にらめっこ
東東
第1話
私はこの草原のこの場所にいつも立っている。何をするでもなく、ただ一点を見つめている。それがハシビロコウとしての私の本能。
退屈ではない。そうげんちほーを渡る風や、刻々と変わっていく雲の形や空の色、サンドスターの煌めき。それは一枚の絵画のように美しい風景で、私を飽きさせない。
フレンズたちの中には私に気付いて訝しがるフレンズもいた、怖がるフレンズもいた。興味を持って話しかけてくれるフレンズもいた。
でも、なんて答えようか考えているうちに、怖がられたらどうしようなどと考えて、そんなことを考えてるうちにタイミングを逃してしまう。
タイミングを逃してしまうとその後の一言は余計に難しくなる。そうこうしてるうちに話しかけてきたフレンズはみんな飽きてどこかへ行ってしまった。
でも、このフレンズさんは違う。
なんだろう。今朝からずっと目の前に仁王立ちしている。
腕組みをして、足をしっかりと開き、どこか満足そうな顔でジッとこちらを見ている。
そして距離がとても近い。鼻息が私の髪を撫でている。途中雨が降ったり風が吹いたりしたけど、この子はずっとこのままだ。
もしかして、怒ってるのかな。身に覚えはない。
うぅ。なにしてるのと聴きたい。でも、その勇気がない。
ハシビロコウは動かない鳥と言われているけど、実際はそこそこ動く。
そりゃ、ジッとしてる時間の方が長いけど、時々羽を伸ばさないと身体がおかしくなってしまう。さすがにこれ以上は私も辛い。
そう思ったら急に肩甲骨をはがしたくなったので、両肩を交互に持ち上げグネグネと動かす。
「……ブッ!」
すると目の前のフレンズが噴き出した。私はそれを見ながら心ゆくまでグネグネしたり羽を広げてから、またいつもの姿勢になった。
「フハハハハ! ズルいぞ! 急にそんな面白い動きをするなんて!」
え、ど、どうしよう。急に話しかけてきた。
「どうやら私の負けのようだな。明日また勝負しよう!」
「???」
意味がわからなかったが、そのフレンズさんはなぜか満足そうにのしのしと帰って行った。
翌日、そのフレンズさんは予告通りやってきた。
「また『笑ったら負け勝負』しにきたぞ〜今日こそ負けないからな!」
「ま、待って!」
笑ったら負け勝負? そんな勝負が始まっていたのか。でも始めた覚えがないし、そんな遊び知らない。
でもきっと彼女は自分が勝つまで止めない。なぜかわからないけど、そんな気がする。上手くかわさなくては。
「き、昨日のことなら、私勝ってないと思う。『動いたら負け勝負』では負けてるから。引き分け」
「む。……それもそうか!」
彼女は少し考えるとポンと手を打って納得したようだ。
「私はヘラジカ。いい目つきだな〜と思って見ていたら、いつの間にか勝負になっていてな」
「私は勝負を始めた覚えはないけど」
「ともかくいい勝負ができて嬉しい。おっ、あそこを歩いてる強そうなのは誰だ?」
「あぁ、あれはライオンさん。とっても強い……ってどこへ!?」
「やぁやぁ我こそはヘラジカ! いざ尋常に……」
ヘラジカはなにやら名乗りを上げながら一目散にライオンの方へと駆けて行った。
「わっ! なんだなんだぁ!?」
ライオンは凄い勢いで逃げて行く。ヘラジカはそれを追いかけて行ってしまった。
「すごい子だったなぁ……でも、あの勢いに乗せられて、私、初めてちゃんと普通にお話できた」
私は歯をカタカタと鳴らしながら、ヘラジカの去った方向へと何度もお辞儀をした。これはハシビロコウの親愛の証だ。
私がヘラジカ軍団の一員となるのはこの少し後だった。
にらめっこ 東東 @higashi-azuma
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