八月(2)
7月31日。
「それじゃ、らいむはここまでだね!」
「本当に残るのか」
ロサンジェルス国際空港。搭乗案内のアナウンスを聞いて立ち上がった俺たちから、ライムが一歩離れる。
「大丈夫だって。パスポートの期限は8月末まであるし、それまでには日本に戻るから! それとも、なに、お兄さん。らいむがいなくてさびしい?」
「日本からこちらの会議に参加することも多いだろうし、声を聞けなくなるわけじゃないからなあ」
「ムフ。つれないなー」
ライムは雲のように笑う。
「私は一人で仕事をさせるのが不安ですが……」
「もー、シオミお姉さんたら心配性! 大丈夫、らいむ、バッチリ仕事はこなすからね!」
「頼りにしている」
「お兄さんは帰ってすぐ仕事あるんだから、気を抜かないでよ!」
「ああ」
「じゃ、ね……ライムちゃん」
「うん。……ツグお姉さん、ありがとね」
「? 何が?」
「ううん、なんでも!」
タタッ、とステップを踏んで距離をとると、ライムは大きく手を振った。
「こっちもバッチリ仕込んでみせるから、期待しててね! じゃあね!」
◇ ◇ ◇
【ダイリーグ】なんかカードゲームになってるんです【女子実況】 / ハシノスミチャンネル@カミガカリ 2018/8/8投稿
(白く広い部屋の角の隅に、緑色の髪でジャージ姿の女子の3Dモデルが立つ)
スミ:あどッ、どッ、どッ……どうも……こんッ、こんばんは。ハシノスミ、です。
(カメラが寄る。キョロキョロとせわしなく左右に動く瞳)
ス:えと、今日はあんけ……えッと(汗)。あ、あ、そう、あの……野球をします。あの、前にやった、ダイリーグってやつ……あれが、アップデートした? とかで。いろいろ……難しくなったそうなので、今日は講師を招いて……だいじょうぶかな(小声)。えっと、とにかく、呼びます。この方です……。
?:こんにちはー。
(虚空から出現する、制服を着た量産型美少女アバター)
ス:えッ、あッ、あれ……おかしいな。男性って……あれ、声は男?(汗)
UBD:あ、どーも。プロゲーマーの
ス:えッ……あ、はい……えぇ……(汗)あ、カンペ来た(小声)えっと……UBDさんには、ボーンも入ってない適当な着ぐるみアバターを使う予定だった……いいのか……(小声)ええ、けど、最近Vカツってアプリがでたのでさくっと美少女を作って着せた……ええ?(汗)
U:いやーVRってすごいっすね。体見下ろすと胸が出てるんだもん。
ス:あ、は、はあ、えぇ……(汗)
(一度アイキャッチ、場面転換。スマホ画面を背景に二人が左右に立つ構図に)
ス:えッ……と。あらためまして。今日のゲストは、UBDさんです。カードゲームのプロ……ということで、なんか難しくなった? ダイリーグを、教えてもらいます。
U:まあ正直僕も自信ないんですけどね。
ス:えぇ……(汗)
U:いやだって僕CCG、要するに対戦型のカードゲームのプロですもん。ソリティアというかデッキビルディング型は専門外っていうか、せっかくドミニオンは日本人が強いんだからそっちに聞いたほうがよかったんじゃないのって感じですけど。
ス:えッ、え……え、ど、どうしま、どうします?(汗)
U:いやまあやりますけどね! プロですし? まったく未経験ってわけでもないんで。あと、やってみたら普通に面白くてハマっちゃいましたし。
ス:あ……あ、あー……そ、そう、ですか(汗)
U:僕が掴んだコツみたいなのをね、スミちゃんと共有できればと思います。じゃ、やっていきましょうか!
(場面転換。スマホ画面にダイリーグのプレイ映像が映される)
U:はい。というわけでキャラの外見作り終わって、ポジションも選び終えて、スタートデッキの構築ですね。ちなみにポジションは外野です。
ス:これ、前にやった時はなかったんですけど……えと、どうすれば?
U:固定の9枚に6枚を追加するんですけど、スタミナ消費が低い同色のカードを揃えるのが定番かなと。ターンごとに5枚の引きなおしなんで、コンボを続けようと思うと確率的には4枚以上は同色にしたいですね。
ス:えっと、心、技、体、のどの色を選べば……?
U:あ、そのあたりはよくわかんないっすね。野球詳しくないんで、
ス:ええ(汗)
U:最終的に獲得したポイントぐらいしか判断基準にできなくて。まあ体でいいんじゃないですか。スミちゃん、ホームラン打ちたいでしょ。初期データですし手持ちカード増えてないんで、普通に体系5枚と技系1枚入れましょう。
ス:じゃ、じゃあ……それで。
(ゲームのオープニングが早送りされる)
U:てことで行動開始ですね。シナリオが表示されて、会話がLINEみたいに流れてきて、と。まあ選択肢を見るのが重要です。
ス:えっと……先輩の指示通り部員集めをするか……無視して自主錬をするか……。
U:ここは二択で、条件もないんで好きなほう選びましょう。報酬が体系のランダムカードみたいなんで、自主錬のルートで。まあ序盤はドロー系カードとかもないんで限界まで同色のコンボ続けていけばいい感じにポイント稼げます。
ス:選んで……実行。
U:でターン終了。使ってないカードが破棄されて、また5枚ドロー、選んで行動。この繰り返しです。このシナリオは3ターンなのでサクサクいきましょう。
(早送り後、別のシナリオが開始する)
ス:えっと、体系カードの貰えるほうを、えらぶ……。
U:あ、今回はこっちにしましょう。備えカードが取れるんで。
ス:備え?
U:カードゲームでいうところのトラップカードとか、まあ装備かな。場にセットしておくと、書かれた条件のときに使えるんですよ。だいたいは使い捨てなんだけど、この「救急箱」は複数回使えるんで有能です。ケガしたときの負傷率を下げてくれるんで。このゲーム、ケガしても行動はできるんですが、負傷率によって選択できないカードがあったり、獲得できるポイントが下がったりするんですよ。
ス:な、なるほど?(汗)
U:備え以外に優先するカードだと、コンボを阻害しない無色カード、ターン中に追加でドローできるドロー系、あとはカードをデッキから除外する……まあ要するに捨てる、圧縮系ですね。
ス:なんで、捨てるのがいいんですか?
U:デッキに入ったカードは必ず一周する間に出てくるんで、逆に言うと不要なカードを捨てれば、有用なカードしか毎ターン出てこないわけですよ。
ス:む……むずかし(汗)
U:まあやりながら覚えていけますって。どんどん行きましょう。
(場面転換、試合中の画面に)
U:お、練習試合が始まりますね。試合部分は前のバージョンと変わってないそうなので、じゃあ、スミちゃん、お願いします。
ス:えッ。
U:僕も何回かやってますけど、よくわからないんすよね。能力のポイントの総合値をスコアに見立てて遊んでる感じなんで。スミちゃんは僕より前からやってるんでしょ?
ス:えッ、あッ、あ、はあ、えぇ……(汗)まぁ……やってますけど……じゃあ。
(超高速で全打席凡退に終わる映像)
U:はいというわけで、試合終了して課題カードがめっちゃ出ましたね。
ス:う、うぅ……。
U:まあいいんじゃないですか。課題カードをセットすると、カードに設定された期間、獲得できるポイントが増えるんで。ただ利用期限があるんでスケジュール見て無駄なくセットしていきましょう。
ス:じゃあ課題は「ミート力を鍛えよう」で……あれ、なんか出てきた。し、試練?(汗)監督怒ってる……?
U:お、3ターン以内技10コンボが条件の試練ですね。試練を達成するとポイントたくさんもらえて、たまに特殊技能とかも手に入るんですよ。ただ、ここまで積んできた体コンボを捨てないといけないのが痛いですね。二色カードがあれば乗り換えできるんですが……ここでコンボ切るとテンション落ちちゃいますし……無視、かな?
ス:え、む、無視していい、ので?(汗)
U:達成できないペナルティと比べて、やるかやらないか考えるべきですね。あ、でも待てよ、山札の残りが……うん、いけそうですね。試練、達成してみましょうか。課題とも噛み合ってるし。
ス:できるんですか?
U:山札に技がかなり残ってるので、いけそうですし、取れ高もほしいでしょ? とりあえずこのターンは技を選んで……テンションが落ちるけど無視して、ターン終了。でドロー。
ス:わ、技ないですよ?
U:あーボトムに偏ったか。でも想定内です。今引いたこの体カード、何度も同じ種類使ったからマスター状態になってるでしょ? マスター状態のカード3枚を使うと新しいカードにチェンジできるんですよ。同じ色にチェンジすると1枚の上位ランク、違う色なら2枚の同ランクのカードになるので、これで技を補充してコンボを繋げてと。前回と今回の行動数少なくてスタミナも回復できたんで、次のターンでボトムに残った技5枚を引いてこれで8コンボ。次のターンは山札なくなったんでデッキシャッフル。試練のラストターンでもある次のターンで2枚が技か、3枚がマスターの体が出れば……。
(表示される手札。心のカード2枚 技のカード1枚 体のカード2枚)
ス:………。
U:………。
(後略)
◇ ◇ ◇
【ユーザー殺到でログイン障害の発生したダイリーグ。第二回となるオープンβはどうなる? 社長に聞いてみた】 /ゲーム系ニュースサイト 2018/8/10投稿
9月から正式サービス開始を予定している『育成野球ダイリーグ』(以下ダイリーグ)。そのオープンβテストの第一回が、8/4(土)と8/5(日)の夜に行われた。しかし、初報からグラフィックとゲーム性のどちらも改良してきた本作に期待していたユーザーが殺到したためか、ログインサーバーで障害が発生。結果、プレイできないユーザーが続出するという問題となった。
そこで本稿では今週末に控える第二回のオープンβについてどのような対策を行うか、ダイリーグ運営元の株式会社カリストの現役高校生社長、高梨狩主氏(以下高梨氏)に伺った話を掲載する。が、その前にいったい改良されたダイリーグとはどんなものだったのか、運よくログインできた筆者のプレイレポートを先にお届けしよう。
(画像:ダイリーグプレイ画面)
・ギミックの詰まったデッキ構築型カードゲーム
ダイリーグの第一パートは野球選手を育成するゲームだ。育成シミュレーションパートと言ってもいいだろう。そもそも育成シミュレーションとは、そのキャラクターが取る行為を簡略化して選択し、その結果能力が成長するものだ。その手法は様々あるが、ダイリーグはここにデッキ構築型カードゲームという流行を持ち込んだ形になる。
正直に言ってしまえば、初報のダイリーグは育成シミュレーションパートにおいて新規性はほとんどなかった。練習内容を選択し、たまに発生するイベントで選択をし、能力を上げていくという既存のゲームとほぼ同じ内容だった。デッキ構築型にしたところで、実のところ本質は変わっていない。しかし、その選択を面白くする仕掛けとして、デッキ構築はとてもマッチしていると筆者は感じた。
またデッキ構築型としてもプレイヤー側のコントロールできる部分を増やしているのが、カードの交換で……――
(中略)
・第二回のオープンβはどうなる? 現役高校生社長、ミニインタビュー
――オープンβの開催、まずはお疲れ様でした。
高梨氏:ありがとうございます。ようやくここまできました。支援してくださったみなさんにその成果の一端を見せることができて、とてもうれしいです。
――社長と高校生の二重生活は大変だったんじゃないですか?
高梨氏:初めてのことだらけで、予想以上に大変でした。でも叔父やスタッフの皆さんに助けていただきましたので、大変だったけど辛かったということはないですね。楽しく仕事しています。
(画像:事務所の画像)
/*株式会社カリストの事務所。高梨氏の学校からも徒歩圏内。「部活感覚で毎日通ってます(笑)」(高梨氏)
――オープンβですが、プレイしたユーザーからは高い評価を得ていると感じました。
高梨氏:ありがとうございます。すべてスタッフさんたちのがんばりのおかげです。
――しかし一方で、ログインで障害が起きてしまったのは事実です。こちらはどうして発生してしまったのでしょう。そして、第二回ではどうなるのでしょうか?
高梨氏:まずは前回のオープンβに参加を考えていてくださった皆様にお礼と、参加することができなかった皆様にお詫びを申し上げます。端的に原因をあげるとすれば、予想以上のユーザーが参加してくれたからです。事前登録などから十分な予想を立てて準備したつもりだったのですが……。
――間に合わなかったと。つまり事前登録せず、直前に参加を決めた人たちが多かった。
高梨氏:いやもう、ただただ僕たちの見通しが甘かっただけです。開発資金も限られていますので、お試しプレイはこれぐらいの規模でいいだろう、なんて調子で決めてしまって。似たような先行事例はいくらでもあるのに、それが生かせない結果となってしまいました。
――まあユーザー数は読みにくいですし、設備を過剰にすれば赤字になりますからね。
高梨氏:第二回については、ログインサーバーの規模を前回の二倍にして準備しています。
――いきなり二倍ですか。
高梨氏:ログを見たところ待機していたのはそれぐらいの数だろうということでしたので。
――それなら前回遊べなかったユーザーも遊べそうですね。本日はありがとうございました。
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