、お待たせしました! ついにケモノプロ野球も二年目。ケモノリーグのペナント開幕です! 初戦は青森ダークナイトメア・オメガ対、島根出雲ツナイデルス。球場は青森
黒と赤を基調とした禍々しい球場で、ケモノ姿の観客たちが歓声を上げる。風船が飛び、花火が飛び、プラカードや横断幕が掲げられ、ウェーブが発生する。応援団が早くも曲を演奏し始めた。
『オープン戦を経て、どちらの球団もスターティングメンバーが二転三転しています。まだまだ固定化されていないかな、というところです。まずは守備につきます我らがツナイデルスから紹介しましょう! 一番サード、誰が呼んだか島根のニンジャ、
細長いイタチ系男子が足音も無く走って守備につく。
『二番セカンド、
明るく観客に手を振りながらイヌ系女子が守備につく。守備につくと後は我関せずといった感じで、毛や爪を気にし始めた。
『三番センター、苦労人の
不安げな表情で出てきたシカ系男子は、外野にやってくると小さくため息を吐いた。
『四番、DHは入れ代わりが激しいですが、本日は根暗バッター
アルパカ系男子が静かにマスクを被り、ベンチから出てくる。
『さあ新人選手の登場だ! 六番ファースト、
センザンコウ系女子がガッツポーズを取りながらベンチから飛び出し、振り向いてベンチに手を振る。キリン系男子のガンタは几帳面に拍手して返した。それからもう一人、まだらな毛色のネズミ系女子が小さく手を振り返す。
『新人選手が続きます! 七番レフト、
ベンチから飛び出したイヌ系男子が、足を引っかけてぐるりと回転――するもその勢いのまま駆け出す。ぴょんぴょん飛び跳ねてファンの歓声に応え――バシーン! と大きな音を立てて外野フェンスに激突した。
『えぇ……あ、起きましたね。大丈夫そうです。はあ、心配させないでよねこむら返りコギ六……。気を取り直していきましょう。続いても新人選手です。島根第二の忍者となるか!? 八番ショート、
やや緊張した様子で出てきたのは、小柄なモモンガ系男子。守備につくと隣のイブヤから声をかけられるが、無言で頷くしかできていなかった。
『外野は入れ替えが激しかったツナイデルスですが、今日の開幕戦に勝ち残ったのはこの選手! 九番ライト、
ヒツジ系女子が、たったった、と軽快に走っていった。
『一年前と比べると本当に頼もしくなったわね……。さて、先発投手は荒れ球おじさんこと、
ウシ系男子が肩をいからせてマウンドに上がる。審判からボールを受け取っているルーサーに、早く寄越せとジェスチャーしていた。
『やる気があるようで結構ね。さて、続きまして対する青森ダークナイトメア・オメガのスターティングメンバーをご紹介します。一番ショート、
ダークナイトメアのベンチで、体格のいいウシ系女子がくっちゃくっちゃとガムを噛む。
『これまでDHはチーム最高齢の
ベンチに座るキツネ男子の虚無な表情が大写しにされる。
『うーん、チベットスナギツネらしい表情です。さて続いては、六番レフト、
不満げな表情をしたシカ系男子が、貧乏ゆすりをしてベンチに座っている。心配して近づいてきた黒いウサギ男子を、イラついた様子で追い払った。
『ドライチで入団したルーク選手。オープン戦序盤は調子がよかったのですが、その後は下り坂。開幕出場は危ぶまれていましたが、今日は六番での起用です。……ここが正念場かもしれないわね』
実際、記録を見ればここ最近の成績は散々で、20打席連続で出塁できていない。オープン戦は公式戦ではないので参考記録とはいえ、本人の認識がどうかは分からない。
『七番ファースト、
ベンチでキョロキョロしているムササビ系男子が映る。手を前に合わせて、窮屈そうに座っていた。
『八番ライト、
カンガルー系男子は、防具をつけたまま拳に顎を乗せて物思いにふける。あれこれと試合展開を考えている吹き出しが浮かんでいた。
『先発は昨年度最優秀防御率を誇る青森のエース、
鼻梁に真っ直ぐ白い線の入ったハクビシン系男子は鋭い眼光でブルペンキャッチャーを見つめ、投球する。
『大事なペナントレース初戦、はたしてどちらに軍配が上がるのか。さあツナイデルス側の投球練習が終わりました。いよいよ試合開始です!』
◇ ◇ ◇
『――……三回表、0対0、2アウトの場面ですが未だピンチが続きます、ツナイデルス! 一番ジャックがフォアボールで出塁後、二番三番を三振に抑えましたが、四番クロゼ、五番スナ雄がヒットで続き、2アウト満塁! 迎えるバッターは獣子園準優勝、青森ダークナイトメア・オメガのドラフト一位、雪道ルーク!』
表情の硬いシカ系男子が、バットを担ぎつつバッターボックスへ向かう。
『二回表の第一打席ではサードゴロに倒れました。当たりは強かったのですがニンジャの守備範囲だったのが悪かった、と切り替えてもらいたいところ。長打力は十分ある選手です。バッターボックスで……ルーク、早々に好球必打と割り切っています。対するバッテリー、ルーサーは慎重に……前打席で打ち取った内角低めストレートからという思考ですね。ブソン、頷いて、投げたッ!』
カァン!
『高く上がった! ……が、これはセンターの守備範囲か。レイ、落下地点構えて――背後をコギ六が通過していきますが、問題なく取りました。スリーアウトチェンジ』
のろのろと一塁へ向かっていたルークは、立ち止まると足元を蹴ってベンチへ戻っていく。
『コギ六……一応左中間だしカバーに来るのは構わないけど、追い越すのはないでしょ……伊豆のブチ
コギ六は追い越した勢いそのままにベンチへ帰っていった。
『三回表、2アウト満塁の場面を凌ぎましたツナイデルス。荒れ球おじさんブソンの投げた球は、構えたミットに向かわず真ん中へ。ルークこれを打ちましたが、ややためらいがあったか。打ち抜けずセンターフライでチェンジです』
青森側ベンチから選手が出て行き、守備につく。
『三回裏、マウンドには青森のエース、夜山ノヴァク』
ハクビシン系男子がマウンドで滑り止めを指に丁寧につけ、余分を叩いて落とす。
『ツナイデルスはこの回、八番枝飛クモンから。ドーラに代わってショートを守るニンジャ候補生、エース・ノヴァクを捉えられるか!』
モモンガ系男子、クモンが深呼吸をしてからバッターボックスに入り――ノヴァクの眼光に身をすくませる。それでも顔をブルブルと振って、唾を飲み込みバットを構えた。
『キャッチャーのロカン……考えます』
ミットを構えず、青森のキャッチャー、カンガルー系男子のロカンは顎に手をやって考える。思考のアイコンがぽんぽんと浮かんでいく。浮かんで行き――
『ミット構え、サイン出した! 時間ギリギリ! ノヴァクそのまま投げる! ……ストライク! キレのいいスライダー!』
空振りしたクモンは、よろめきながら体勢を立て直す。
『やっぱりロカンは初球を考えるのが長いわね……おかげで青森のピッチャーは、初球の指示にほとんど首を振ったことがありません。
ズバッ! バシッ!
『――それで抑えてくれるなら、文句も無いでしょう。ロカンは二球目以降のことも初球で計画を立てているので、以降は即断しますからね。この変則的なリズムが功を奏しているのかどうか? ノヴァク、あっさり新人を三振に取りました。1アウト』
続く九番、一番もあっさりと打ち取られる。
『さすがはエース。圧巻のピッチングです。ツナイデルス、今日はまずはノヴァクを打ち崩せるかどうかが課題です。試合は中盤に移ります……――』
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