恋人

柚月伶菜

第1話

「ほら、ソフトクリームついてるよ」


満開の桜を見ながら、ベンチでソフトクリームを食べていた。

ここは、この公園の中で、ひとつしかない桜の木の下。


優しい風がふんわりと桜の花びらを運んできた。

私の右側で、彼がその花びらを掌にのせた。


「なんか、いいことありそう」


彼の微笑みはすぐ私に向けられ、手に取った花びらを頭にのせた。


「ほら、ソフトクリームついてるよ」


また彼は笑った。

急に顔が温かくなったかと思うと、彼は私にチュッとキスをした。


そして、私は笑った。

彼の頬に、私が持っていたソフトクリームがついたからだ。


「ここに、チュッってして」

頬を指さしながら彼がそう言うのを、首を振って断った。

「なあんだ」


コーンを持つ手に、ソフトクリームが垂れてきた。

「溶けちゃうよ。早く食べな」


私の顔をじろじろ眺めてくる彼の視線を感じる。

「おいしい?」

私は頷いた。


彼は、私に寄ってきて、身体をくっつけ、左手を私の肩にまわした。


ドキドキする。

顔が近いし、唇が近いし、あったかいんだもん。


ドキドキする。

ソフトクリーム食べてるのを、見てるんだもん。


ドキドキする。

さっきチュッってするから、またされるんじゃないかって思うんだもん。


「恥ずかしいの?」


私の頬が赤くなっているのは、自分でもよくわかっている。

それに、こんな人前で抱きしめられて、恥ずかしいの、当たり前だもん。


どうしよう。

胸のドキドキがとまらない。


私は、ソフトクリームを彼の口元に近づけた。

彼は、ペロッと舌を出した。

「うーん、おいしい。全部食べちゃうよー」








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