第6話 優しい悪魔様
「……おい!」
どこからか、声が聞こえる。
「おい! いい加減に……きろ!」
パチン、パチンッと、断続的に脳裏に響く甲高い音。
……頬を叩かれている。
けっこう強い力で叩かれているのか、ジーンとした鈍い痛み。
ゆっくりと、意識が浮上を始める。
そして――。
「起きろ!」
止めのように耳元で囁かれた、ベルベットのような清涼な声。背筋の蕩けそうな、その声色に、私の背筋はゾクリと震え、一気に意識が覚醒した。
「はっ! ……え……ぇ?」
ポケーと、私は瞼を瞬かせる。靄のかかっていた視界が、徐々にクリアになっていく。
何も分からぬまま、とにかく状況を探るべく上半身を起こすと、目の前十センチの辺りに、灰色のフードが迫っていた!
「ひゃう……んんっ!!」
悲鳴を上げかけて、口元を抑えられる。
その行為に、薄呆けていた記憶が一気に脳裏を駆け巡った。
誰!? この人、誰なの!?
一度意識を失う間際にも、同じように私は口元を抑えられた。というか、そのせいで、私は酸欠になってしまったのだ。
怯える私の口を未だ抑えながら、謎の男は、フードの下からチラリと覗く美しい碧の瞳で私を見据える。
「静かにしろ。お前を追ってきていた人間が、まだすぐ傍にいる可能性が高い。分かったか? 分かったなら手を離す。イエスなら首を縦に振れ」
「んんーっ」
私は直ぐさま、首を縦に振った。
すると、フードの男は言葉通り、私の口を開放してくれる。
「ふぅー」
私は、大きく息を吐き出す。
同時に、少しだけ頭がすっきりとし、冷静さを僅かに取り戻すことができた。
「あ、貴方は……一体?」
冷静さを取り戻した後、一番最初に気になったのは、そこだ。フードの男性の正体。私の記憶が確かなら、鞄を盗んだ犯人。だけど、同時に私の窮地を助けてくれた人……でもあるのかもしれない。真偽の程は、まだ分からないけれど……。
「人に名を尋ねる前に、自分から名乗ったらどうだ?」
傲岸に、男は言ってのけた。
一瞬ムッとするものの、
「……シ、シアンと申します……」
この状況で、敢然と意見できる程の度胸は私にはなかった。それでも、極力怯えを悟られないように、平坦な声色を意識して告げる。
「シアン……ね」
意味ありげな抑揚の付け方。疑問を感じて私が顔を上げると、男の口元だけが見える。その口角は、イヤラシげに釣り上がっていた。
「………そ、それが……どうしたんですか……?」
沸き上がる意味不明な不安感からか、黙っていられない。嫌な予感がするのだ。このまま場を進めてはいけない。そんな気がした。
「どうもなにも……な。まぁ、見ればすぐに分かるさ」
「え?」
言うが早いか、男がフードに手をかけた。それを、ゆっくりと捲り上げていく。露わになるその相貌。碧の瞳に、金髪。童話の中に登場する、王子様のような完璧な容姿。
私は……その顔に心当たりがあった。
「……え? ……えぇ? ……憲兵さん……?」
見間違いようがない。それほどに彼の容姿は際立っているし、何よりも、私が一年ぶりに触れ合った、初めての人だ。
「二度目ましてお嬢さん。俺の名はライナー。しがないただの憲兵さ」
彼は、初対面の時からは想像も付かないような、邪悪な笑みを浮かべて見せたのだった。
私は……馬鹿だ。
今日この日ほど、自分の馬鹿さに絶望したことはない。世界で一番の愚か者。馬鹿の中の馬鹿。キング・オブ・馬鹿だわ!
「お前は自分自身の事を馬鹿だと自覚していないみたいだが、はっきり言う。お前は馬鹿だ」
重々自覚しました。二度と忘れられないくらいにね!
だけど、自分でそう思うのはともかくとして、人に馬鹿と言われると、少しだけ腹が立った。人間の性質というものは、本当に面倒にできている。
「シアンを一目見た瞬間に、ピンときたよ! あっ、鴨が来たっ! ってな」
「……鴨、ですか?」
「そう鴨。お金の匂いがしたんだ」
「…………」
ライナーは、今日ここに至るまでの経緯を自慢げに、胸を張って語っていた。その語り口は悪者そのもので、頭が痛くなってくる。爽やかさはすべて演技。彼の事を何も知らないくせに、私は彼とほんの数語言葉を交わしただけで『いい人』『朗らかな人』だと信じて疑わなかった。
私は、なんてチョロイ女なのだろう。
自分の見る目のなさに、頭を抱えたくなる。
「そしたら、案の定、シアンの持っている金貨には、ある特徴があった」
「特徴……ですか?」
何のことか分からず、私はポカンとした。すると、そんな私に呆れ返るに彼――ライナーさんは大仰に肩をすくめ、首を振る。
「盗んだお金の出自くらい確かめないと。最低限のリスク管理と、いざという時の保険は必須だ。……お前が俺に渡した金貨には、一部焦げ痕がついていたんだよ」
「焦げ痕……」
「そう。一年ほど前、貴族の家が全焼し、家人すべてが焼死するという悲惨な事件があった。富豪だったはずの彼ら……彼女の家には、蓄えていたはずの資産がほとんど残されていなかった。……これがどういう事だか、分かるか?」
「……火事場泥棒にあった……という事ですか?」
いや、それだけではない。ライナーさんは事故ではなく、事件と言った。ならば、火事そのものが仕組まれた出来事だった可能性すらある。
「まぁ、だいたいそういう事だな。その事に気付いた俺は、世のため人のため、可愛い泥棒さんから金貨を回収させてもらったのさ」
言いながら、ライナーさんは黒塗りの鞄を持ち上げて見せた。
「ああっ!」
それ! 私の!
「そんな目で見てもだめだぞ? これはもう、俺のだから」
「そんなっ! 横暴です!」
あのお金の出自には、とても怪しい疑惑があるというのは、よく分かった。だけど、だからといって、それがライナーさんの物になるなんて絶対に納得がいかない!
「ライナーさんだって泥棒じゃないですか!?」
私の指摘に、ライナーさんはチッチッチッと気障に舌を打ち鳴らしつつ、
「俺は泥棒じゃない。義賊だ!」
バンッ! と、胸を張ってそう言った。
「さっきも言ったように、俺は悪者からお金を回収して、世のため人のため、多くの人が幸せになるように使ってあげているんだよ」
「……世のため人のためって……具体的にはどんな事なんですか……?」
疑念に満ちた瞳をライナーさんに向ける。
「そうだな、たとえばー……孤児院に寄付したりとかかな」
「うっ」
しかし、その疑念は一瞬で打ち砕かれる。
確かに、ライナーさんの言葉が事実だとするならば、善い行いではある。少なくとも、すべてを独り占めしようと考えていた私よりは遙かに……。あくまで、ライナーさんの話を信じれば、だけれど!
「俺は子供が好きなんだ。子供は間違えることがあっても、人を陥れるような事はしないからな」
一瞬、ライナーさんの碧の瞳に、悲しみの色が映った気がした。しかし、それはすぐに別の感情に塗りつぶされる。他人を心底馬鹿にする邪気。とてもじゃないけど、子供好きには見えない。むしろ、人の不幸を喜ぶ悪魔のようにさえ見えた。
「ともかく、シアン……お前は運悪く俺の張っていた網に引っかかったという訳さ」
「っ……!」
ライナーさんから、私は顔を逸らす。
弁解の余地なく、私がやった行いは悪い事だ。犯罪、悪事、法の逸脱者。なんとでも呼べるが、とにかく、悪人。
こうして、他人に悪事を指摘されることで、事実がより浮き彫りになる。
だけど――。
「それでも……やっぱりライナーさんに言われたくありませんっ」
孤児院の事は不憫に思うけど、盗みを肯定するつもりもないけれど。やっぱりライナーさんだって、やっている事は同じだ。
「まっ、そうだろうな。俺だって自分が正義なんて言い張るつもりは毛頭ない。だけどな、裏の世界は弱肉強食だ。……シアン、すべてはお前の弱さが招いたことだ」
「っ!」
じっと、ライナーさんに鋭い視線で睨まれる。私は射竦められ、指一本動かせなくなる。
「上にいる連中が誰だか知ってるか?」
「……う、上……です……か?」
舌が上手く回らない。そのせいで、片言のようになってしまう。
「そう。ここはお前が隠れていた部屋の地下室だ。上では今もお前を追っていた連中が探し回ってるだろうさ」
「…………」
追われる恐怖。思い出すだけで、背中をじっとりとした汗が濡らす。あんな思いは、二度としたくない。
「あの連中はな……」
ライナーさんは鞄を見る。
それだけで、私の中で、何かの線が一本に繋がる。訳の分からない、不安、違和感の正体。嫌な予感の原因。
「この鞄を最初に盗み出した犯行グループ……と、俺が当たりを付けている奴らさ」
「…………ぇ?」
呆然とする。
だけど、理解できていない訳でもなかった。
「あいつらは、この街でも有名な不良グループさ。だけどな、小娘一人にぶつかられたからって、その後をいつまでも追い続けるほど暇じゃない。ましてや、家に押し入るような真似などしない。盗みを働いた他の街ならともかく、ここは奴らの根城のある街だ。この街には、ある程度の規模のある、俺たちのような衛兵も駐留している。目を付けられるような事はできる限り避けたいはずだ。……普通ならな」
ドクンと、心臓が大きく脈打った。
「だけど、今回は普通ではない事が起きた。それは、俺の持っていた鞄だ。奴らも驚いたはずだ。貴族の家から盗んで、騒ぎが収まるまで寝かせていたはずの金が目の前に現れたんだからな」
「……あー」
「そりゃ、追いかけてもくるわな?」
「…………で、ですね」
「実際、俺も逃げながら飛び上がりそうになったぞ。よりにもよって、ピンポイントで一番ぶつかってはならない相手にぶつかるんだからな。まったく……たいした強運をお持ちなことで」
「そ、そんな……私だって、別に相手を選んでぶつかった訳じゃないんですから……」
いつの間にか、圧力はなくなっていた。その代わりに、全身を脱力感が襲う。
だって、それって……不良グループのやっていたことってが、まるっきり私と同じ……なんて、思うだけで力が抜けてくるじゃない。
私という人間が、いろんな意味で、どんどんと堕ちていってくような錯覚。いや、それは錯覚ですらないのかもしれないが。
そして、ふと思う。
「……え? ちょっと待ってください……」
ライナーさんの話を仮にすべて信用するとして、私の立ち位置はどうなるのだろう。私は逃げるライナーさんを必死に追いかけていた。その最中で、不良グループにぶつかった。そして、不良グループを振り切って、ライナーさんと一緒に消えた。
それって……。
「私も……ライナーさんの味方みたいに思われてませんか?」
ライナーさんはポカンと目を見開いて、
「何を今更」
呆れ果てるのだった。
「……ライナーさん、酷いです……」
地下室。カビ臭く、コンクリートで固められただけの、冷たい一室の隅で、私はしゃがみ込みながら、ライナーさんに恨み言を呟いていた。
「人のせいにすんなよ。全部自分で撒いた種だろうが」
「それは、そうですけど……」
私に原因の一端があるのは、分かっている。だけど、不良グループに見つかって、追い回される運命になったのは、ほとんどライナーさんが原因だと思う。私は慎ましく、人間らしい生活が送れれば、それで良かったのに……。
「そもそも、なんでお前はこんな事をしたんだよ。家族はどうした? 家は?」
「…………」
もう、それらは私の手からこぼれ落ちてしまったものばかりだ。お金がなくなってしまえば、何一つとして、残るものはない。
「そんなもの……ないです。……なくなってしまいました……」
膝に顔を押しつける。瞳は乾いたままだった。家族を思って涙を浮かべる毎日を私は過ごしすぎた。涙は涸れ果て、悲しみすら色褪せている。
「死んだのか?」
「…………」
私は、無言で首を振る。
死に別れる。今になって思えば、それはなんて素敵な思い出だろうか。死者は何も語らない。不変だ。最高の思い出は、最高の思い出のままで一生をあり続ける。だが、生きている人間は、変わってしまう。生き続けている限り、変化は避けられない。環境、タイミング、人間関係……理由はいくらでも存在している。私はあまりにも唐突で、劇的な変化についていく事ができなかった。その果てに、自分自身すら見失い、変わり果てたのだ。
卑しい犯罪者へと……。
「……こんな事……するつもりじゃっ……なかったんですっ……っ」
嗚咽が漏れる。
情けなさに自己嫌悪を覚えつつ、余計に頬を流れる涙が止まらない。
「っぁっ……ぃ……でもっ……どうしようもなくてっ……それ以外にどうすればいいのかが……ぅぇっ……分からなくて」
言い訳だ。
いつも、私は言い訳ばかり。
森の中で、一生を過ごすべきだった。
人目に触れないように。最低限、誇りと尊厳を手放すべきではなかった。
……一人で、一生を過ごすべきだった……。
「誰かに……触れたかったんですっ……くっ……ぁぅっ……一人は嫌なんですっ……」
そうして、私は自分すらも欺く。
人間不信? 一人で生きる? 一生を? そんなの嫌っ!
だって、私には愛された記憶があるのだ。
偽りだったとしても、幸せで暖かい記憶が確かにあったのだ。
それを完全に捨て去ることなんて、土台無理な話。
過去に戻れないなら、せめて普通になりたかった。
でも『グリント』の名を失ったシアンに、世界は優しくはなかった。世間知らずの、庶民以下の小娘でしかなかった。
家を追い出され、放浪の果てにリザニウムを訪れた私は、そこで一つの選択を迫られた。衛兵の突きつけられた、一つの提案。
助けてくださいと泣きついた私に、彼は言ったのだ。
それは――自分の身体を売るという事。
その条件で、当時の憲兵は、私に入街の権利を与え、当面の生活の面倒を見るという条件を出してきた。
……正直に告白すると、悩んだよ。
だって、私には、他に何もなかったから。本当に何もなかった。
だけど、私は、それを最終的には断った。
だって、そうでしょう?
私は、条件を出してきた憲兵を愛していなかったんだもの。
断る理由なんて、それだけで十分だ。
でも、それから、私は誰にも助けを求めることができなくなってしまった。……特に男性に対しては。
「…………っ」
私は、私を見下ろすライナーさんを仰ぎ見た。
ライナーさんの感情は、彼の碧の瞳から読み取ることができない。ただ、弱虫でどこまでも愚かな私に、失望しているだろうことは想像に難くない。
こんな……私ですら好きになれない私を……誰が好いてくれるというのか。
勇気もない、度胸もない、覚悟もない。
スタンリー様がミーシャを選んだことも、必然のように思えた。
「しゃあねぇなぁ……」
ライナーさんが、溜息を吐きながら頭をかく。視線がこっちを向いたので、私は逃げるように俯いた。
「餓鬼だな……お前」
ライナーさんは、そう言いながら、私の隣に座った。その声色には、どことなく笑いが混じっていた。馬鹿にされていると感じた私は、反射的に口を動かす。
「お子様で……悪いですねっ……!」
開き直り。最悪だ。まさしく、ライナーさんの言う通り、子供の反応。口にしたその瞬間に後悔する。私の一番とも言える、悪い癖だ。
「……はっ」
案の定、ライナーさんは、私を鼻で笑った。
思い返せば、ライナーさんには嫌な所ばかり見られている気がする。初めて会った時も、ライナーさんに大笑いされてしまったっけ……。
「だけどさ……」
一拍の静寂。
「お前にどんな事情があって、盗みなんかするハメになったのは分からんが……お前はまだ餓鬼だ。つまり、いくらでもやり直せるってことだ」
「……追われてるのにどうやって……私にはどうしようもないですよ……」
お金を盗まれただけなら、再起の目はあった。だけど、人を殺したかもしれない相手に、私がどれだけの抵抗をできるだろう。
「あー……だから……さ」
ライナーさんは、言い辛そうに口詰まる。
そして、当て付けのように、私の髪を、両手でぐちゃぐちゃにかき乱した。
「きゃー! ちょっと!? やめてくださいっ!」
突然の蛮行に、私はライナーさんから慌てて距離を取った。乱された髪を手櫛で整える。
抗議のために、私はライナーさんを軽く睨んだ。
「はっはっはっ! 酷ぇ格好」
「貴方のせいですっ!」
確かに、服は泥まみれ。無理して長い距離を走ったせいで、汗も掻いている。髪は言わずもがな。……とても人様の前に出られる姿ではない。
自覚すると、苛々してきた。苛々を押し殺すように、ライナーさんから離れた所に、私は座り直す。
すると――――
「ちょ、ちょっと! どうしてこっちに来るんですか!?」
「……いや、なんとなく」
私の座る方へと、ライナーさんはじわじわとにじり寄ってくる。私が再び距離をとると、ライナーさんもそれに合わせて追尾。
「……っ」
「…………」
とうとう、端まで追い詰められてしまう。
気がつけば、肩がピッタリと密着していた。チラリと横を向けば、すぐ傍に端整なライナーさんの横顔。芸術品のようなそれに、胸がほんの僅か高鳴る。
「は、離れて……ください……」
「なんで?」
「な、なんでって……その、私……汗とかかいてますし……」
「ああ、俺気にしないから」
私が気にするんです! そう言いたかったが、喉の奥まで乾ききって、それ以上言葉が出てこなかった。
それどころか、ライナーさんは私の肩に手を回してくる。
「……ひぅっ!」
さすがに身の危険を感じた私は、逃れようとするものの、ライナーさんの力は強く、押し返すこともできない。
だけど、本気で抵抗しようと思えば、私にだってもっとできることがあるはずだ。逆に言えば、私は押し返す程度の抵抗しか、しようとしなかったということ。
――なんでっ、こんな……。
ライナーさんの身体は暖かかった。気を抜けば、その胸元に引き摺りこまれてしまいそうな程に。どうして、こんなにも嫌悪感が沸かないのだろうか……。私は男性に対しての免疫がほとんどない上に、トラウマからくる苦手意識すらあるというのに。
その原因は、きっと……。
「どうだ? 暖かいだろ? お前は一人じゃないって分かるか?」
「……はい」
ライナーさんには、下心が一切ないから……なのだろう。彼は、私を子供としか認識していない。十歳児の少女を扱うように、私も扱っている。
「お前は本当に馬鹿だ。でも、お前に馬鹿な事をさせた周囲の環境はもっと馬鹿だ。……それに、その責任の一端は俺にもあるようだ。だから、シアン……お前に新しい道を示してやる」
「……道……ですか?」
私は横を向く。
彼の唇が、触れ合いそうな距離にあった。心臓が大きく高鳴る。今度は、明確に。
「俺の故郷に孤児院がある。院長は信頼できる人だ。そこで、やり直してみる気はないか?」
「……やり直す……」
「そうだ。今度は一人じゃなく、多くの子供達……家族と一緒に、な」
私は、その光景を想像してみた。
泣きたくなるくらい、幸せな光景のように思えた。
でも――。
「で、でも……私、追われてるのに……」
相手は放火した上で、金品を略奪したかもしれない相手。一度目を付けられたら、そうそう逃がしてはくれないだろう。まして、お金を持って逃げた相手となれば……。
「気にすんな」
ニヤリと笑って、ライナーさんが立ち上がった。
「子供を守るのは大人の役目さ」
自分も泥棒のくせに、悪魔のくせに、彼はまるでヒーローの如く。ライナーさんの姿は輝いて見えた。
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