迫る正式サービス

「ただいま」

「あ、おかえり」


 コンビニでのバイトを終え、近所のスーパーで値引き品を探して帰ってくると、夜はすっかり更けている。迎えてくれた従姉の腹から、催促の音がした。


「あっ、あぅ、その、これは」

「すまない、遅くなったな。すぐに用意しよう」


 従姉と同居するようになってから半年以上過ぎただろうか。料理の手際もだいぶよくなってきたと自賛している。


「できたぞ。かぼちゃの肉巻きというのを作ってみた」

「うわぁ、おいしそう……いただきます」


 ニシンから譲り受けたコタツ机を挟んで座り、箸を進める。我ながらうまい。


「おいしいおいしい」


 体の大きい従姉はよく食べる。大皿料理はいつも静かな戦争だ。

 ――が、今日は戦争に集中するよりも、やらなければならないことがある。


「ツグ姉よ」

「もぐ?」


 口いっぱいに頬張った従姉が、きょとん、とこちらを見て止まる。いや、食べてていいんだぞ。止まるならもらうが、かぼちゃ。


 とにかく。ずーみーとの一件で気づかされたのだ。

 ミタカやニャニアンは直接俺に文句を言ってくるし、ライムは発信源の塊だ。だから、何か抱えていることはすぐに分かる。問題は何も言ってこない人が何かを抱えていた時の事だ。気づかなければ対処が遅れてしまう。

 そして、従姉だ。一緒に住んでいるというのに、実は第三者を交えない会話はほとんどしていないことに気づいた。誰かの相談に一緒になって対処するだけで、従姉からの相談というのを、ここしばらく受けたことがない。


 となると――抱えているのではないだろうか。

 何か。俺が知らない間に。


「その……順調か?」

「ん? うん」

「何か困ってることはあるか?」

「特にないかな……」


 そうか、それならよかった。と安心するのは早すぎる。

 ずーみーのように、何か言い出しづらいことかもしれないからだ。

 ……とはいえ、「いやそんなことはないだろう、何かないか?」としつこく訊くのもいかがなものだろうか。コミュ障ゆえどうしたらいいのかわからない。


「……そう言えば、家にいる間ツグ姉が作業しているところを見たことがないが」

「あ、うん……同志が出かけてる間とか、寝てる間に済ませてるから」

「そうか」


 言われてみれば、アパートにはあまり長居していない。家事をして寝るぐらいだ。従姉が一人になる時間はたっぷりあるし、その方が作業もはかどるのだろう。

 ……待てよ。ということは俺はむしろ邪魔なのではないだろうか?


「もっと外出していたほうがいいか? それとも、俺は引っ越すか」

「え、ええ!? なっ、なんで!?」

「その方が作業の手を止めずに集中できるんじゃないかと思ったんだが」

「えぇ……」


 従姉は――箸を机に置くと、じっとそれを見つめて――しばらくしてようやく顔を上げて、上目遣いに訊いてきた。


「も……もっと作業ペース上げないと、駄目……? 何か追加仕様とか……?」


 どうしてそうなる。


「いや。ミタカからスケジュールは順調だと聞いているし、今のところ改造してほしいところはない」

「なっ、ならいいんじゃないかなぁ!?」


 従姉は身を乗り出して言う。


「作業時間は十分、ううん、ものすごく確保できてるよ。同志がご飯作ったり洗濯したり掃除したりしてくれるから、わたし……わたし……うわぁ……開発しかしてない……」


 ここに越して以来、家事全般はすべて俺が受け持っている。

 従姉の手が止まればゲーム作り全体の進行が止まるので当然のことだ。


「えっと……つまり、その、家事とか全然してないから、人生で一番、開発に時間が使えているんだよ。同志のおかげで……そう、同志のおかげで! 同志が家事とかしてくれるから!」

「そうか……」


 なるほど、俺がここから出て行くのはむしろマイナスだな。


「むっ、むしろ同志はどうなの?」

「俺か?」


 従姉は大きなメガネが吹き飛ばんばかりにうなずいた。


「そうだよ。家事をして学校に行ってバイトもして営業にも行って……帰ってきても家事をして寝るだけだし……自分の時間っていうか、いッ、息抜きみたいのは、その、できてるの?」


 自分の時間、息抜き――ふうむ。


「ずーみーにも忙しそうだと言われたし、実際自分でもスケジュールを見ると忙しそうだなとは思うが、負担に思ってはいないな。なんだかんだで、幼馴染の応援にも行けているし、プライベートの時間は作れている」


 時折、近くで試合があるとタイガのマネージャー、エーコからチケットが送られてくる。ほとんど行けないのだが、一ヶ月に一回ぐらいでは観戦できている。十分、遊んでいる方だろう。


 ……いや。


「――ひとつだけ、忙しくてできていないことがあるな」

「なっ、なに?」

「プニキだ」


 プニキ。最高に面白い野球ゲームと騙されて始めた、カジュアルの皮を被った鬼畜のゲーム。敵を最後のひとり残して、ずいぶんとプレイできていなかった。


「パソコンを触る時間がほとんどなくて、プレイできていない。スマホからでもできるんだが……操作性が悪くてな。結局、スマホだとケモプロの動画を見てしまう」

「プニキ……? ゲーム? 面白いの?」

「苦行だ」

「えぇ……」


 従姉が困惑した顔をするが、苦しいものは苦しい。相手が投げる魔球は変幻自在だし、それを八割の確率でホームランしないとクリアできないとか、泣けてくる。

 知らないなら、知らないほうが幸せだ。


「だがプニキがいなければ、ケモプロには辿りつかなかっただろう」


 選手をケモノにする。そのアイディアがなければ、今のようになっていたとは思えない。それほどずーみーの、ケモノの追い風は強かった。すでにイラスト投稿サイトでは、二次創作の投稿がかなりされているという。漫画が始まればもっと増えるだろう。


「だからこそ――完膚なきまでにロビカスを打ち倒してやらなければ」


 それでこそプニキへの恩返しになるだろう。


「倒す――そのうち」

「そのうち?」

「ああ、そのうち倒す」


 今はいい。


「今は勝負を預けておく。確かに、忙しい。だが嫌じゃないし、充実している。息抜きはまだ先でいい」


 決して、最近プレイしてないから勘が鈍っていそうだからとかではなく。


「うん、そうだね……充実してる!」


 従姉はフヒッ、と笑う。


「よかった、やっぱり、同志は同志だね」

「うん?」

「忙しいけど、楽しい――それが同じってことだよ」

「……そうだな」


 いつの間にか感じていた不安もすっかり消えてなくなった。気分が晴れた、とはこのことだろう。

 そして――大皿に山盛りにしたかぼちゃも消えていた。……いったいいつの間に食べたんだ?



 ◇ ◇ ◇



 十月も半ば頃。前回からやや間が開いてのオンライン報告会が開かれた。


『はいはーい! それじゃあ、らいむが主な出来事をまとめるね!』

『オマエが仕切んのかよ……』

『ええー、いいじゃん。広報は全体を把握してないとできない仕事だよ?』

『ほー、んじゃ全部分かってるってェんだな? プログラムも?』

『ムフ。大人気ないなあ。いいよう、それじゃまとめ役じゃなくて司会進行ね! ではでは、クラウドファンディングについて、主導していたアスカお姉さん、どーぞ』

『お、おう……』


 ミタカが咳払いして報告を始める。


『九月末を締め切りにしてたクラウドファンディングだが、ストレッチゴールを二つ達成して終了した。つーわけで、コレだけの金が入ってくる』


 チャットに書き込まれる金額に、重みを感じる。


『入金確認済みです。口座に間違いなく振り込まれています』

『秘書サマの言うとおりな。ちなみに、達成できたストレッチゴールは、二軍の試合放送と、獣子園の試合放送の二つだ。二リーグ十二球団になるまでの資金は得られなかった』


 十二球団になるには、一つ前のストレッチゴールのほぼ倍額の資金が必要だった。さらにその四倍で獣子園の予選試合を放送、となっていたのだが。


『マ――狙い通り、大成功ってトコだ。十二球団までイケるとは考えてなかったからな』

『えー、そうなの? 夢小さくない? らいむは不満だな~』

『十二球団になったら、オーナー契約やら広告契約やらの仕事も倍になンだが?』

『らいむは余裕だし』

『そうでしょうね、九条さんは』


 ライムから放り投げられる契約関係を一手に引き受けているシオミが、ネットの向こうで薄く笑う。実際、ライムがシオミにパスする際までの労力が一とすれば、シオミの仕事は三はある。


『分業、分業。適材適所。ムフフ』

『フフフ、そうですね』


 笑えてないぞ、シオミ。


『ところでらいむ、よくわかんないんだけど、なんで二軍と獣子園を放送するのにそんなにお金がかかるの?』

『選手のAI育成にコストがかかんだよ。身体能力、判断力、戦術感……練習もさせねェといけねェから、選手一人につき常時食われるリソースが決まってる。現行のスペックだと、サーバ1セットで40人ぐれェか。審判とかコーチとかもいるから、1セットで一軍ひとつ、ってコトになる』

『二軍を用意するだけで倍デス、倍。イヤァ……今月はサーバ構築ばっかりやってて辛いデスヨ』


 ゴールを達成して六球団になり、必要な機材もドンと増えた。俺も時間があるときはニャニアンの手伝いに行っているが、台数が増えてラック内の配線もよくわからんことになってきている。


『えー、それじゃ獣子園なんてやったらサーバ足りないんじゃないの? 参加校、すごいあるんでしょ? 本選でも50校ぐらい?』

『獣子園の選手は簡略版を使うし、ペナントがオフのときにやるしな。物理じゃなくてクラウドサーバも併用するし、そこはうまくやりくりする。セプ吉が』

『ハッハッハ――どこか無料枠でテストさせてくれないデスカネー……』

『ふーん。とにかく、サーバ台数は大丈夫なんだね?』

『エエ。マッ、そもそもラックの余裕がナイっていうか』


 ニャニアンが対応に出動できる都内のデータセンターにラックを借りているが、そもそも面積的にラックの総数が少なく、都内での追加は難しいという。


『イザとなりゃ、セプ吉に北海道に飛んでもらうか。あっちのラックは空いてるだろ』

『そこはリモートハンドを契約してくだサイヨ……』

『ムフ。らいむ、北海道のお土産楽しみだなー』

『自分はイクラがいいッスね』

『んじゃオレはウニな。カニも送ってくれ』

『通販してくだサイ』


 むらがる要求に、ニャニアンが子供に言い聞かせるように言う。


『で、アスカお姉さん、他には何かある?』

『クラウドファンディングは、正式サービス始まりゃ達成だからな――もう特にねェかな。ああ、ちと困ってるのは獣子園に登場する学校名か。投資額に応じて学校名を応募できるのがあっただろ?』


 応募にはそれなりの金額を設定していたが、意外と早くに全部の枠が埋まったやつだ。


『なになに? ヤバいのばっかり応募されてるとか!?』

『なんで嬉しそうなんだよ……イヤ、金額もそれなりだし、公序良俗に反するものとか、実在する団体名や他の著作に出てくる学校名はNGとか、きっちり説明したからそーゆーのでヤベェヤツはねェんだが……』

「逆に、ギリギリの線を攻めてくる学校名が多いんだ」


 例えばPR学園だとか。明青ならぬ明赤学園だとか。波和風呂高校だとか。


『当て字系じゃねェヤツは元ネタがわからんのもあってな……』

『いいじゃん、まるっきりそのままの学校名じゃないんでしょ? ならそのままつかおーよ』

『オマエな、そう簡単に言うが――』

『小さい、小さいよ、アスカお姉さん! そりゃセンスが絶望的にないのは願い下げだけどさ、お金ももらってるんだし、ちょっと微妙だからって却下するのは、器が小さい小さい!』


 ふんすふんす、とライムの鼻息が聞こえる。


『大筋はそのまま通すこと! うーん、そーだね、当て字と、現実の団体に喧嘩売ってるやつだけこっちの判断で微修正しよっか。あとでらいむにもリスト見せてよ』

「頼む」

『オイオイ』

「広報担当としてSNSでユーザーと一番接しているのはライムだ。ユーザーが怒ると分かってるから言っているんだろう? そのあたりのジャッジには適任だと思うし、別にライム一人に任せるわけじゃない」


 それに学校名を変えられたユーザーから真っ先に怒りの矛先を向けられるのも、ライムだろうしな。怒られる基準は、自分で納得したいだろう。


『チッ。……まァ、手伝わせるぐれェはな』

『ムフ。任しといてよ。これでクラウドファンディング関係は終わり?』

『あァ、そーだな』

『んー。じゃあさ、らいむから質問なんだけど。月末までのベータテストって、もう投資できないからキーもらえないよね?』


 十月末まではベータテスト。十一月からが正式サービスで、誰でも無料で見ることができるようになるが、それまでは『キー』がなければ見ることができない。その『キー』を貰う手段はこれまで、クラウドファンディングへの投資しかなかったわけだが、もうそれは受付期間が終わってしまった。


「そうなるな」


 するとライムは、ネットの向こう側で首をかしげて言うのだった。 


『新しいお客さんはどうするの?』


 ◇ ◇ ◇


 ライムの言葉に、ハッと気づかされる。


 投資の受付期間が終わった以上、『新しいお客さん』――つまりケモプロを観戦するユーザーは約二週間、ひとりも増えないことになるのだ。


『だよね? もったいないよね? だからさ、やっぱりもう無料公開しようよ! ご好評につき、って! その方がみんな喜ぶよ?』

『そッスねー、けっこう周りから、早く見たいって言われるッス』

『――でもよ、その早く見たいつってるヤツらは、投資はしてないわけだ』


 ミタカは冷たく釘を刺す。


『投資する期間はあったのにな。ベータテストが見れるのは、投資者の権利だ。その権利を二週間とは言え取り上げるのは、どーなんだよ?』

『ええー、みんな平等でいいじゃん。んもう、しょうがないなあ。それじゃあ、限定サービスでどう?』

「限定……?」

『ケモプロを扱ってくれてるネットメディアに、キーを配るんだよ。読者に先着で配るのもよし、抽選するのもよし、って。うちはお客さんが増えてハッピーだし、メディアはアクセス数が増えてハッピー、さらにアンケートの回答で応募完了~とかすれば読者層の情報も得られてハッピーだよ』

『まァ……そういうんならよ』

『いいよね? うんうん、よかったぁ』


 ムフ、とライムは雲のように笑う。


『たぶん日付変わる前には記事が掲載されると思うから、ダメって言われたら困っちゃったな』

『テメッ、事後承諾かよ!?』

『だって間に合わないし。スピード勝負だよ、こういうのって。クラウドファンディング成功! って大ニュースに乗せていかないとね!』

「なるほど、確かに」

『オマエなぁ……もう少しコイツの無茶に怒れよ……』

「ご、ごめんね、アスカちゃん。ライムちゃんにキーちょうだい、って言われたときに確認したらよかったね……」

『あァ……わかった、わかった、もういい。次、次にいこーぜ』


 ミタカが半ば諦めて続きを促す。


『はいはーい。クラウドファンディングが成功して、六球団になるってことは、2チーム増えたんだよね。そのあたり、どうなの?』

『追加の選手については問題ないッス。モデルの調整は終わってるッスよ』

「いろいろあったが、オーナー契約についても順調だ」

『いろいろ? 何デス?』

「これまでの4チームと違って、向こうから大量に申し込みがあったから、こちらは選ぶ側なんだが――一番大変だったのは、デイトレーダーの件だな」


 クラウドファンディングの一番大きな投資枠は、チームのオーナーになることだった。以前外国から申し込みがあったため、日本の法人に限ると条件を更新した後に申し込んできたのは――株取引で生計を立てている個人のデイトレーダーだった。


「その界隈では上位のほうらしくてな。オーナーになりたくてわざわざ自分を法人化してから申し込んできた」


 将来性を感じる、と強く訴えてきた人だった。ケモプロは絶対に伸びる、今すぐ株を買いたい、と熱く言われた。合同会社だから株式はないので、それならオーナーになるのが一番の投資だからそうしたのだとも。


「正直なところ、今までのどの団体よりも資金力があったので、そういう人がいてもいいかと思って契約を進めていたんだが――消えた」

『は?』

「蒸発してしまった」


 株取引は恐ろしい。ブログもなにもかも、一日で消えてなくなり、連絡が取れなくなっていた。クラウドファンディングに支払ってもらった分は返金処理をしたのだが、届いたかどうか……。


『私はあれでよかったと思いますよ。地域振興という目的にも沿いませんでしたし……何より、投資の方針が冷や冷やする方でしたからね』

「あとは……断るのが大変だ。もう枠はないと言っても、なんとか球団を増やせないか、と食い下がられる」


 野球に対する熱量というのは馬鹿にできないものだと実感した。


『そういう方々に限って、お金は出し渋りましたがね』

「懐事情はまた別だろう。……とにかく、他の球団のオーナーからの了解も取ったし、追加二球団の契約は問題なく間に合うはずだ」

『広告枠の方はどーなんだ?』

『もっちろん、そっちも順調だよ! 空気読まない申し込みも増えてるけど』


 ライムはネットの向こうで、雲のようにぷくりとむくれる。


『ネットワーク広告とかやるわけないじゃんって。野球場の広告はそれ自体がコンテンツなんだから、みんなが同じもの見なきゃ。あとはえっちぃのもダメって言ってるのにさー。まったく広報屋さんに良心というものはないんだね』

『オマエが言うな』

『だって、ないもんね』

『オイ』

『はいはーい! それより楽しいこと聞いて! ずーみーちゃんの漫画が大変好評だよ!』


 つい先日第二話が公開された『獣野球伝 ダイトラ』は、その公開ページだけアクセス数が恐ろしく伸びていた。


『もう大人気漫画って言っても間違いじゃないよ!』

『いやぁ……照れるッス。自分の絵の二次創作がたくさん出てくるとか、何か実感わかないッスね』


 45歳にして肉屋から野球選手になったダイトラ。その謎めいた背景を、ラビ太を中心にしたチームメイトと共に描いていく漫画は、なかなか好評だった。

 漫画は好評だが、ダイトラの所属チーム、肉食ウォリアーズは四チーム中のぶっちぎりで最下位だ。しかしながら漫画のおかげもあってか、応援チームとして選ぶユーザーが多い。


『これなら単行本も大ヒット間違いなしだよ! 十話? 十話で出しちゃう!?』

『ケド、週刊ペースで大丈夫なんデスカ? アシいないデスヨネ?』

『ツグ先輩が作ってくれたツールで、3Dモデルを一発で配置して線画に変換できるから、モブとか背景は楽ッスね。毎週試合して話が進んでるんで、週刊でやらないと追いつかなくなると思うし、がんばるッス』

『Web漫画はペースが命、だからね! でもずーみーちゃんなら大丈夫だよ!』


 しばらくライムが漫画の感想を述べまくり、進行が止まる。


『で、やっぱりそこでツツネさんだよね。あのときの諭し方が色っぽくて~』

『だーっ! 話がすすまねェだろが小学生!』

『ぶー、らいむは14歳だってば』

『あァそうだったな、ガキっぽいから忘れてた――ん? つーかさ、オマエ……あれ?』


 なんだなんだ?


『オマエ……この間もツグん家で会ったけどよ。アメリカ在住でこっちにはバカンスで来てるんじゃなかったっけ? もう十月なんだが?』

『ムフ。なんだそんなこと? 日本に引っ越したに決まってるじゃん』

『聞いてねェ……』

『ま、親は帰ったけどね。だからオートロックのマンションで一人暮らしだよ!』

『聞きたくねェな、なんだその格差は。つか、いいのか一人暮らし』

『未成年だけで契約できるわけないじゃん。つまり、いいってことだよ。快適だよぉ? ずーみーちゃんも、高校卒業したらおいでよ! 一緒に住も!』

『おぉ……お高いマンション。あこがれるッス』


 だが服はセクはらだ。激安の。


『さてと、あとは何かある? お姉さんたち』

『もーここまで来たら、あとは大きなイベントはサービスインだけだな』

「サービスインか……」


 正式サービスが始まる。ようやくケモプロは『商品』になるのだ。


「各オーナーの都合はどうだ?」

『四球団それぞれ了承いただいております。現在交渉中の二球団も問題ないかと。会場も貸し出していただけますし、よい契約が結べそうです』

『らいむも、メディアにお知らせしておいたよ! 取材依頼もバンバンきてるし、成功間違いなし!』


 シオミとライムが太鼓判を押す。


『楽しみだね! ドラフト会議!』

「ああ」


 ドラフト会議。

 選手を指名して、交渉権を得る、公平性のための会議。


 今年の二つ。いや。三つのドラフトがもたらす騒動を、俺はまだ何も知らずにいたのだった。

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