第百四話「風種」
「《風種》、《火球》! 《闇種》!」
『後続の追加、その数、二です』
「《風種》、《風種》! 《火球》! ハーピー! もちょっと急げ! 対応しきれねえぞ!」
『く、くぇー』
ユズとケンの助力もあり、プレイヤーの魔法や弓矢が届かない高さにまで飛んできた俺達。
やっと一息つけると思ったのも
さっきは下からの襲撃だったが、今度は頭上からハーピーの群れが襲ってくる……!
なんだよお前ら! 町の方狙えよ! こっち来んじゃねえ!
とまあ、そんな風に叫んだところで『ギー』やら『グェー』としか返って来ず、家に帰って行く訳でもない。
となると倒すしかないんだが、先ほどボイドボールとかいう魔法を
満足に迎撃もできない!
しかも、やっと一体倒したと思えば三体四体と援軍が到着する始末。
巣に近付いてるから当たり前ではあるんだが、軽く詰んでねえか?
だが、こっちに有利なこともある。
相手の数が多くても、俺達に攻撃を仕掛けられるのはせいぜい四体が限度だということ。
ハーピーとヒューマンが縦に連結してる分しか的の大きさがないからな。数が多くたって後ろで手をこまねいている奴らはものの数には入らない。
「《風種》、《風種》! 頭上と翼はどうだ!?」
『頭上でホバリングしている個体が一体。攻撃の可能性があります。翼に関しては今の所問題ありません』
「攻撃来たら言ってくれ!」
『了解しました』
俺達に攻撃できるハーピーの数は限られている。
だからこそ、風種で体勢を崩すことができれば一時的だとしてもその方向の盾となる。
火球などの攻撃魔法は極力使わない。使うとしても、風種で動きの止まったやつを至近距離で狙う。
外したらその魔法が消えるまで攻撃魔法が使えなくなるからな。
そして、ラピスに確認を取っていた頭上と、俺達を運んでいるハーピーの翼。
ここは俺の目からは確認出来ず、対応もしにくい。狙われたら厄介なところだ。
ラピスの一人をハーピーの頭へと移動させ、もし攻撃が来たらすぐに教えるように伝えてある。
と言っても、自我持ちよりプレイヤーを優先して狙うようだから、頭上や翼にはあんまり攻撃は来ないんだがな。
よし、そろそろ壁の上側まで行けるな。
時間稼ぎをすることだけ考えて魔法使ってたが、ちゃんと向かってくれていたようでよかった。
壁を超えるために近付いていく。
うおっ!? 急に足の感覚がなくなった!?
思わず太ももの筋肉を使って、体を丸めるように引き上げる。
侵入不可区域に突っ込んだのか。
足だけ入ると気持ち悪いもんなんだな。
「さて、壁に降り立つか、そのままハーピーに運んで貰うかだが……。まだ行けるのか?」
『……かー』
「うん、よくわかんねえな。まあ、そこら辺は任せる」
『……くぇー』
正直、壁の上部を移動するのも、運んで貰うのも一長一短だ。
自分の足で移動するのなら、襲ってくる包囲が単純に半分となる。地面からハーピーが襲ってくることなんてないだろうしな。
だが、移動と迎撃を同時にこなす必要が出てくる。
これだけなら俺が頑張ればいいだけだが、俺の速度は亀、いやスライムレベル。
時間をかければ、それだけ不利になる。ハーピーがまだ運べるのならもう少し頑張って貰いたいところだ。
そういえば、もうそろそろMP回復薬のクールタイムも終わる。
もう一つ、割っておいた方が良さそうか。
壁の上部が見えてきた。
後は、ここさえ横断できれば……!
~~~~~~~~~~~~~~~
~~~~~~~~~~~~~~~
「《風種》、《風種》、《風種》!」
『二百二十五度、仰角六十度接近』
「《風種》!」
さすが、ハーピーの巣。本拠地だ。
ちょっとこれはもう対応しきれない!
まだまだ俺を運ぶ気力は有り余っているようだったので、歩かずに自我持ちハーピーに運んで貰っているのだが……。
これはむしろ、歩いた方が良かったか?
三次元的な全方位をカバーはさすがにキツすぎるぞ!?
既に攻撃魔法で少しでも数を減らそうとする余裕はなくなった。
風種で動きを止め、阻害し、撹乱する。
しかも、ここはハーピーの
壁の向こう側まで行けば後は落ちるだけ。
距離だってそこまで遠くはないのに、遥か彼方に感じる……!
「《風種》、《風種》! くそ、あと少しだってのに!」
『三百十五度、仰角マイナス四十五度接近』
「《風種》!」
『……くぁー』
ずっとこれの繰り返しだ。
思うように進めねえ!
自我持ちハーピーは大丈夫か?
脚爪がより一層強くくい込んだ。
表面上は元気なように見えるが、体力の限界が近かったりするのだろうか?
『…………くぇ』
なに、なんだ!?
ハーピーが俺達を前後に揺さぶり始めた!?
待て、マジでそれ肩が痛いから!
ゴリっつった! 今、肩が削れた気がする!
「やめろ! いきなりなんだってんだよ!? 狙いが付けにくいだろが!」
『…………くー』
「……おい、まさか!?」
脚爪がまた一層強く握られる。
そして、ハーピーの視線は壁の向こう側。
こいつ、俺達を放り投げようとしてねえか!?
確かに、空中ではばたき続けるハーピーは邪魔にならないよう間隔を空けて飛んでいる。
投げれば包囲を突破できるし、速度もある程度生まれるな。
風種を上手く駆使すれば、壁向こうへと到達することだってできるかもしれない。
だが、そうなってしまえば……!
「んなことしたら、お前はどうなるんだ! 俺達の援護もなしで、この数に囲まれてんだ! 確実に死ぬぞ!?」
『…………きゅー』
「《風種》! おい、止めろ! 大丈夫、しのぎ続ければ突破できる!」
『…………ぴゅぃ』
ダメだ、通じてない。
というか、ハーピーに聞く気がない。
むしろ、どんどん覚悟を決めに行ってねえか!?
言葉での説得は無理。
なら、その必要がないと分かってもらうしかない。
何か。何かないか。
この状況で、一気に優位へと立てる方法。
ハーピーが死を覚悟する必要のなくなる方法……!
『十五度、水平方向。六十度、同方向!』
「《風種》、《風種》!」
ダメだ。
一体ずつ相手するんじゃ何も変わらない。
この周りを飛んでいるハーピーの群れ全員を、せめて牽制することができれば……!
そう。例えば、あの時の。
二体目のボス“スケルトンウィザード”の使っていた
『百八十度、仰角六十度。同角度、水平方向からも来ます!』
「これくらいなら、一発で! 《風種》!」
……そうだ。
一回の《風種》で二体の動きを止めながら考える。
風種には範囲がある。ある地点から風を吹かせているのだから、その方向には広がりを持つはずだ。
なら、魔法が作用しているものはなんだ?
《風種》という便利魔法は“風”というモノを生み出しているんじゃない。
スタート地点にある空気に指向性を持たせているんじゃないのか!?
もし、そうだとしたなら。
この魔法を同じ魔法の中継地点として“設置”していけば、あるいは……!
俺達を運んでいるハーピーの揺れが激しくなってきた。
掴んでいる脚はプルプルと震えている。そりゃそうだ。自我があるなら死ぬのは怖い。
それでも、投げるのをやめようとはしない。
もう、一刻の猶予もない!
「《風種》!」
目の前に風のスタート地点を生み出す。
その先にまた、もう一つの《風種》を。“スケルトンウィザード”のような綺麗な球状にはできなくてもいい。
なんとか、俺達に近い位置にいるハーピーを牽制できればそれで!
「《風種》! 《風種》《風種》《風種》!」
『
風種で俺達を取り囲むように設置していく。
そして、最初の風種の位置にまで到達した時、それは起こった。
言うなれば、そう。風が爆発した。
俺達の周りを一周するような風の帯。それが、瞬く間に暴風となって吹き荒れる……!
現実では起こり得ない、現象。
風種のオーバーフロー……?
なんにせよ、今、この瞬間、周りのハーピー達は体勢を崩し、また、他のハーピーにぶつかったりして墜落している。
中心にいた俺達にも突風の影響はあったが、周りに誰もいなかったことが幸いした。
今なら、一気に!
「ハーピー! 行け! 今なら投げることも無いだろ! 死ぬ必要だって無くなる!」
『…………ぴ』
「ほら! 《風種》!」
ハーピーの背を押す風種。
今までの飛行を阻害する風ではない、後押しする風だ。
『……ぴゅ。……くぁー!』
「よし! これで……!」
壁の向こう側。広がる森。
いきなり視界が広がっていく。
足元に群がる敵モブ達。
町を襲撃しに行きたいのだろうが、プレイヤーが一人も正規の方法で北エリアへと進んでいないため、扉は開いていない。
その結果、扉の前でたむろすることになったのか。
そして、一目見て分かる。
森の一部分で起こっている異変。
俺から見て右側の森だけ、木がいくつもなぎ倒されている。
おそらく、あの場所がフェアリーの里。
俺達の目的地……!
「ハーピー、もうひと踏ん張り頼む!」
『……くぇー』
待ってろ、チンチクリン達。
もう少しだけ、耐えていてくれ……!
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