竜記伝~その竜たちは晦夜(かいや)に吼えて~

Win-CL

黒の竜と月の蜜

 この世界ではその昔、空に“月”という星が浮かんでいたらしい。


 その月は、太陽ほどではないものの――

 世界を照らす役割を担っており、人々の暮らしを見守っていたそうだ。


 しかし、この世界は様々な脅威に晒されていた。


 その代表的なものの一つが――

 世界中の荒野から荒野へと飛び回っているという、“黒の竜”である。


 腹を空かせた黒の竜によって、人々は次から次へと食べられ。

 このままでは、数年で絶滅してしまうという所まで追い込まれていた。


 そこで月は、このままではいけないと――

 黒の竜に契約を持ちかけたのだ。


「私に満たされた蜜であなたの空腹を癒しましょう。

 その代わり、地上の生き物を襲うことを止めなさい」


 この世界で、それ以上に美味なものは存在しないという“月の蜜”。


 黒の竜はその契約を迷わず呑んだ。


 それからは、黒の竜は人や動物を襲わず――

 ただ月から零れ落ちる蜜だけを食べるようになる。


 満ち満ちた月から、一ヶ月使ってゆっくりと蜜を吸い上げ。

 そうやって空になった月は、また一ヶ月かけて蜜を満たす。


 空に浮かんでいる月は、こうして満ち欠けを繰り返すようになった。


                         ~『黒の竜と月の蜜』~

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