第百十六話「二人のリベンジ(2)」

 少しずつにじり寄ってくるカマキリを真正面に捉える。

 相手の鎌はまだ垂れ下がっているが、間合いに入れば持ち上がり、俺を両断せんと襲いかかってくるのだろう。

 大きな緑色の体に比べてとても小さな頭は不規則に動き続けている。


 はっきり言ってキモい。


 こんなやつは、ささっと片付けてしまうに越したことは無い。

 俺がカマキリに狙われていると知れば、アウィンが飛んでくる可能性もある。もちろん、特攻蜂の団体さんもご同行だ。

 そうなる前に仕留めるためにもすぐに終わらせよう。


「ラピス、状況確認だ。俺に向かってくるタンクマンティスは何体いる?」

『全方位確認。一体のみです、ご主人様マスター

「相手の高さは約二メートル二十センチ。デカい方の個体だな」

『体長に関しては視認できません』

「いや、動き回る作戦は使えない。奴と俺達を結ぶこの直線上だけで勝負する。体長は気にしなくていい」


 視線をズラし、周りを確認する。

 ラピスを狙い続けているカマキリや蜂がうじゃうじゃいるこの状況。大きな音を出したり、下手な攻撃を当ててしまえば瓦解してしまう危ういバランスで成り立っている。


 そんな中、格上との戦闘だ。

 格上っつっても、雑魚モブに分類されるやつなんだろうけどな。

 相手が一体だけってのが唯一の救いだろうか。


 近付いてくるカマキリへ向かってゆっくり歩を進める。

 手元にいるラピスを一人にまとめ、できるだけ大きくして右手に。

 大丈夫。やりようはある。


 カマキリの持つ両の鎌が持ち上がり、俺がもう一歩踏み出した時、片方のソレが振り下ろされた。


 右側、水平から三十五度上。鎌自体は七十度回転して襲ってきている。

 鎌の稼働部は俺から一メートル十センチ離れてるな。


 そこから導き出される計算結果は。


「右側頭部、耳から四センチ上」

『お任せ下さい』


 カマキリに正面から攻撃されるのは経験済みだ。

 それに、さっきまでタンクマンティスの挙動を観察し続けてた訳だしな。

 攻撃場所を予測することくらいならできる。


 左鎌はまとめたラピスによって動きを止められた。

 いつもより小さくたって《物理攻撃無効化》は衝撃も吸収してくれる。俺の頭が吹っ飛ぶことはない。


 で、片方の鎌が止められたならもう一方の鎌を使うんだろ?

 だが、その前に新しいデータを貰おうか。


 右手を伸ばし、伸びきった左鎌の固そうなところへと狙いを定める。


「《闇球》」


 唱え終わると同時にカマキリの右鎌が俺の腹を目掛けて動き始める。


 だが、同時に闇球がカマキリへ到達。HPを削った。

 消費MPは六百。全て威力に振った、四倍の闇球だ。


 鎌のスピードが上がる。もう後は俺の横腹をかっ裂くだけ。

 その前に必要なことを終わらせる。


 相手のHPはどれだけ減った?


 汚らしい鎌が迫る。


 四倍闇球で二割ってとこか。


 俺の血を吸うため、鎌が迫る。迫る。


 左手は肩から水平の位置にまで上げておく。


 鎌が俺の着ているローブに触れた。


 残っているHP、八割程を削り取るには……。


「ぐぅっ……、ふっ、くぅ……!」


 腹が裂かれた。

 皮が切れ、身が弾け飛び、肋骨は砕かれ、内蔵をかき混ぜられる。


 違う。そう思わせるような痛みの信号を受け取っているだけだ。


 ボヤけた視界で確認する。

 緑色の鎌はローブすら切り裂くことはできずに止められている。

 そして、その上に置かれるように添えられた肌色。


 痛みで脳が働かないなら、痛みを加えられる前に考えておけばいい。


 あとはただ、既に設定を終えた魔法を撃ち込むだけ。


 チェックメイトだ。


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ご主人様マスター

「悪い、頭に響くから今は話し掛けないでくれ。俺は大丈夫だから」

『…………』


 とりあえず、何とかなったのだろうか。

 一時的に気を失う前、倒れ込めばアウィンが何をするか分からず怖かったのは覚えている。

 さっきまでカマキリ達を観察していた体勢に見えるよう座り込んだつもりだったが、アウィンもそれを追う蜂も来ていない。よかった。


 周りのカマキリ達も変わらずラピスへと攻撃し続けている。

 変わったのは、俺の前から一体のタンクマンティスが消え去ったことだけだ。


 腹に攻撃を受けた時、考えていた事は二つのみ。

 声を出さないようにすることと、左手から闇球を撃つこと。


 叫び声で敵モブが集まってくることは悪戯エイプの時に実証済み。

 ターゲットを集める可能性があるのなら、声は出しちゃいけない。


 そして、左手から闇球を撃つことだが、これは魔法をカマキリの上から下へ撃つための方法だ。

 横から撃ったり、真正面からぶつけたりすればカマキリはポリゴンとなり、直線上にいる他の敵へ当たってしまう。


 足をカマキリの下へ滑り込ませ、上へ向けて撃つことも考えたが、それをすると空中にいる特攻蜂へ当たる可能性があった。

 正直、俺が単身で機動力のある特攻蜂に勝てる確率は低い。

 毒になってしまえば詰むだろう。MIN精神力は初期値だし、攻撃受ければ終わりだな。


 カマキリの攻撃で《即死回避》を発動させることは前提だった。

 《即死回避》は最終手段ではない。HPを回復させれば何度でも使える便利な作戦だ。

 《即死回避》後に魔法を撃てるか少し心配だったが、前にも《即死回避》発動後、タンクマンティスを吹っ飛ばしたことはあった。恐らくできるだろうとは思っていたが、不安がなかったと言えば嘘になるな。


 後は簡単だ。

 片方の鎌をラピスで受け止め、その隙に魔法を一度当てる。

 HPの減った量から、残りのHPを削り切るにはいくらのMPを消費すればいいのかを計算して実行。それだけだな。


 上から下へ魔法を当てるには、回り込むこともできないし、攻撃してきた鎌に当てる以外に方法は無い。

 《即死回避》によって、受け止めた鎌の上に左手をあらかじめ移動させておくことも大事だな。

 声を出さないようにすれば、全身に力が入る。左手の位置がズレることも早々ない。


 意識が途切れる前に、消費MP三千の十六倍闇球を発動すれば終了だ。

 持ってかれるのは俺の気力と精神力だけだった訳だし、大勝利ってやつだな。


 まあ、MPを合計三千六百使ったのは痛いが。

 “スケルトンウィザードの呪鞭”が無ければどうなっていたことやら……。


「ふぅ、大分マシにはなってきたな。心配かけてすまんな、ラピス」

『お願いですから、もう少々、ご自愛くださいませんか?』

「仲間を盾にしてんだぞ、こっちは。なのに、俺だけ安全安心な作戦なんて立てられるかってんだ」

『ワタシは痛みなんて皆無ですから』

「それでもだ」


 トパーズとアウィンは……。

 問題なく、俺の指示に従って自分の役割を全うしてくれているな。

 フェアリー達の方はどうなっているか……。


 そう思って顔を前に向けた時、俺の目に信じられないものが映った。


 今、タンクマンティスの間に見えた、あれは……!


「何考えてんだ、あいつ!?」

ご主人様マスター、何処へ!?』

「バカを止めに行く!」


 見失ってしまえばどこへ行ったか分からなくなる。

 すぐに追いかけねえと……!


 やっと会えたフェアリー達に背を向け、敵の蔓延はびこる森へと飛んでいく小さなフェアリーを追って、俺もせっかく切り開いた道を駆け戻る。


 何考えてんだよ、チンチクリン……っ!


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