アライさんの帽子
鳥人間
かばんさんの帽子
「アライさーん!」
むむ、アライさんを呼ぶ声が聞こえるのだ! この声は……。
「かばんさん! アライさんに何か用事があるのか?」
「はい、アライさんに渡したいものがありまして」
渡したいもの? うーん、アライさんはかばんさんに何か貰うようなことしたのか? 昨夜の巨大セルリアン騒動はみんなで解決したことなのだ。
アライさんも、えむ、ぶい、ぴい? な活躍をしたけれども、それはみんな同じなのだ。だから、アライさんだけ記念品を貰えるようなことは無いはずなのだ。
「あの、アライさん……?」
「かばんさん、その記念品はフェネックの分もあるのか?」
「えっ? き、記念品ですか?」
「えっ?」
かばんさんが明らかに困惑しているのだ。これはどういうことなのだ!
「アラーイさーん、またやってしまっているんじゃないかなー」
「ええっ!? い、いったいどういうことなのだ!」
「まあまあ、いろいろ考えるのは置いておいて、かばんさんが渡したいものを確認しようよー」
確かにフェネックの言う通りなのだ! 確認したら、真相がわかるに違いないのだ!
「というわけでー、かばんさんがアライさんに渡そうとしたものってなにかなー?」
「はい、この帽子を渡しに来ました。返しにきたって言う方が正しいかな?」
「ということみたいだけど、どうなのさーアライさん?」
ますます真相がわからなくなってしまったのだ。
「あ、ありがとうなのだ。でもどうして、アライさんに帽子をくれるのだ?」
「だって、それはアライさんが最初に見つけたもので、とても大切なものですよね?」
そうだ、思い出したのだ! これはアライさんが最初に見つけたのだ! ……でも、でも、なんだか釈然としないのだ。
「一旦返してもらいましたが、きっと今回の一件で役割は終えたはずですから。アライさんにお返ししておこうかと」
かばんさんはすごく優しいのだ。
アライさんはわかっているのだ。この帽子はかばんさんにとっても、とても大切なものに違いないのだ。
それを手放すというのはとても辛いことなのだ。でも、かばんさんは躊躇いもなく、こうして渡してこようとしたのだ。
「……う、受け取れないのだ!」
「ええっ? どうしてですか?」
「それは……だって、その帽子はかばんさんが持っていてこそのものなのだ。だから受け取れないのだ」
「そう言われると否定できないところではありますけど、でもぉ……」
「…………」
「…………」
き、気まずいのだ! 素直に受け取るべきだったのか? でも受け取るのも気まずいのだ! どっちに転んでもばつが悪いのだ!
「アライさーん、まずは返してもらおうよー」
「フェネック!?」
フェネックは何を言っているのだ!? と思ったけれども、フェネックは賢いのだ! きっと、考えがあってのことに違いないのだ!
「それじゃあ、貰っておくのだ」
「は、はい。返しておきますね」
「……ありがとうなのだ」
改めて、帽子がアライさんの手元に帰ってきたのだ。でも、やっぱり釈然としない気持ちになってしまうのだ。
「アライさんとフェネックさんともたくさんお話したいことはありますが、まだやることがいっぱいあるので、別の機会によろしくお願いしますね」
ああ、かばんさんが行ってしまうのだ。本当に受け取ってしまって良かったのか。このままじゃ、心にしこりが残ってしまうのだ。
「かばんさーん、ちょっと待ってもらっていいかな?」
「はい?」
「少しだけアライさんとお話をするから、ほんのちょっとだけ待ってほしいんだー」
「ええ、大丈夫ですよ。それじゃあちょっとだけ待ちますね」
このタイミングで突然フェネックは何を言っているのだ! フェネックの考えていることは、アライさんの考えをはるかに超越していくのだ!
「そこがフェネックの良いところなのだ!」
「突然褒められてもなにも出ないよー」
「ところでフェネック、アライさんにお話ってなんなのだ?」
「アラーイさーん、とても簡単なお話だよー。その帽子の経緯についてだけどもー」
帽子の経緯? そうだ、かばんさんはこの帽子に付いていた毛から産まれたフレンズなのだ! かばんさんはそのことを知らないのかもしれないのだ!
それを話せば、かばんさんもわかってくれるってことか!
「その帽子は、アライさんが最初に見つけてアライさんのものだったんだよねー」
「えっ。そ、そうなのだ! それがどうしたのだ?」
予想していたのと違う話が始まったのだ。どういうことなのだ!?
「それをー、かばんさんがかぶっていっちゃって、一度取り返して、また貸した。だよね?」
「その通りなのだ」
「アライさん、借りたものはどうしなきゃいけないかなー」
「当然返さないといけないのだ! ……あっ!」
「そういうことだよー。かばんさんは、借りていたから返してくれたのさー」
「なんだ、そんな簡単なことだったのか! アライさん、一人で混乱していたのだ!」
借りたものは返さなきゃいけない。当たり前のことなのだ! かばんさんはアライさんに借りていたから返してくれた。
だから、あとはやることは簡単なのだ!
「かばんさん!」
「はい!? な、なんでしょうか?」
「はい、これをあげるのだ!」
「えっ!? で、でも帽子はアライさんのもので……」
「そうなのだ! 今はアライさんのものだから、アライさんがどうしようと勝手なのだ。だから、今度は貸すのではなくてあげるのだ! これで返す必要は無くなったのだ!」
「アライさん……ありがとうございます。それじゃあ、受け取りますね」
やったのだ! 完璧なのだ! これで後腐れなくなったというわけなのだ!
ここまで考えていたフェネックは、やっぱりすごいのだ!
「それじゃあ、ぼくはもう行きますね。本当にありがとうございました!」
「ふははははー、アライさんのあげた帽子を大切にするといいのだ!」
「はい!」
かばんさんが行ってしまったのだ。帽子をかぶっている姿、すごく似合っているのだ。アライさんの思った通り、あの帽子はかばんさんが持っていてこそのものなのだ!
「フェネック、ありがとうなのだ」
「んー? なんのことかなー?」
「フェネックが助け舟を出してくれたから、最高の答えを出せたのだ」
「私は貸し借りの話をしただけだよー」
「どっちでもいいのだ! アライさんはフェネックにとても感謝しているのだ!」
「……いやー、そういうところ、ほんとにアライさんには敵わないなー」
「ん? なにか言ったのだ?」
「なんでもないよー」
おわり
アライさんの帽子 鳥人間 @birdman-x
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