第九十四話「数時間ぶりの再開」

 薄暗い森の中、奇襲に警戒し、“妖精の鱗粉”を集めながら右へ左へと進んでいく。


 妖精の鱗粉はあまり集まっていない。

 見付けることが難しく、見付けても量は少ない。

 途切れることなく妖精の鱗粉を伝って進むことはできているが、何かに導かれている気もする。


 このまま進んでもいいものか。

 いや、死に戻りしたとしても妖精の鱗粉は欲しい。

 罠であろうが何だろうがプラスになることに間違いはない。

 ラピス達を危険な目に合わせるかもしれないことだけが悩みの種だ。俺にできる限りの警戒をしておこう。


「はい、お兄ちゃん! 次は向こうです!」

「おう、ありがとう。枝に乗っかるのはいいが、奇襲の警戒もしといてくれよ。ほら、そこの知恵の輪みたいな枝の影。そこに潜んでるかもしれない」


 てか、ほんとこの辺りの木は一体どうなってんだ。

 波や丸型なんて当たり前。ジェットコースターのレールのように入り組んでやがる。


 地図を見てみると、一応は第二エリアに入ったようだな。すっごい端の方だけど。


 そういえば、奇襲も少なくなってきた。

 第二エリアでは奇襲する敵モブがいないからだろうか。

 違う敵モブが湧くのなら、そいつのドロップ品も確認したいところだな。


『……くけー。くぁー』


 そして、このハーピーな。

 まだついて来ている。エリア移動すれば帰るかと思ってたんだが、むしろ辺りに漂う光の玉が増えて狂喜乱舞してんな。


 アウィンから妖精の鱗粉を受け取りながら考える。

 確かに俺達はあのチンチクリンのフェアリー達が帰った方向へ向かった。

 だが、結局は妖精の鱗粉に誘われるようにあっちへふらふら、こっちへふらふらと真っ直ぐには歩いていない。

 だから、フェアリーの里に近付いている訳ではないと思っていたんだが……。


 妖精の生み出す光の玉。

 これが多くなって来ているのは何故だ?


『っ! ……くぇー?』

『旦那。今、何か変な感じが』

「トパーズ? なんだ、どうした」

『いや、よく分かんねぇけど、空気が変わったっつーか』


 空気が変わった?

 空間移動とかか?

 ミニマップを見てもおかしな所はないぞ。


 だが、トパーズだけでなく、ハーピーも変な反応をしてたな。

 となると、偶然や気のせいではないのかもしれない。


「気を付けろ。もしかすると、いきなり何かが襲ってくるかもしれな」

『やっほーっ! マスターで旦那でお兄ちゃんでぴかぴかの人ーっ!』

「うおっ!? チンチクリン!? なんでお前がここに」

『ちょっと、ヒメ! 急にどこへ……。なっ、ヒューマン!? あんた、なんでここへ……!?』


 うわ、友達の方まで出てきやがった。

 お前ら、フェアリーの里ってとこに帰ったんじゃねえのかよ!


「わっ、ヒメちゃん、ミドリちゃん! また会えたね!」

『アウィンちゃんやっほー! 感動の再会だよー!』

「お前ら、別れてから一日と経ってねえぞ」

『ああ、そうだね。一日と経たずにヒューマンが里に辿り着くなんて……。答えて。どうやったの』


 チンチクリンとアウィンが何時間かぶりの再会を果たした横で、その友達から魔法を突き付けられてるんですが、どういうことでしょうかね。


 てか、里?

 ここがもうフェアリーの里だってことか?

 ミニマップ上ではなんの変化もない。里だって言うから町とまではいかないが、中間地点ぐらいはあると思ってたんだがな。


『あ、ミドリちゃん、ミドリちゃん。アウィンちゃん達はわたしが連れてきたんだよ!』

『はあ!? ヒメ、あんたそれどういうことだよ!? 一緒に帰って一緒にお説教食らってただろ!』

『これだよ、これー』


 チンチクリンに連れてこられた?

 何言ってんだ。俺はむしろ、フェアリーの里は諦めて妖精の鱗粉を集めることしか考えてなかったんだが。


 で、連れてきたと言い張るチンチクリンは、自分の背中にある薄い青色の翅をパタパタと動かしている。

 まさか。


『まさか、あんた。鱗粉を使ったんじゃ』

『ピンポーン! ミドリちゃん、せいかーい!』

『ヒメ! 自分が何やってるか分かってるの!?』

『んー? お友達をおうちに招待』

『フェアリーの天敵、ヒューマンを里へ案内したんだよ!』


 ……ふむ。

 つまり、あれか。

 妖精の鱗粉はドロップ品じゃなく、任意で生み出せる生産アイテムってことか!


 ってことは、だ。

 こいつらと仲良くなっておけば、鱗粉が大量に手に入る可能性が高い!

 だが、フェアリーとヒューマンという種族は、何やら結構な因縁がある様子。


 フェアリーの天敵ねぇ。

 まあ、こんな“妖精の鱗粉”なんて代物を生み出せるとなれば欲深い人間は捕まえようとするのだろう。

 実際、俺も欲しいし。


 ただ、なあ。

 敵だと分かってても、相手が人間じゃないと知っていても、ただのデータじゃない自我があるのなら、もうそれは一つの命だ。

 殺したいなんて思わない。


 ま、こんな考えしてるのなんて、テイマーであり、しかも話すことができるテイムモンスのいる俺ぐらいだろうな。

 あとはエリーもそうだが、あいつはどうなんだろうか。

 興味はないからどうでもいいが。


『ってことは、ヒメ。あんた、幻覚魔法の結界を通る道順まで知られたってこと!?』

『えー、さすがにそれは覚えられるはずないよー。それにさ、わたしだって何も考えてない訳じゃないよっ。アウィンちゃん達はおばば達の言ってた酷いことをする人なんかじゃないもん』

『あんた、それ根拠は』

『雰囲気! あと、乙女の勘!』

『……はあ』


 おいおい、勘を馬鹿にするもんじゃないぞ。

 経験からくる直感には考慮する価値がある。


『あんた、最近里から出る許可貰ったんだからヒューマンに会ったことないでしょ』


 前言撤回。

 その勘は信用しちゃいけないやつだ。


『で、アウィンだっけ? それと、マスターだか旦那だかよく分かんないやつ。あんたも呼び名たくさんあんのか、それじゃヒューマンにさせて貰うぞ』

「お、おう。まあ、別にいいが」

「えっと……、なんでしょうか」


 言われてみれば色んな名前で呼ばれてんだな、俺。

 最後にテイクって名前を呼ばれたのいつだよ。


 あと、アウィンは友達の方には敬語なんだな。

 あんまり話してなかったっぽいしな。


『ヒメにはああ言ったが、ほんとはあんた達二人は他のヒューマンと違う気もしてる。でも、あたしだってヒューマンを見ることなんてほとんど無かったし、話したのだって初めて。だから、それが正しいのかどうかも分からない』

「…………」

『もし、里のみんなにヒューマンが来たって知られたら大騒ぎになる。戦いになるのは絶対』


 まあ、天敵が自分達のテリトリーに入ってきたのなら、追い出すか逃げるかするしかないよな。

 さっき魔法を撃とうとしてたし、自衛手段があるなら迎撃しようとしてもおかしくはない。


『ミドリちゃん、きっと大丈夫だよー。みんな、分かってくれるって!』

『ダメ。ここではっきり言っておく。あんた達が他のヒューマンとは違うと信じてるからこそ、頼む。何もせず、この里から立ち去って欲しい』

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